いびつなイモ | 学生団体S.A.L. Official blog

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「ネパールは大きな岩に挟まれた、イモだ」

北に中国、南にインド。大国に挟まれて、両方の国境が山脈で閉じられたネパールには、そんな諺がある。

* * * * *


ぼくが訪れたフワス村の人々は、けわしい山の中で潜むように暮らしていた。

雲と同じくらいの高さの集落で、急な斜面にへばりつくような段々畑を、水牛の力を借りながら耕している。
ほとんど自給自足の昔ながらの生活を乗り切るために、村人同士密なコミュニケーションで信頼関係を築いている。

ぼくらが訪れた時にも、何百人もの村の人たちが集まってきて、盛大に歓迎してくれた。
夜は、ロウソクの明かりに照らされながら、土の家の軒先で、ごちそうをいただいた。

その一方で、「どうにかこの村を発展させて、もっと便利な暮らしをしたい」
と目を輝かせる子ども達がいた。そのためにたくさん勉強するのだ、と。

実際に、村のそういう思いは形になり始めている。
この五年間で、村に車が入れる道路がつくられ、携帯電話もつながるようになった。
村の近くで、多くの若者を乗せた、小さなバスとすれ違った。
みんな開発のための出稼ぎ労働者だそうだ。

急ぎ足の、発展の足音を聞いた気がした。少し怖くなった。
ぼくは、夜になると空が星で埋めつくされる今のフワス村を、大好きになっていたから。

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「首都カトマンズは外国だ」。田舎から出てきた多くのネパール人が言う。確かに、別世界だ。

カトマンズは、人と車と建物がひしめいている。
排気ガスとホコリで、視界は常にぼやけ、全ての建物と車がベットリと汚れ、道ゆく人は布製の強力なマスクをつけている。

ネパールの若者たちは、70%以上が大学を卒業する。その大学の質も意外なほど高い。
しかし、大学を出ても職がない。
職につけても、まじめに働いてひと月10000rs(1rsは約1円)ほどしか稼げない。
だから、カトマンズの道端には、働かない若者たちがあふれている。

「俺は、安い賃金で働きたくないだけで、いつでも金を稼げる」。昼間から街でたむろしている若者が言った。
実際に彼は、英語、スペイン語、ヒンディー語、ドイツ語が流暢だった。学校で習ったという。
観光客をつかまえて、ガイドの資格を持っていると偽って街を案内すれば、多い時で一日10000rsがもらえるんだ、とほくそ笑んだ。

誰よりも勉強してきたと誇る若者が、まともな職に就くのが馬鹿らしいと、昼間から騙しがいのある観光客を探している。

この街は歪んでいる、とぼくは思った。

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フワスの村からは、この土地を進歩させたい、という強い意思を感じた。

そのフワスの人々が目指している進歩した先の都市、カトマンズで過ごせば過ごすほど、ある思いがぼくの中で強くなる。

どんなに栄養を蓄えても、やはり岩に挟まれたイモは大きくなれないのではないか。
外の岩にくわえ、イモの内側は虫に喰われはじめている。近年革命が起こって以来、混乱を続ける政治。それに対する人々の不満が、地下で着実に根をはり始めている。

ぼくは、ネパールに発展してほしいと心から願っている。
この国の田舎の風景が好きだから、発展して欲しくないと思うのは、先進国に暮らす人間のエゴだと思う。

ただ、これ以上いびつな形のイモに成長して欲しくない。


【文責:広報局2年 藤井 義隆】