1.哀愁の底辺
2002年5月11日、高田馬場AREAワンマンにて配布された、Fatimaにとって、唯一のデモテープ。
何度かメンバーチェンジを繰り返しているバンドですが、当時のドラマーは、現alice nine.のNaoさんでした。
ボーカルは、言わずと知れたMoranのHitomiさん。
この人は、Hitomi⇒Sanaka⇒Kanomaと改名を繰り返して、今はHitomiに戻ったわけですが、この時点ではSanaka名義。
ここでは、Sanakaに統一させていただきます。
Fatimaは、とにかく癖が強く、聴きにくさを強調してアレンジするような独特なセンスと、カリスマ性の高いSanakaさんのオーラで、極めて異質な個性を放っていました。
変拍子や転調はあたりまえ、不可思議な音づかいに、変態的だけど含みのある歌詞など、とにかくマニアックな構成が特徴的。
パフォーマーとしてのエンタメ性にも優れ、魅せる側のプロといったSanakaさんの表情のある歌声は、そんな複雑な楽曲に、落ち着きを与える。
こんな化学反応は見たことない、唯一無二のバンドでした。
この「哀愁の底辺」も、そのイメージに違わず、奇妙奇天烈な構成が面白い楽曲。
ウネウネしたギターと、独特なリズムを刻むドラムの音が、イントロやAメロから、マニアックさを十分にアピールしているのですけれど、聴きどころはサビなんです。
最近のV系ミクスチャーバンドだったら、そこまでが如何にマニアックに進もうとも、サビではメロディアスにキャッチーになっていくところ。
それが、この曲については、サビがもっとも聴きにくいという捻くれ具合。
譜面を見たって、きちんと歌えるかどうかわからないくらい、リズムがとりにくいメロディを、淡々と歌い上げる。
とっつきにくいけれど、これはハマると癖になります。
これを、聴きにくさを感じさせず、余裕すら見せるSanakaさんも凄い。
曲が進むにつれて、歌い方に変化を出してきたり、微妙な強弱までつけることができるなんて。
音程面では、特に優れたボーカリストとまでは言えませんが、表現、パフォーマンス、持っていきたい方向に会場の空気を染めることができるオーラ・・・
練習や、猿真似では、決して達することができない圧倒的な世界観を持っていますね。
高いクオリティ、際立った個性。
今でも色褪せないバンドです。
100人いたら、100人に受けるという音楽性ではありませんが、触れて損することはないでしょう。
この曲も、再録して一般発売でもしてくれたらよかったんですけど。