37人に1人が体外受精児 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 発展・進歩を続ける不妊治療・生殖医療についての話題です。8月に行われた第31回日本受精着床学会学術講演会において、慶応義塾大学産婦人科教授の吉村泰典氏が生殖医療の発展にどう向き合うかを解説していました。

 その際に、既に2010年の段階で日本で出生する児の37人に1人が体外受精児であることを紹介し、生殖医療全盛の時代において今後は主に5つの分野に課題が存在すると説明しています。

 以下に抜粋しておきます。

 第一に指摘したのは「着床前診断およびスクリーニングへの対応」の問題だ。体外受精では妊婦の合併症を避けるために、単一胚を戻す方法を進めるのが国際的な潮流となっている。2008年、日本産科婦人科学会も会告を出している。妊娠に至る確率が低下する問題が起きており、あらかじめ着床前の胚を対象に、染色体の異数性を調べる着床前スクリーニング(PGS)を実施するか否かが論争を起こしている。海外の報告では妊娠率を改善しないという方向が出ている。一方で、改善するという報告もある。結局、結論が出ていない。日本産科婦人科学会では、重篤な遺伝子疾患に限って、異常につながる遺伝子を検出する着床前診断(PGD)に限って認めている。一方で、母体血を使った無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)が国内でも実施可能となった。NIPTが良くて、なぜPGSがダメなのか、という新たな問題も生じている。

 第二の問題は「生殖細胞の保存」である。癌をはじめとした疾患の治療では、不妊が問題となる。その場合、受精した胚の保存、卵子の保存、卵巣の保存が選択肢となる。パートナーの要否、思春期前、後の問題、妊娠への至りやすさ、癌細胞の残存の問題などの課題を考慮しながら、最適な方法を構築していく必要があると吉村氏は解説した。

 第三は、「子宮頸癌における妊孕能の温存」の問題。子宮頸癌では従来、初期を過ぎた病期Ia2以降では子宮全摘が必要だった。最近、腹式広汎性子宮頸部摘出術(ART)という方法で、子宮頸部のみを取り除き、妊孕能を維持させることが可能となっている。吉村氏は、外科的な側面での課題として重要であると解説した。

 第四は、「幹細胞からの生殖細胞の作製」。吉村氏は現在の生殖医療の大きな問題として、ES細胞やiPS細胞から配偶子を作った場合に、受精させてよいか否かが重要な問題になっていると解説。胚を作成した上で着床させなければ研究対象として認められる可能性もあるが、難しい問題となっていると紹介した。

 第五の問題である「子宮移植」も現実味を帯びてきている。既にカニクイザルで、子宮の自家移植を実施した後の妊娠の研究は成功に至っている。人において他家移植を行った場合の、免疫学的な問題、倫理的な問題をクリアしていくことが重要になると解説した。

 吉村氏は生殖リテラシーが重要になると強調。「生殖医療が進歩するにつれ、高度な医療技術によってもたらされる成果を正確に分析評価し、広く社会や国民に適切な生殖医療を提供できる能力を身に付ける必要がある。医療技術自体の検証、高風な倫理観が要求されると思う」とまとめた。



 以下は私のコメントです。

 100人に1人が体外受精児といわれた時には、体外受精児がもはや稀な存在ではなく、体外受精そのものも十分に市民権を得たものだと感じられました。そしてそれがまだつい最近のことのように感じているのに、3年前ですでに37人に1人が体外受精児とは驚きの数ですね。不妊治療の進歩も大きな要因なのでしょうが、不妊カップルの増加もまた大きな要因になっていることでしょう。

 さて吉村先生があげられた5つの課題のうち、3つ目の子宮家癌における子宮の温存に関しては、癌の根治性さえ失われなければ何ら問題ないと思われます。しかし、残る4つの課題に関しては大きな倫理的問題もはらんでおり、生殖医療の関係者のみで論じられるだけでは不十分ではないかと思います。今後も十分な議論のもと方向性を決定してもらいたいものです。



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