藤千代が江戸の上屋敷に到着し、正室・お静の方の子として迎えられた。
お静の方は、初めは生母・お雪の方を憎む余り藤千代を疎んじていた。
しかし、藩主に似た容姿の藤千代と暮らしていく内に、徐々に実の子の様に受け入れる様になった。
心穏やかに暮らせる様になった藤千代は、守り役に囲まれながら剣術や学問に励む毎日を送る。
藤千代の江戸での暮らしに慣れた頃、国許では一大事が起こった。
藩主と藤丸が、相次いで病に倒れた。
お雪の方が必死に看病するものの、状態は一向に良くならなかった。
そんな折、城代家老・大杉は、御殿医が薬に毒を混ぜて処方している事実を突き止める。
御殿医は、家老・加藤の従兄弟なのである。
大杉は、御殿医を捕まえて詰問し、とうとう加藤の陰謀を聞き出した。
加藤は、藩主と藤丸を亡き者とし、藤千代を次の藩主にさせ、藩政を握ろうと画策していた。
その夜の内に大杉は、目を掛けている配下の者を密かに江戸屋敷へと送り込む。
それから、間もなく藩主と藤丸は回復した。
話が違うと、加藤は御殿医を問い詰めるが、御殿医は藩主を手に掛けることは出来ないとその場から逃げ出してしまう。
怒りに燃えた加藤は、御殿医が別邸に隠れている事実を突き止めて向かうが、そこで目にしたのは自害した御殿医の姿であった。
失望に変わった加藤は、この裏に大杉が糸を引いていると察して悔しがった。
早速、次の手を打つべく、お静の方に密書を送るが、一向に返事が来ない。
焦る加藤だが、じっと待つしかないと動かずにいた。
藩主親子には、平穏な日々が戻って来て半年が経った頃、江戸から急な知らせが舞い込んだ。
藤千代が流行病で急死し、江戸家老と藤千代の守り役が殉死したと言う衝撃的な知らせであった。
藩主は驚き、事の次第を確かめるべく大杉に調査させたが、知らせの通りの結果であったと言う。
加藤は、慌ててお静の方に密使を使わしたが、密使はお静の方が藤千代急逝が原因で錯乱状態になった姿を目にする。
密使からその知らせを受け、自分の後ろ盾を失ったことに気付いた加藤であった。
我が子を失ったお雪の方は、やがて病になりこの世を去った。
寵愛した側室を失い、藩主は大いに落胆しふさぎ込む様になり、藩政の全てを大杉に任せてしまった。
その翌年には、正室・お静の方もこの世を去った。
それから再び、7年の月日が流れた。
藩の実権は大杉が握り、家臣も大杉派が多数を占めていた。
加藤は、家老職はそのままであるが、藩政の隅に追いやられていた。
そんな加藤に付き従う者は、ごくわずかになり、加藤の力は無きに等しかった。
次第に増長した大杉は、藩の財源である木材を扱う商人と結託し、裏金をせしめるようになっていく。
藩主は、大杉に勧められるままに、側室・お春の方を迎え、松千代を授かったものの、お雪の方を失った悲しみから立ち直れないでいた。
お春の方は、大杉の妻・八重の縁者で、お雪に似ている所を大杉に目を付けられたのであった。
それ故、藩主はお春の方に物静かだったお雪の方の姿を重ねたが、勝ち気なお春の方はそれに不満を抱いた。
松千代誕生からは藩主のお呼びがかからなり、事もあろうに松千代の守り役と密かに通じてしまう。
複雑な環境の中で、お雪の方の忘れ形見・藤丸は、嫡男となる筈だが、まだ正式な手続きをしていなかった。
それは、毒の影響で無事に成人するかと危惧されていたことと、藩主がどうしても藤丸を江戸へやることが出来なかった。
もうこれ以上、我が子を失いたくなかった。
嫡男が江戸へ行かねばならず、藩主の意を汲み取った大杉は、江戸家老を通じ、幕府の要人に贈り物をした。
江戸家老は、藤丸を江戸で住まないことについて、病弱の為に静養中であると説明した。
幕府の要人は、話が半分嘘だと分かっていても目を瞑った。
今まで側に付いていた養父はあの騒動の後に病で亡くなり、実父の藩主は亡くなった長男と瓜二つの藤丸を可愛がるものの、いつも自室に籠もりがちなので、藤丸はお城では孤独な生活を送っていた。
更に、盛られた毒の後遺症で時々襲う体の痛みに耐えながらも、藤丸は亡くなった養父・母・兄の為に嫡子としての努めを果たそうと心に誓い、日々研鑽に励むのであった。
そんなある日、大杉の妻・八重は夢の中で、亡くなった孫の藤千代に再会する。