令和6年度税制改正大綱で、交際費の損金不算入が見直され、交際費等の5,000円基準の上限が1万円以下まで拡充されます。そこで今回はあらためて『損金算入』と『損金不算入』について、損金と費用の違いや、条件によっては損金として扱えるものなどを解説します。

『損金算入』『損金不算入』とは? 損金と費用の違いを解説

 損金とは、法人の資産減少の原因となる原価や経費・損失など会社の支出から、一定額を引いたものです。会社の支出という意味では費用と似ていますが、税法上の損金の額と会計上の費用の額は、必ずしも一致しません。損金と費用を計算式であらわ
した場合、以下のようになります。
(法人税) 課税所得 = 益金 - 損金
(会計)   利益  = 収益 - 費用
 

   計算式からもわかるように、損金は税法上の考え方であり、会計上の費用とは異なります。また、税務会計の課税所得と会計上の利益で一致しない差額は、法人税等調整額という勘定科目を用いて、最終的に整合性が取れるようにします。
 法人税を計算するうえで、損金は『損金算入』と『損金不算入』の2種類に分かれます。これらの違いは以下の通りです。
【損金算入】税務計算上は損金となるもの
【損金不算入】会計計算上は費用にできるが、税務計算上は損金にならないもの
 

   では、損金算入できる項目には何があるのでしょうか。たとえば、租税公課で計上している税金の一部、代表的なものとして固定資産税や法人事業税などがあてはまります。そのほか、水道光熱費や消耗品費などがあります。
 一方、損金不算入には法人税や法人住民税、延滞税をはじめ、一定の要件にあてはまらない役員報酬や損金算入の特例が適用されない交際費などがあります。

原則不算入でも条件次第で算入可  損金算入できる特別な項目と条件

   令和6年度税制改正大綱で、損金に算入できる交際費の上限が、現状の一人当たり5,000円以下から1万円以下までに引き上げられ、上記金額まで交際費ではなく、全額損金算入できる会議費等として会計処理できます。そのほか、「接待飲食費の50%損金算入特例」と「中小企業の定額控除限度額(年800万円)の特例」も、令和9年3月末まで3年間の延長が示されています。
 税務上、交際費等は原則、損金不算入ですが、特例が設けられています。交際費のうち接待飲食費の50%を損金に算入することができます。また、資本金1億円以下の法人の場合は、その方法か、年間800万円を限度額として交際費を損金に算入する方法のいずれかを選ぶことができます。ただし、100億円超の法人はこの特例の対象外となり、接待交際費の損金算入は認められていません。
 

   交際費以外にも以下の要件のいずれかを満たした場合、役員報酬も損金算入することができます。
①定期同額給与:事業年度を通じて毎月の支給額が一定である役員報酬
②事前確定届出給与:事前に税務署へ届出を行なったうえで支給される役員報酬
③業績連動給与:企業の利益(業績)と連動して支給される役員報酬
 ただし、社会通念上高すぎると判断される役員報酬は、不相当とされて損金不算入になることがありますので、注意が必要です。
 

  このように、損金算入と損金不算入となる項目には一定の条件があります。それぞれの役割を理解し,日々の経理業務や経営に活かしましょう。

   労働基準法は、労働条件に関するさまざまなルールを定めた法律で、使用者も労働者も双方がよくその中身を理解しておかなければいけません。
なかでも特に重要なのが、賃金支払いに関する決まりです。
労働基準法では、労働の対価である賃金の支払い方法が細かく規定されています。
もし、この規定を守らずに賃金の支払いを行うと、労働基準法違反となり、労働基準監督署から調査を受ける可能性があります。
賃金支払いにおいて知っておくべき『五原則』と『非常時払』を説明します。

労働者の生活を守ることが目的

 
   労働基準法における賃金とは、給料や手当や賞与なども含め、労働の対価として使用者から労働者に支払われるものすべてと定められています。
就業規則などであらかじめ明確に定められているボーナスや退職金も、すべて労働の対価として支払われるため、賃金に該当します。

