春と訣別と咲乱 / DISH | 安眠妨害水族館

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春と訣別と咲乱/DISH
 

1.May
2.箱船
3.DISCO BEAT EMOTION
4.バニラ
5.SNOW EMOTION
6.49
7.サミダレイン
8.LIVINGDEAD GIRLFRIEND
9.ドレスフラワー
10.ナミダレイン
11.メロウイエロウ

遂に出た、DISHの1stフルアルバム。
ベストアルバムのようで、コンセプトアルバムでもある一枚。

オルタナロックをベースに、同期を使わず、3ピースで再現できる音楽を追求する姿勢は、現代では珍しくなってきましたね。
シンセでキラキラと装飾するわけでもなく、ギターを重ねて、メタリックなフレーズを奏でるわけでもない。
本作では、ノイズを取り入れたアレンジにも挑戦してはいるものの、基本的には、そのスタイルを崩さず。
不器用すぎるくらいに、シンプルな音だけで構成された作品に仕上がっています。

しかし、そんな骨太サウンドであるからこそ、モノクロの輝きが際立っていると言えるでしょう。
単色の轟音が、青臭くも文学的な歌詞世界を、鈍く照らす。
ひとつの物語を意識したというリリックは、全体的に喪失感を孕んでいて、それが音から伝わるイメージと重なるものだから、ハマる人は一気にハマってしまうでしょうね。
和風ホラーと、青春ドラマが、同時に繰り広げられているような世界観。

ブックレットには、物語のヒントとなる散文詩が散りばめられているのも、じっくり浸りたい人には嬉しい。
新曲は3曲だけ、しかも1曲はノイズと語りによるSEという収録内容でありながら、1曲1曲の物語上のつながりがクリアになることで、既存曲も、違う印象になったりするから面白いです。
サウンド面では、ヴィジュアル系の主流とは真逆に突き進む彼らではありますが、こういうところ、V系たる意義をわかっているというか、ツボを押さえているよなぁ。

評価が割れそうだな、と思ったのは、音質面の向上。
いや、音質が良くなったことは、ネックであるはずがないのですけれど、どうも、インパクトが薄くなってしまったような印象がある。
従来は、確かにぼんやりした音質だったし、ミックスバランスにもムラがあった。
だけど、その先になんだかとんでもないモンスターが潜んでいそうな、ドキドキワクワク感があったのですよね。

幽霊の正体見たり枯れ尾花。
音像がはっきりしたことで、想像力を膨らます余地が限定的になってしまったのでは、というのは、さすがに捻くれすぎでしょうか。
この辺は、8曲が既存曲と、ほとんどが耳に馴染んだ楽曲だったことも影響しているかもしれません。
再録は再録で、格好良いのだけれども。

まぁ、入門編として手にするには、十分にクオリティも網羅性も高い作品。
キャッチーさや、メロディアス性は弱くても、それを補って余りあるエモーショナルで豪快なサウンドは圧巻です。
男臭いが、ロマンチスト。
キラキラしているバンドに耳が疲れた人は、センチメンタルな轟音に身を投じてみるのはいかがでしょうか。

<過去のDISHに関するレビュー>
LIVINGDEAD.e.p.
Melanchoric e.p.
闇と葬列と切り裂雨