Mitosis SCE Meiosis
６－４、SCEとGENタンパク質の研究
“体細胞分裂”と“減数分裂”の違いをしっかり見てみよう。
ともに細胞分裂の過程だが、いずれも分裂する際には、それに先行して細胞の中のDNAが倍加する必要がある。倍化すると図のような「姉妹染色分体」ができ、これが「動原体」のところで繋がった染色体となる（図）。その姉妹染色分体が左右に２つに別れていくのが、“体細胞分裂”である。“体細胞分裂”では“相同染色体”同士が分かれる過程はない（図）。
一方、“減数分裂”はDNAの倍化（複製）は１回だけなのに、染色体を分ける分裂２回起きる。これは83ページの図を見よ。まず「相同染色体」同士が別れ、引き続き姉妹染色分体同士が分かれる。２回目の分裂が、体細胞分裂で起きる分裂と同じである（２回目に使われる遺伝子群は体細胞分裂で使われる遺伝子群と同じ）。
この中で起きる染色体や染色分体の組換えをBrdUの取り込みによる染色で見る姿がHCRでありSCEである。以下の図を見よ。
これらをもっと詳しくDNAの複製過程も含めて図に書き表してみよう。昔の顕微鏡観察では、M期以外は、只単に中に核が見えると言うだけの状態（間期）しか識別できなかった。しかし今日では、分裂に先行して間期にDNAの複製過程があることが分かっている（DNA合成期。S期と呼ぶ。下図）。DNAは恐ろしく細長いグニャグニャのヒモである。分裂に際しては、DNAはコンパクトに折りたたまれる。一方、複製する時は、DNAは延びきって広がる必要がある。伸びきっていないとDNAポリメラーゼなどの生化学反応が困難である。体細胞分裂は時間に依存した細胞周期（G1→S→G2→M）で描かれることが多い（下図）。
一方、減数分裂の場合は、顕微鏡で見える時期が非常に長く、染色体同士がいろいろな変化を起こすが、実はこの時期は体細胞分裂のM期に該当する。そのため染色体が変化している時を“減数分裂前期”とし、染色体が分かれる時期（相同染色体同士が分かれるM1期と、姉妹染色分体が分かれるM2期）にしている（図）。そして、体細胞分裂の間期に相当する時期を（紛らわしいが言葉だが）“前減数分裂期”（G1→S→G2に相当）と呼び習わしている（図）。それを同様に細胞周期で書き表すと（G1→S→G2→減数分裂前期→M1→M2）になる（図）。“前減数分裂期”にDNA複製は完了するので、体細胞分裂と同様にこの過程もDNAの複製は１回しかない。最初のDNA複製の図で新生した新たな２つの２本鎖DNA同士を、姉妹DNAと呼ぶ（図）。この姉妹DNA同士が顕微鏡下で観察される姉妹染色分体同士なのである。
これで相同染色体と姉妹染色分体の違いは分かっていただけたでしょう。減数分裂では、この“父方から来たもの”と“母方から来たもの”の「相同染色体同士が組換えを起こす」過程が“減数分裂”で起きる組換えである。この時には、姉妹染色分体同士は全く組換えはしない（つまり、この時期にSCEは出来ない）。必ず相同染色体側で起きる。そこでこの組換えはHomologous Chromosome Recombinationの頭文字を取ってHCRと呼ばれている。SCEの方はいつ起きるのか？
1970年代までは実は、SCEというプロセスはないと思われていた。私が生化学実験の一環で染色体異常の頻度を測っていた頃に初めて報告される。それまでも報告はなかった訳ではないが（古くからあったが）、証明するための観察方法がかなり曖昧だったために信用されていなかった。
ところがこの時期に細胞生物学的な手法が確立した。特に精密な細胞周期の研究が普及した。そこでBrdU（ブロムデオキシウリジン）を細胞周期の２周分取り込ませ、姉妹染色分体の片方だけ強く染色させる方法が出てきた（SCE図を見よ）。すると直ぐにSCEが発見された。
それに伴い、直ちに幾つも新しいことが分かった。
＊ SCEは細胞周期のS期に起きること、
＊ 体細胞分裂でも減数分裂でも起きるが、共にS期に起きる。HCR（図を見よ）が起きる時である減数分裂前期には起きない、
＊ DNAの複製点またはその近傍で起きること（それ以外の場所では起きない）、
＊ 表現系とは特に関係がなく、SCE頻度の上昇と突然変異頻度の上昇が並行関係にあること、
などである。
そしてその組換え点で起きている分子メカニズムはDNAの組換えである。HCRの場合もSCEの場合も、以下の図に示すようなHolliday構造と呼ばれる姿形を通過する。
molecular biology of the cellより
つづく
