目次  (あらすじはこちら へ)

行商人の清吉は、城代家老の妻・八重の描いた絵を借りて、その場所へ向かった。

八重は、清吉に自分の見た夢の絵と言ったが、藤千代の事は話さなかった。

ただ「さるお方」としか言わなかった。


数日かかって到着した町は、八重の住んでいる藩からかなり遠くにあった。

海に面し、海産物が豊な上に温暖な地であり、米や作物も良く採れ、土地の生産物は運河を通じて船で江戸や各地に送られ、財政的にも潤っている賑やかな街であった。


八重の住んでいる小藩は閉鎖的で暗い印象を受けるが、ここの街は開放的で明るかった。


正しく、八重の絵の描いた場所であった。

清吉は、八重様に商売しにこの町へ行くと言ったが、実はそうではなかった。


一目で惹かれた八重様の為に、この町へ探索をしようとしていた。

清吉は町を歩き、絵と八重が結びつく情報を得るために、町を歩き始めた。


その中で、この町のはずれにある寺に、八重のいる藩の出身者が僧侶としていると耳にする。

僧侶は数年前に出家して、しばらく本山での修行した後に、2年前からここの由緒ある寺に来たという。

物静かで真面目で周囲の評判良く、暇さえあれば、昼は写経、夜になると仏像を彫り、修行に励んでいるという。

そして、僧侶は元武士ではないかとの噂を聞く。


清吉は直感で、その寺に行き僧侶に会えば何か得られると思った。


その寺を訪れた清吉は、僧侶に出会う。

清吉は、何気ない話から初め、やがて八重の描いた絵を見せた。

僧侶はその絵の話に興味を持った。


すかさず、清吉はこの絵はさる高貴な方が「ある方」の夢を見て描いたものだと話すと、僧侶は顔を青ざめてしまい、その場から逃げ出した。


僧侶は、寺の裏にある山へ駆け上がり、息が絶え絶えになりながら奥深くまで逃げた。

ここなら大丈夫だと走りを止めた瞬間、僧侶は腰を抜かした。


その場に清吉がいたのだ。


息一つも乱さずに僧侶の前に立つ清吉を見て、僧侶はこの者は只者でないことを知る。

これは真実を話すしかないと覚悟を決めた僧侶は、気を落ち着けて7年前の出来事を話し始めた。

続き