遺族側逆転敗訴が確定 愛知・市民病院の医療訴訟 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 産婦人科診療においては基本でありながら、現実的にはなかなか診断が難しいのが異所性妊娠です。正式には異所性妊娠が正しいのですが、一般的には子宮外妊娠と言った方が分かりやすいかもしれません。

 この異所性妊娠による死亡例の医療裁判に関するニュースです。以下に転載しておきます。

 愛知県の岡崎市民病院で2007年、受診直後に子宮外妊娠による出血性ショックで死亡した女性=当時(36)=の遺族が岡崎市などに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(木内道祥(きうち・みちよし)裁判長)は14日までに、遺族側の上告を退ける決定をした。遺族側の逆転敗訴が確定した。12日付。

 一審名古屋地裁は医師の過失を認め、市側に約6700万円の支払いを命じた。だが二審名古屋高裁は「子宮外妊娠の確定診断をできる状況になく、危険が迫り、一刻を争う事態であると認識することは困難だった」と判断。一審判決を取り消し、請求を棄却した。

 一、二審判決によると、女性は07年10月3日に同病院で受診し、翌4日に「おなかが痛くて動けない」と病院に電話をかけた。看護師が救急隊を要請したが、女性は心肺停止状態で搬送され、5日に死亡した。


 以下は私のコメントです。

 まずは異所性妊娠の手遅れで亡くなられました女性のご冥福をお祈りいたします。

 産婦人科に受診した翌日に急変し、そのまま翌日に心肺停止から死亡に至っている今回のような例では、きっと異所性妊娠が破裂して出血性ショックさらにはDICへと移行していったのであろうと推測されます。前日に診察した医師はきっと異所性妊娠の可能性も伝えて帰宅させているのでしょう。また腹痛や出血があれば早急に受診するようにも伝えていたことでしょうから大きな過失はないかと思います。

 しかしながら、少なからず未熟ではあったことでしょう。翌日に破裂して死亡するような異所性妊娠はかなり妊娠が進んだものであると推測され、注意深く観察すれば異所性妊娠と診断できたかもしれません。またそうでなくても入院させて経過観察することは悪くなかったことでしょう。

 また帰宅した女性も動けなくなる前に再度受診しても良かったのではないかと思われます。いきなり動けなくなったのではなく、ある程度の時間経過で動けなくなったことでしょう。ちょっと自宅で頑張りすぎました。というのも異所性妊娠の破裂で心肺停止になるには相当な時間がかかると思われます。少なくとも救急車を呼んで到着する前に心肺停止ということはないでしょう(医療に絶対はないのですが・・・)。私の病院でもそうですが、心配して同じ日に何度も受診される女性がいます。症状が続く場合や心配な場合には嫌がられても繰り返し受診することが身を守る手段でもあります。

 さて、超音波検査などの診療技術が進歩した、そして輸血や集中治療などの医療技術が進歩した日本において今なお異所性妊娠で死亡するということがありうるんですね。やはり異所性妊娠は侮れない疾患です。私自身も日々の診療において気をつけなくてはならないと気が引き締まる思いです。同時に患者さん側にも同じ認識を持って受診していただきたいとも思います。

 とはいっても子宮内腔以外で妊娠していればすべて異所性妊娠であるこの疾患において、子宮内であれば何とか妊娠かどうかが確認できる妊娠初期において、子宮内腔以外の場所で妊娠の存在を確実に診断することは容易ではありません。私自身の経験上も典型例でない場合には診断に苦慮することが多いのがこの異所性妊娠です。だからこそ、怪しい場合には入院経過観察を勧めたり、十分な危険の説明をし厳重に外来フォローしていく必要がありそうです。

 こうした不幸な死亡例がなくなるよう、より診療技術(ハード面でもソフト面でも)が向上していくことが望まれます。


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