裁判官は宇宙人 | さかえの時々論拠

裁判官は宇宙人

■気になる本 - 裁判官は宇宙人 -
■気になる本 - 裁判官が見た光市母子殺害事件 -
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 裁判員制度が5月21日にスタートし、全国で対象となる
起訴された方が毎日新聞では182人と報道されております。
(毎日新聞 2009年7月6日 18時36分 報道)

 もっとも多いのが、大阪地検の25人、そして千葉地検の
23人、福岡地検の10人と続いているということです。

 犯罪内訳は、殺人が48人、強盗致傷44人となって
いますから、日本の犯罪も重罪の方向かもしれません。

 さて、まったく対象がない都道府県も存在しております。
岩手、山形、茨城、群馬、新潟、石川、佐賀、沖縄の8県
では対象事件の起訴はないそうです。

 残念ながら福島県いわき市には存在しております。
地元の夕刊タブロイド版の記事から引用してみます。
-------引用-----
勿来町の殺人事件 公判前手続き 来月6日に決定
20090703 いわき民報
 いわき市勿来町地内で発生した殺人事件で、殺
人、銃刀法違反の罪に問われた、同市、無職伊藤●●
被告(49)の公判前整理手続きについて、地裁郡山支部は
2日までに、第1回協議の期日を8月6日午後2時からに
指定した。初公判は早くても9月下旬以降となる見通し。
 起訴状などによると、伊藤被告は7日午前0時
10分ごろ、同市勿来町窪田町通地内の空き地で、
殺意を持って茨城県北茨城市●●町●●、
家屋保温断熱工●●●●さん=当時(47)=の腹
部を、持っていた刃渡り21.2cmの刺し身包丁で
3回突き刺して殺害したとされる。
 伊藤被告は送検時、大久保さんを刺したことは
認めたが、殺意については否認している。現時点
でも起訴内容の一部を否認しているとみられ、裁
判では殺意の有無が争点となるとみられる。
-----引用終了、伏せ字(●)は私の独断---

 さて、懸念した事態の裁判になります。
加害者は、暴力団関係者のようなのです。いわき市
のいわき地裁では、裁判員裁判を開催せず、
郡山支部での裁判員裁判になります。
さて、裁判員の方々、悩むのではないでしょうか。


 そもそも、裁判員裁判って、謳い文句は、
広く国民に裁判を理解して頂き、貴重な意見を
伺う機会だというようなことをいっておりますが、
私にいわせれば、それは逆で、世間を知らない
裁判官に世間というものを教えてあげる、いわば
教育係が裁判員ではないかとさえ思ってしまいます。

 裁判官の勤務状況はわかりませんが、多分推測
するに、官舎と裁判所の往復が多いのではないで
しょうか。

 それとも、地域のボランティアや何かサークル
に入って、活動をしている方がいるのですか?


 そんな疑問を持たしてくれた本があります。
いま、「裁判官は宇宙人 これでも貴方は裁判員制度に
参加しますか」(著者 半田亜季子、出版社 株式会社講談社、
発行年月 2009年4月)を読み終えました。

 著者のプロフィールは、巻末にあります。
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半田 亜季子 (ハンダ アキコ)       
東京都に生まれる。災害心理士・被害少年サポーター。
跡見学園女子大学英文科卒業。
テレビ・ラジオのリポーターを経て、
1991年、モスクワで、共産党によるクーデターをリポート。
産経新聞社会面「政変の街から」で、特別社会部長賞受賞。
1999年から警視庁の「被害少年サポーター」として活動。
また日本防災士会広報委員長、災害心理士として、
極限状態に陥った時の身の守り方をわかりやすく解説している
-----引用終了------

 何故、この著者の本を読了したのかといいますと、
タイトルにも惹かれましたし、読み進めていきますと、
たしかに、私達の感覚からは大分脱線している裁判官が
いることに驚いたのです。

 著者は、ひょんなことから土地境界確定裁判に巻き込まれる
のですが、当然というか費用がないため弁護士に頼らずに
自分で裁判を行います。

 相手は、法人(会社組織)であり、弁護士もついています。
素人の著者の質問に対して、裁判官はキレてしまうのです。
もっと、裁判官は自分の仕事の範囲を拡げてくれませんでしょうか 。
素人でも弁護士を立てずにできるように。

 裁判に出席している当事者は、裁判の暗黙のルールは、
理解しているハズだという誤解。また、予想される不利益を公正な
裁判官は何故指摘してくれないのでしょうか?

 それを裁判員においしいところだけを裁判官が頂くという
のには疑問です。

 そうそう、著者は、P45で、佐藤優氏の裁判の傍聴に
通ったという記述があります。佐藤さんとは知り合いないだ
と驚いたことです。
(参考)国家の罠  著者 佐藤優

 では裁判官は宇宙人のように、私達からすると、
異物というか異人という存在なのでしょうか。

 いえいえ、しっかりとマトモな裁判官もいらっしゃいます。


ちょうどいま、
「裁判官が見た光市母子殺害事件 天網恢恢疎にして逃さず」
(著者 井上薫、出版社 株式会社文芸春秋、
発行年月 2009年2月)を読み終えました。

 著者のプロフィールは、カバーにあります。
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井上薫(イノウエカオル)
1954年東京生まれ。
東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修士課程修了。
1983年独学で司法試験に合格。
1986年判事補を経て
1996年判事任官。
2006年横浜地裁判事で退官。
2007年弁護士登録
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 元裁判官の方が、公平な第三者として世間で話題になった
事件を解説してくれています。

