その20(№1981.)から続く


これまで20回にわたり、気動車特急の半世紀の歩みを眺めてきましたが、その連載も今回で最終回を迎えます。

そこで今回は、これからの気動車特急はどうなるのか、未来の展望を管理人の独断と偏見で考えていきたいと思います。もちろん、異論・反論大歓迎です(^^


1 地球環境への負荷の軽減


これまで本連載は、気動車特急の運転系統を中心に眺めてまいりましたので、気動車そのもののメカニズムには、あまり深くは触れてきませんでした。

実は、特急用気動車は、始祖のキハ81系から最新鋭のキハ189系まで、全ての車両が「液体式」といわれる動力伝達方式を採用しています。これは、ギアの変速を液体変速機(トルクコンバーター)で行い、エンジンの運動エネルギーを車輪に伝える方式で、自動車のオートマチック車(AT車)と原理は同じです。気動車の動力伝達方式はその他にも、①自動車のマニュアル車と同じように、クラッチでギアを操作する方式(機械式)、②エンジンを走行用ではなく発電用に割り切り、走行に必要な運動エネルギーは電車と同じくモーターから得る方式(電気式)があります。①の方式は、原理が簡単でエネルギーロスが少ない長所がある一方、ギアの操作のタイミングを合わせるのが難しいため総括制御ができなかったこと(したがって長編成は組めない)、②の方式は運転取り扱いは簡単という長所はあるものの、重量が重くなりすぎ(したがって単位重量あたりの出力は落ちる)路盤の脆弱なわが国には不向きという理由で、1950年代のキハ45000(→キハ17系)で液体式の技術が確立、その後国鉄・JRで製造されたほぼ全ての車両が「液体式」で製造されています。

しかし、昨今のエレクトロニクス技術の進歩や、エンジンの発電効率の向上・モーターの小型軽量化により、機械式でも総括制御が可能になり(デンマーク国鉄の特急用気動車)、電気式でも重くなりすぎなくなっています。

「電気式気動車」の復活として注目されるのが、JR東日本のハイブリッド・ディーゼル車キハE200のメカニズムです。この車両は、ディーゼルエンジンを発電機として用い電動機で走行、さらに蛇行やブレーキの際には電動機を発電機として使用し発生した電気を蓄電池に取り込むという、電車の回生ブレーキの原理を取り入れた省エネ車両です。


余談ですが、「ディーゼル・ハイブリッド車」は、JR北海道も試作車を登場させており、こちらは「プリウス(トヨタ)」や「インサイト(ホンダ)」など自動車のそれと同じになっています。「モーターアシスト式ハイブリッド」といわれるもので、発進・停止の際にモーターを使用し、走行の際にモーターとエンジンを両方使用、さらに走行中に発電して蓄電池に蓄えるという方式です。


今後の特急用気動車は、さらなる地球環境への負荷の低減や効率化が求められますから、ことによると「新しい機械式」あるいは「新しい電気式」の気動車特急が世に出るかもしれません。


2 電化区間と非電化区間との直通


これはかつてJR西日本が電車に気動車を牽引させる形で実施していましたが、このような方法は電車が一定の長編成でないと無理だという限界があります。さりとて、JR九州が実現させ現在はJR北海道が実施している電車との協調運転も、現状では成功しているとは言い難く、今のところは現実的な選択肢たり得ません。

そこで注目されるのが、前項のキハE200のメカニズムです。キハE200は紛れもない「電気式気動車」ですから、屋根に集電装置を搭載してしまえば、電化区間を電車として走行することができます。

余談ですが、海外には、電気式気動車(機関車だったかな?)にパンタグラフを搭載して電化区間を走る車両もありますし、わが国でも神中鉄道(現相鉄)の電気式気動車がパンタグラフを搭載して電車に生まれ変わった例もあります。

何が言いたいかというと、この原理を利用すれば、電化区間と非電化区間との直通が容易になりますし、さらに電化区間における電車との協調運転もより容易になることが見込まれるということです。

このような車両が有効活用できそうなのは、関西-山陰間の特急列車ですが、あの技術はそもそもJR東日本が確立したはずなので、まさかJR西日本に供与するとも思えないんですよね。ではJR東日本に適した区間があるかといえば、中央東線→小海線くらいでしょう。東北でも使えなくはないでしょうが、交流電化なのでそのための機器を搭載するしかなく、それなら気動車のままでいいのではないかという気もします。


ただ素朴な疑問として、屋根の上にパンタグラフを乗っけて、非電化区間だけパンタグラフを下ろしてディーゼルエンジンで発電、モーターを回して走るなどという列車、私たちが抱く気動車特急のイメージから、大きく外れてしまうような気がしてならないのですが…。


3 観光用特急としての、気動車特急の将来性は?


以前の回で述べたとおり、気動車特急の運転エリアは限られてきました。

しかし、JR発足後、それまで特急列車が運転されたことがなかったような路線にも、特急列車が運転されるようになっています。

これは、JR九州がリードしているといってよい「観光用特急」のジャンルですが、それまでの「遠い都市と都市の間、又は都市と観光地との間を迅速かつ快適に結ぶ列車」としての特急列車とは、かなり毛色が異なっています。車両は改造とはいえ専用のものを用意し、しかもその車両には、遊び心にあふれたさまざまな仕掛けが施されている、言ってみれば「乗ること自体が旅」という、「乗る楽しみ」を極限まで追求したのがこの種の列車といえるでしょう。

このような「観光用気動車特急」は、気動車特急のひとつの将来像を示したものといえますが、問題は観光用に特化されているため、列車そのものが遊園地のアトラクションのような性格になってしまい、沿線利用者を締め出す形になるのではないかという点です。このような問題は伊豆急の「リゾート21」でも指摘されていますが、「ゆふいんの森」以外は速達性を求めておらず、かつ沿線のビジネス・用務の需要には応えていないので、この点は杞憂に終わろうかと思います。


他線に広がりそうではありますが、あまり広がりすぎても食傷気味になるような。その意味では、JR九州以外での登場に期待したいところです。


最後に。

いつも連載のテーマが終わるたびに言っていますが、今回の全21回の記事の作成もなかなか大変でした。また、テーマを運転系統中心にしたため、メカニックや車両の装備などハード面は端折ってしまった面もあり、それはちょっと残念に思っています。

ですが、記事作成のたびに新たな発見があり、またコメントでの御指摘をいただいて、私自身勉強になることもたくさんありました。

これで本テーマとしては終了となりますが、来週からは…まだタイトルは決まっていませんが、VVVF車25年の歩みを回顧する連載を開始しますので、どうぞお楽しみに。


長らくのお付き合い、誠にありがとうございましたm(__)m


―完―