時は、江戸時代。
山に囲まれた小藩で、世継ぎが生まれた。
しかし、双子の男子であった為、下の子を藩主の若い頃の剣術指南役であった家臣に密かに養子に出すことにした。
子を手放すときに、藩主は見事な誂えた刀をその家臣に与えた。
子がいなかった家臣は、その子を小次郎と名付けて武士の子として立派に育てていこうと決意した。
それから、7年の月日が流れた。
芸事に没頭していた藩主は、藩政の殆どを世継ぎ・藤千代の外祖父で城代家老の大杉に任せていた。
しかし、家老・加藤は大杉に反発した。
藩主は加藤の妻の一族の血が流れており、大杉の娘が藩主の側室になるまでは、加藤は藩で大杉と並ぶ実力を持っていたのだ。
日に日にその力が落ちていくことに、加藤は焦りを感じていた。
加藤は、従兄弟が藩主の主治医である事を利用し、藩の実権を一手に握ろうと企てたのだ。
まず、正室のお静の方を味方に付けることにした。
世継ぎの生母で、側室のお雪の方に嫉妬するお静の方は、加藤の企てに乗ってしまう。
初めは、お静の方に男子を産ませようと試みたものの、思うように行かず、この計画は断念した。
そこで、加藤は家臣に養子に出した小次郎を利用することを思いつく。
子が出来ず、江戸上屋敷で寂しい思いで暮らしているというお静の方に泣き付かれ、心優しい藩主は大杉の猛反対を押し切り、小次郎を正室に引き取らせる事を承諾してしまう。
大杉は、加藤の企みを阻止せんとし、藩主に将来の事を考えるようにと強く諭し、藩主は嫡男は藤千代であり、小次郎は次男であると、家臣の前で宣言させることに成功した。
更に、大杉は藤千代が正式に嫡男として幕府に届けを出し、江戸へ行くべきだと強く進言する。
嫡男とすれば、公式では正室の子となるからだ。
確かに、正室に次男を預けるのはおかしいとの他の家臣達の意見も出て、藩主はその意見に従うしかなかった。
お静の方にとっても、子はどちらでも良く、憎き側室から藤千代を引き離すことになるので、それに異存はなかった。
藩主が跡を継ぐのは藤千代であると宣言したが、突然に藩主の子がもう一人現れ、藩士達の間には動揺が起きていた。
加藤は目論見がはずれてしまったものの、大杉に反感を抱く藩士達を自分の下へ集め、着々と勢力を伸ばしていく。
大杉と加藤の駆け引きが裏で行われていることは、凡庸な藩主は知る由も無かった。
流石に、7歳にして自分は藩主の子だと分かった小次郎は、初めはとても驚いたが、聡明な子なので自らの運命を受け入れることにした。
幸いにも、今まで育ててくれた養父もご養育係の一人として、共にお城へ上がるので小次郎は心強かった。
やがて藤千代が江戸へ出発する前に、小次郎はお城に上がり、生まれて初めて両親と対面した。
小次郎は、心温まる思いがした。
対面した藩主は、元気に成長した次男を見て顔が緩み、養父に感謝の言葉を述べた。
養父は、感激のあまり涙が出た。
更に、藩主は小次郎に藤丸という名を与えた。
母・お雪の方は、藤千代と離れる寂しさがあったが、引き離された藤丸とやっと会え、悲しみと喜びが合わさっていた。
対面前は、両親に冷たく扱われるかと一抹の不安を持っていた藤丸であったが、歓迎され心の底から安堵した。
そして、双子の兄・藤千代との対面で、不思議な縁を感じる藤丸であった。
それは、藤千代とて同じ気持ちであった。
その時に、外祖父の大杉とその妻・八重とも会う。
優しい笑顔の裏に厳さを秘めた大杉に、藤丸は自分の立場の危うさを悟ったが、それとは反対に祖母の八重の和やかな笑顔を見て、穏やかな気分になった。
和やかに親族との面会の時が流れたが、微妙な立場を理解している藤丸は心を引き締めてお城の暮らしを始めた。
程なく、藤千代は守り役と共に江戸へ発った。