夜、城代家老・大杉の邸宅に、突然下級藩士・田島由之助が訪ねて来た。
こんな時間にと怒りを表す長男と嫁の代わりに、八重がその者を応対した。
田島の隣には、僧侶がいた。
八重は、一瞬背筋が凍る思いがした。
その僧侶こそ、田島の兄で八重の孫・藤千代を暗殺した張本人の田島敬之助であった。
無礼を承知で、火急の用があって参上したと、今は田島家の主である由之助が顔色を青ざめて言った。
冷静にその場を対応して、夫の大杉にその旨を伝えると、夫も顔色を変えて2人に面会した。
そして直ぐに、腹心で勘定奉行の香原を呼びつけた。
お茶を運びながら八重は、皆の様子を探った。
皆、思い悩んでいる顔であった。
話し声は聞き取れ無かったが、これはきっと清吉の事であると八重は察知した。
このことを、直ぐに清吉に知らせなければと思った。
そして、部屋へ入る振りをして、こっそりと家を抜け出し毎朝お参りする神社へ駆けて行き、木の枝に紙を結ぶと、とって返して屋敷へと戻った。
八重の後ろ姿を、茶屋の女将・おときが偶然にも目撃してしまうのである。