 しかも、判決文やその法的背景にまで迫っておりますので
一般の裁判関係に興味のある方は、必読です。
これほど、公平に論評できるとは・・・。
(著者も裁判官を退官したから言えるといいますが)

 著者に習って簡単に事件と裁判の流れを振り返ります。
平成11年 4月14日 事件発生
        18日 18歳の少年を逮捕
      5月 9日 山口地検が被疑者を家裁に送致
      6月 4日 逆送決定
        11日 殺人、強姦致死、窃盗罪で起訴
平成12年 3月22日 山口地裁判決(無期懲役)
平成14年 3月14日 広島高裁判決(控訴棄却)
        27日 検察が上告
平成15年12月26日 弁護人が答弁書提出
平成17年12月 6日 最高裁第三小法定が弁論期日指定
           (平成18年3月14日)
平成18年 2月27日 安田・足立が弁護士になる。
           それまでの弁護士は解任へ。
      6月20日 最高裁第三小法定は広島高裁判決を
           破棄、高裁へ差し戻し。
     10月    弁護団結成(22名)
平成19年 5月24日 広島高裁で初公判
        27日 橋下弁護士がテレビで弁護団に懲戒請求
           の呼びかけ
      9月 3日 橋下弁護士に対して損害賠償請求訴訟の
           提起(弁護団の一部)
平成20年 4月22日 広島高裁で差戻後控訴審判決
           (原判決破棄、死刑)
            弁護人即日上告

 例えば、山口地裁判決(無期懲役)、広島高裁判決(控訴棄却)
について、著者は、こう意見しています。
「元裁判官として私の感想を少し述べます。(中略)
むしろ、この裁判官は初めに結論をだしていて、それを
何とか正当化するために付加しただけと感じます。」

 私はこの著者が好きになりました。

 これほど、難解(?)な裁判をわかりやすく解説してくれて、
しかも、そこに自分の意見がしっかりと入っているところてす。

そして、自分の理論といいますか、考え方を示しています。
P142に記述してある「蛇足」判決に注目します。
裁判官は、法にのっとり判決を示し、その理由を示すことが
求められていますが、判決の理由とならない、いわゆる蛇足
は法律違反だともいっております。

 憲法で規定されている「第76条3項 すべて裁判官は、
その良心に従ひ独立してその職権を行い、この憲法及び法律
にのみ拘束される。」を著者は引用して「判例」
(特に最高裁判例)を前提に検討することは違憲で
あるといっているのです。

 私が不動産業者をしていた時、トラブルについては、判例を
調べる癖がついておりました。判例がない場合に、新たに
こちらに有利になるようなことを検討しました。
また、ある法曹関係者からは、判例も法の内だというのを
教えてもらいました。

 こんなことは違憲なことであり、下級裁判所も独自の判断と
いうか、「法」のみに従って判断するということが必要なの
ですね。それが、時間を越えた公平な判断だと思います。

 刑事訴訟法では最高裁に上告する場合には、「憲法違反」と
「判例違反」だけだ(原則)と著者はいうのです。
 え?、日本は完全な3審制度ではないのですね。
だから、植草教授のように上告しても、これらに該当しないと
最高裁判事が判断すれば、上告棄却となってしまうので
しょうか。
 これじゃ、冤罪はなくならないでしょうね。どうして、
最高裁は、全ての上告を受け入れ、書類審査だけではなく、
現地調査、職権での専門家調査を行わないのでしょうか。
 現在の裁判制度が冤罪を生んでいるといっても過言では
ありません。

 なんでもかんでも判決文に記載したがる裁判官は、
今後は注意する必要があります。しかも、最高裁からの
差戻しであれば、一応、最高裁が判断をしているので
その判断は絶対なのです。高裁が曲げることはできない
とのことです。

 こういう裁判の内側の仕組みを、この本はわかりやすく
解説してくれます。

 究極は、弁護士を利用しない、本当に公平な裁判を
行えることが、望ましいかもしれません。

 裁判員裁判が始まろうとしているこの時期にしては、
必読の書でもあります。

 そう、【天網恢恢疎にして漏らさず】のために。
(天網は目が粗いように見えるが、決して悪事を見のがさない。)
 【悪事千里を走る】じゃダメなんです。

 著者は、この事件により、裁判に関する流れが変わったと
いいます。
■被害者保護のための立法
■遺影の法廷持込み
■少年法の改正(被害者による記録の閲覧・謄写等)
■被害者参加制度(公判に出席、検察官に意見具申と説明を
求める、証人への尋問、被告人への質問、意見陳述すること)

 そして著者は、裁判官は憲法の次の規定に従って
行動することを求めています。
「第76条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところ
により設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、
終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、
この憲法及び法律にのみ拘束される。」

 もう一度、いいます。
「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、
この憲法及び法律にのみ拘束される。」

 判例に拘束されることはないのです。
裁判員裁判により、下級審の裁判官の意識がガラリと変って
いくことが想定されます。それでも、上級審の判事になるまで
20~30年が必要になるのでしょうか。

 どうか、10人の罪人を逃しても一人の冤罪を生まない
裁判になってほしいと切に願います。
 これから、法曹関係に入りたい人達は、この本を必読して
くださいませ。「蛇足判決理論」を身につけてくださいませ。

(7/11)

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