Exit / Fatima | 安眠妨害水族館

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Exit/Fatima

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1. サクラメイロ
2. 消せない雨
3. ドリー・マーズ
4. peanut
5. 紬糸
6. 紫陽花
98. Fortune

Fatimaのラスト音源になってしまったミニアルバム。
ボーカリストは、結成当時から変わっていないものの、Hitomi→Sanaka→Kanomaと名前を変えてきた経緯あり。
作詞の名義がKanoma3曲、Sanaka3曲、Hitomi1曲と、なんともややこしいことになってます。

スタートの「サクラメイロ」は、陰鬱としたミディアムバラード。
桜曲らしい儚く切ない美しいナンバーに仕上がっています。
音が薄くなるところで効果的にコーラスを入れたり、サビを重ねる度に演奏が盛り上がったりと、ツボはきっちり押さえていますね。
流れるように続くのは、先行シングルであった「消せない雨」。
スピード感のある疾走チューンで、強いて言うなら「堅瞑り」に近い路線でしょうか。
マニアックな楽曲が多い彼らの中でも、トップクラスなストレートさ。
明るい曲調とは裏腹に、歌詞にはアイロニカルなメッセージが含まれているのが彼ららしい。
少しあっさりしている気はしますが、シングル曲らしい、勢いづけには成功していました。

「ドリー・マーズ」は、アクセントとなるのか、本丸と呼ぶべきか。
メンバー全員がボーカルに参加している、一種の企画モノの要素を持ちつつ、これぞFatima、と思えるのですよ。
明るい曲ではあるけれども、どことなく影があるギターのフレーズが、気持ち悪さも演出。
ナンバーガールをヴィジュアル系的パーティーチューンに拡大解釈したような異質さ、異端さは、シーンの中でカテゴリ不能なサウンドを生み出していました。

「peanut」は、過去の音源からの再録曲。
作成時期がズレていることもあってか、ストレートなアレンジが目立つ本作の中でも、変態性の高い本来のカオスなサウンドが帰ってきた感覚です。
激しく荒々しくなったり、ウネウネしてミディアムな雰囲気になったり、とにかく展開が多いので、慣れないうちは、流れを壊してしまっているという印象を受けるかもしれないのですが、これが聴きたいのだから仕方ないじゃない、と押し切りましょう。

クライマックスが見えてきた5曲目に収録されたのは、会場限定シングルとしてリリースされたバラード、「紬糸」。
ムーディーな演奏に、深みのある歌詞が載ることで、哀愁や切なさが漂ってきます。
小細工を使っていないというか、シンプルな構成で贅肉を削いだイメージ。
ミニアルバムの中に、バラードが2曲入ってもダレない構成力は、さすがFatimaですな。

そして、Fatima史上最もポップで明るい曲なのでは、とリスナー驚かせた「紫陽花」で、本編を締めくくる。
意外ではあるけど、案外ハマっている気もします。
イントロからアウトロまで、ひたすらメジャー感のあるポップソング。
歌詞も、それに合わせて前向きで、ほんのり切ない。
少し捻くれた見方をすれば、Fatimaらしくない楽曲で終わらせるのが、Fatimaらしいな、と。

まるで、アンコールを意識したように、シークレットトラックが。
歌詞カードがケースの裏に隠されており、タイトルは「Fortune」だとわかります。
スローながらタイトな演奏ではじまる、本編の流れからすると異質な楽曲。
間奏で段々テンポアップして、サビで開けるという構成で、前半と後半の印象がガラっと変わりますね。
歌詞は解釈が様々できて、なんだか深い。
万物の原点である「水に還ろう」「土に還ろう」という内容の歌詞が、結成年である98トラック目、最初のステージネームであるHitomi名義で書かれていることに、強いメッセージ性を感じます。

ラスト音源を意識して作られたのだろうなといった要素が多く見られ、ファンとしてはマストアイテム。
Fatima=変態的というイメージで聴くと、思いのほか、秀麗で様式美的なサウンドに仕上がっている印象なので、「ドリー・マーズ」や「peanut」のようなギミック重視の楽曲が、もう1、2曲欲しかったのも本音ではありますが、アルバムとしての完成度としては申し分ありません。
ブックレットのアートワークやギミックにもこだわっているので、手に取って、触れてほしい1枚です。

<過去のFatimaに関するレビュー>
哀愁の底辺
Downer