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“体細胞分裂”と“減数分裂”の違いをしっかり見てみよう。
ともに細胞分裂の過程だが、いずれも分裂する際には、それに先行して細胞の中のDNAが倍加する必要がある。倍化すると図のような「姉妹染色分体」ができ、これが「動原体」のところで繋がった染色体となる（図）。その姉妹染色分体が左右に２つに別れていくのが、“体細胞分裂”である。“体細胞分裂”では“相同染色体”同士が分かれる過程はない（図）。
一方、“減数分裂”はDNAの倍化（複製）は１回だけなのに、染色体を分ける分裂２回起きる。これは83ページの図を見よ。まず「相同染色体」同士が別れ、引き続き姉妹染色分体同士が分かれる。２回目の分裂が、体細胞分裂で起きる分裂と同じである（２回目に使われる遺伝子群は体細胞分裂で使われる遺伝子群と同じ）。
この中で起きる染色体や染色分体の組換えをBrdUの取り込みによる染色で見る姿がHCRでありSCEである。以下の図を見よ。
これらをもっと詳しくDNAの複製過程も含めて図に書き表してみよう。昔の顕微鏡観察では、M期以外は、只単に中に核が見えると言うだけの状態（間期）しか識別できなかった。しかし今日では、分裂に先行して間期にDNAの複製過程があることが分かっている（DNA合成期。S期と呼ぶ。下図）。DNAは恐ろしく細長いグニャグニャのヒモである。分裂に際しては、DNAはコンパクトに折りたたまれる。一方、複製する時は、DNAは延びきって広がる必要がある。伸びきっていないとDNAポリメラーゼなどの生化学反応が困難である。体細胞分裂は時間に依存した細胞周期（G1→S→G2→M）で描かれることが多い（下図）。
一方、減数分裂の場合は、顕微鏡で見える時期が非常に長く、染色体同士がいろいろな変化を起こすが、実はこの時期は体細胞分裂のM期に該当する。そのため染色体が変化している時を“減数分裂前期”とし、染色体が分かれる時期（相同染色体同士が分かれるM1期と、姉妹染色分体が分かれるM2期）にしている（図）。そして、体細胞分裂の間期に相当する時期を（紛らわしいが言葉だが）“前減数分裂期”（G1→S→G2に相当）と呼び習わしている（図）。それを同様に細胞周期で書き表すと（G1→S→G2→減数分裂前期→M1→M2）になる（図）。“前減数分裂期”にDNA複製は完了するので、体細胞分裂と同様にこの過程もDNAの複製は１回しかない。最初のDNA複製の図で新生した新たな２つの２本鎖DNA同士を、姉妹DNAと呼ぶ（図）。この姉妹DNA同士が顕微鏡下で観察される姉妹染色分体同士なのである。
これで相同染色体と姉妹染色分体の違いは分かっていただけたでしょう。減数分裂では、この“父方から来たもの”と“母方から来たもの”の「相同染色体同士が組換えを起こす」過程が“減数分裂”で起きる組換えである。この時には、姉妹染色分体同士は全く組換えはしない（つまり、この時期にSCEは出来ない）。必ず相同染色体側で起きる。そこでこの組換えはHomologous Chromosome Recombinationの頭文字を取ってHCRと呼ばれている。SCEの方はいつ起きるのか？
1970年代までは実は、SCEというプロセスはないと思われていた。私が生化学実験の一環で染色体異常の頻度を測っていた頃に初めて報告される。それまでも報告はなかった訳ではないが（古くからあったが）、証明するための観察方法がかなり曖昧だったために信用されていなかった。
ところがこの時期に細胞生物学的な手法が確立した。特に精密な細胞周期の研究が普及した。そこでBrdU（ブロムデオキシウリジン）を細胞周期の２周分取り込ませ、姉妹染色分体の片方だけ強く染色させる方法が出てきた（SCE図を見よ）。すると直ぐにSCEが発見された。
それに伴い、直ちに幾つも新しいことが分かった。
＊ SCEは細胞周期のS期に起きること、
＊ 体細胞分裂でも減数分裂でも起きるが、共にS期に起きる。HCR（図を見よ）が起きる時である減数分裂前期には起きない、
＊ DNAの複製点またはその近傍で起きること（それ以外の場所では起きない）、
＊ 表現系とは特に関係がなく、SCE頻度の上昇と突然変異頻度の上昇が並行関係にあること、
などである。
そしてその組換え点で起きている分子メカニズムはDNAの組換えである。HCRの場合もSCEの場合も、以下の図に示すようなHolliday構造と呼ばれる姿形を通過する。
molecular biology of the cellより
つづく
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