その19(№1957.)から続く

出雲・鳥取から帰っても、今週は出張等が立て込んでおり、なかなか更新ペースを守れない管理人です(挨拶

というわけで、出雲・鳥取ツアーの顛末も熟成した内容でアップしたいのですが、まず昨日火曜日にアップすべきだった連載記事から参ろうと思います。
今回は、JR九州に花開いた観光気動車特急を取り上げます。

観光気動車特急は、文字どおり観光客の利用に特化し、内外装にジョイフルトレインの発想を取り入れた列車、と定義することができようかと思いますが、JR九州におけるこの意味の列車の嚆矢は、昭和63(1988)年に誕生した「オランダ村特急」です。この車両は完全な新製車両ですが、翌年には改造によりもっと徹底した車両が世に出ます。

1 久大線「ゆふいんの森」

JR発足当時、久大線にはキハ58系による急行「由布」が運転され、福岡-日田-大分の都市間輸送、また日田や湯布院への観光輸送を受け持っていました。そこで湯布院などの観光の活性化を狙い、特急用気動車を導入することになります。
その車両とは「ゆふいんの森Ⅰ世」ことキハ71系ですが、キハ71系はキハ58・65形の走り装置を再利用し、車体を新造したものです。注目すべきはその風貌で、1930年代のドイツの高速気動車列車「フリーゲンダー・ハンブルガー」に似たものとなり、オリーブグリーンの塗装にハイデッカーかつ木質感をふんだんに盛り込んだ客室と、完全にリゾート客の利用に特化した仕様となっています。
キハ71系を使用した特急「ゆふいんの森」は大人気を博し、平成4(1992)年には増発用として「オランダ村特急」のキハ183系を改造し、「ゆふいんの森Ⅱ」として世に出します(ゆふいんの森Ⅱ世)。
平成11(1999)年には完全新造車として、キハ71系の内外装をより洗練させたキハ72系を導入し(この車両が『ゆふいんの森Ⅲ世』といわれることがある)、キハ183系は長崎-佐世保間の特急「シーボルト」に転用されます。
特急「シーボルト」は短命に終わり、平成16(2004)年にはキハ183系を再改造して「ゆふDX」として投入されました。ことほどさように流転が続いたキハ183系ですが、今年からは阿蘇の観光列車「あそぼーい」として内外装を改め、豊肥線に投入されています。
ちなみに、元祖「ゆふいんの森」・「ゆふいんの森Ⅰ世」ことキハ71系ですが、平成15(2003)年に走り装置の換装などのリニューアルを受け、現在でも元気に走っています。この車両は、車籍の上ではキハ58・65の生き残りですが、恐らく種車の部品はどこにも残っていないと思われます。
「ゆふいんの森」は現在でも人気が高く、日田や湯布院への観光客を運んでいます。

2 日豊線・吉都線「はやとの風」

平成16(2004)年の九州新幹線部分開業に際して運転を始めた列車が、鹿児島中央-吉松間を走る「はやとの風」です。
「ゆふいんの森」が、まがりなりにも特急用としてふさわしいスペックを持つ車両が投入されているのに対し、こちら「はやとの風」は、何と優等列車用ですらない一般用のキハ40・47形の改造となっています。当然窓は開きますし、キハ47からの改造車は種車の両開き扉が残っていますが、このような車両の登場は、当然のことながら鉄道趣味界では大きな話題となりました。また車両の内外装も、中は木材をふんだんに使用したウッディな作り、外はこれまでの鉄道車両ではSL以外に前例のなかった黒一色に塗られるなど、こちらも大きな話題を呼んでいます。
ダイヤも、海越しに桜島が見える竜ヶ水駅で数分停車するとか、古い駅舎が残る嘉例川駅などで長時間停車するなど、明らかに観光に特化されています。

3 指宿枕崎線「指宿のたまて箱」

これは前項の「はやとの風」と同じ発想の観光特急ですが、指宿枕崎線の鹿児島中央-指宿間を走る列車となっています。運転開始は九州新幹線が全線開通した今年3月からとなっており、車両もキハ47形を改造して用意されました。
こちらもあっと驚く仕様となっており、それは車両の側面の一方が白色、もう一方が黒色の塗装になっていること、浦島太郎の玉手箱伝説にちなみ、下車の際にドアからミストが降ってくる仕掛けが施されたことです。
指宿枕崎線では、平成4(1992)年から快速「なのはな」が走り、指定席車が組み込まれていましたが、「指宿のたまて箱」運転開始と引き換えに、指定席車は廃止されています。

4 日南線「海幸山幸」

こちらは前項「指宿のたまて箱」よりも2年早い平成21(2009)年からの運転で、宮崎から日南線を走り南郷駅までを結ぶ列車となっています。
この列車で特筆すべきなのは、何といっても使用車両。前項や前々項の観光特急は、国鉄から承継しJR九州が保有していた車両でしたが、「海幸山幸」の車両は何と、元高千穂鉄道のTR400形です。高千穂鉄道は元国鉄高千穂線を承継した第三セクターですが、平成17(2005)年の水害で路線が流されてしまい、復旧を断念してそのまま廃線になってしまったものです。そこでJR九州が車両を引き取り、「海幸山幸」用車両として、地元特産の飫肥杉を用いた内装とし、外板にも飫肥杉の板を張るなど、徹底したレストアを施しました。形式はローカル用のキハ125に編入されています(400番代)。

5 その他
その他にも、三角線での「A列車で行こう」などの運転が予定され、こちらはキハ185系の改造で用意されるようです。

ことほどさように、現在のJR九州では観光特急が花盛りとなっております。しかもそのほぼ全てが気動車での運転となっていることから、これらは気動車特急となっています。
御覧いただいたとおり、これらの列車は当連載でこれまで見てきた「気動車特急」とは明らかに一線を画する、かなり毛色の変わったものであることが分かります。特急料金というエクストラチャージの中には、①速達性に対する対価 ②快適性に対する対価 ③座席確保に対する対価 の3つの意味があると考えられますが、これら観光特急における特急料金は、明らかに②③の意味しかないといえます。
JR九州の観光気動車特急は、気動車特急のひとつのあり方を示したものであり、その点を評価すべきなのでしょう。

次回は最終回として、気動車特急の「未来予想図」を取り上げます。

その21(№1989.)に続く

※ 当記事は08/23付の投稿とします。