蝶と独白と残黒 / DISH | 安眠妨害水族館

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蝶と独白と残黒/DISH
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1. 倫敦橋
2. UNDERGROUND
3. 南風。
4. dancer in the dusk
5. ワールドセオリー
6. butterfly burning
7. リストカットベイビィズ

DISHによる3rdミニアルバム。
廃盤となっている1stミニアルバムや配布モノ等からの再録を含めた全7曲。
象徴的な単語を3つ並べるタイトルのつけ方は、これまでのアルバム作品どおりであり、統一感があります。

正式メンバーがVo&Gt.渋谷ヒロフミさんのみとなってからは初となる正式音源となる本作。
とはいえ、Ba.根本コウヘイさんの脱退が決定する前から制作が始まっていたということなのか、在籍時の楽曲が収録曲の大半を占めている構成上の理由からか、ベースのレコーディングは、根本さんが行っている模様です。
そういう意味では、新たなDISHのスタートというよりは、前体制の集大成といった側面のほうが強いのかも。

2分に満たないナンバー「倫敦橋」は、弾き語り風。
湿り気のあるギターの音色に合わせて、ぼそぼそとしたボーカルを乗せる。
ボリュームは抑え目で、ワンコーラスのみとなっていますが、導入への役割なのでしょう。
本の扉表紙を開けるようなイメージ。

「UNDERGROUND」は、轟音の中に、渋谷さんの張り叫ぶような歌声が響くロックバラード。
1stミニアルバムである「雨と地下室と恋人」からの再録です。
アコースティック調の導入を経て、すぐにこの楽曲が来ることにより、一気にDISHの世界観に包み込まれるような感覚。
隙間がないサウンドで辺りが埋め尽くされ、四方八方、彼らの音楽が広がっていくような錯覚を起こしてしまいます。
続く、「南風。」は、DISH流のポップナンバーか。
サウンドには、相変わらず密度が濃い硬派さがあるのだが、メロディや歌詞に、華やかさがあるというか。
音楽的な軸はブレないが、従来の彼らにはなかったタイプのナンバーでもあり、引き出しが増えたな、というのが、率直な感想でした。

「dancer in the dusk」と「ワールドセオリー」、は、会場限定で販売されていた「curtaincall e.p」から。
e.pに収録されたときとは、順番が入れ替わる形になっていますが、アルバムの流れを考えれば、確かにこちらのほうが自然。
一度、じっとりとした暗さがある「dancer in the dusk」で、深いところまで沈み込むことにより、「ワールドセオリー」の高揚感が、余計に引き立ちます。
音がクリアになったにも関わらず、熱量はそのままで、「ワールドセオリー」という楽曲の魅力が、もっとも際立つ曲順やアレンジを見つけてきたと言わんばかり。
もともと格好良いと思っていたわけですが、ここまで興奮できる楽曲だっただろうか。
アルバムとしてのピークを、ここに作り上げていますね。

「butterfly burning」は、ダークさを纏った歌モノ。
ワンマンライブでの配布音源がオリジナルとなります。
この楽曲で特に耳に残るのは、サビでの「愛してる」の繰り返しの部分。
ドロっとした雰囲気すらあるダークバラードにおいて、このフレーズだけを聞かされると驚いてしまうのだけれど、流れで聴くと、違和感がない。
中毒的というか、病的というか、まったく健全に聞こえないのが面白いです。
ラストは、再び1stミニアルバムからの再録である「リストカットベイビィズ」。
テーマとは裏腹、爽やかさのあるパンキッシュなナンバーで、なんともエンディングっぽい。
初期の楽曲、しかも、彼らの楽曲としては邪道な音楽性ではあるのですが、アルバムで表現してきた世界観は崩さず、しっかり馴染むように再構築したあたりは、さすがの一言です。

DISHには、あまりバラエティに富んだ作品を作ってくるイメージはなく、むしろ統一感や、轟音サウンドによる感情表現に力を入れていた印象を持っていたのですが、案外、色々なタイプの楽曲があるのだな。
ボーカルだけとってみても、従来の、喉が張り裂けるくらいに叫ぶことで感情を訴える手法に加えて、語りかけるようだったり、淡々と歌ったり、押すだけでなく、引くことでの表現も見られるようになりました。
曲単位でも、アルバム単位でも、そのメリハリが意識されていて、轟音の骨太ロックというサウンドが徹底されているのに対して、感情面でのドラマ性が多様化したのは興味深いものです。

既存曲が多いという意味では、フルアルバム「春と訣別と咲乱」と同様に、物足りなさを感じてしまう部分は否めませんが、どれも格好良く進化しているから仕方ない。
激情と、轟音。
典型的なヴィジュアル系のサウンドと比較すると異質ではあるが、だからこそ、可能性も感じるのだ。
メンバー脱退が、今後、どうバンドに作用していくのかは未知数ですが、これからも期待していていいよ、というメッセージが、作品から感じ取れるのは嬉しい限りです。

<過去のDISHに関するレビュー>
curtaincall e.p
春と訣別と咲乱
LIVINGDEAD.e.p.
Melanchoric e.p.
闇と葬列と切り裂雨