労働基準法第24条ではこの賃金の支払いについて定めており、使用者は、「通貨」で「直接労働者」に「全額」を「毎月1回以上」は「一定の期日を定めて」支払う必要があります。
この5つの定めを『賃金支払の五原則』と呼びます。

このような五原則が定められている理由はすべて、労働条件は労働者が人としての生活を営むための必要を充たすべきものであり、労働者がそのために不利益をこうむらないようにするためです。

たとえば、賃金は通貨で支払うように定めています(通貨払の原則)。
これは、価格が不明瞭で現金化も困難な現物(会社の商品など)での支給を禁止し、労働者が安心して賃金を受け取れるようにするためです。
ただし、労働協約で定めた場合は通貨ではなく現物での支給も可能とされています。
ちなみに、日本における通貨とは日本銀行券のことなので、ドルなどの外国通貨での支払いや、自社の商品券、銀行振出自己宛小切手などでの支払いも認められていません。

また、使用者が賃金を労働者に直接支払わなければならないという直接払の原則は、第三者による中間搾取を排除するためであり、全額を支払わなければならないという全額払の原則は必要以上の控除を防止し、労働者の生活の安定を図るという理由があります。
たとえば、労働者の代理人に賃金を支払ったり、積立金などの名目で賃金から一部を差し引いたりしてはいけません。
ただし、所得税の源泉徴収など公益上の必要があるものや、事理明白なものなどは一部控除することが認められています。

毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うという原則も、支払い期日の間隔が開いたり、支払日が不安定になったりすることで、労働者の生活が立ち行かなくなることを防ぐための規定です。
会社の資金繰りが苦しいなどの理由で、今月は賃金を支払わず、来月に2カ月分の賃金を支払うといった行為や「毎月中旬」や「毎月第1月曜日」というような不明瞭な定めは認められていません。

労働者のピンチを助ける非常時払とは

 
   一方で、労働基準法に定められた「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う原則」には、賃金の『非常時払』という例外があります。

労働基準法第25条では、労働者もしくは労働者の収入によって生計を維持する者が、出産や疾病、災害などの非常時の費用に充てる場合の請求に限り、通常の支払い期日を繰り上げて賃金を支払うように定めています。
この「非常時」にはほかにも、労働者が結婚する場合や、死亡した場合、やむを得ない事由により1週間以上帰郷する場合などが含まれます。
ちなみに、労働者の収入によって生計を維持する者とは、実質的に労働者の収入がなければ生活できない人のことを指すため、家族ではない同居人など、親族以外でも該当することがあります。

もし、労働者から非常時払を求められた場合、使用者はこれに応じて、給与の支払日前であったとしても賃金を支払う義務があります。
ただし、支払う必要がある賃金は、労働者がすでに労務の提供を終えていて、かつ未払いになっている労働分です。
月給制であれば、労働者が労務を提供した日から、実際に請求を受けて支払う日までを日割りで計算して、非常時払を行う賃金を算出します。

労働基準法で非常時払の支払い期日は定められていませんが、労働者が非常時に必要になるお金という性質上、できるだけ早く支払うのが望ましいでしょう。

賃金支払の五原則を守らないと、労働基準法違反になります。
同様に、非常時払に対応しなかった場合も労働基準法違反となり、いずれのケースでも使用者は30万円以下の罰金に処される場合があります。
さらに、非常時払に対応しなかったことで労働者に損害が出た場合は、損害賠償請求をされる可能性もあるので注意してください。

会社にとって従業員は大切な人的資源です。
従業員が安心して生活できるように賃金支払の五原則を遵守することはもちろんですが、従業員の非常事態に迅速に非常時払ができるように安定した経営活動に努めましょう。

 民法や不動産登記法の一部などが改正され、2024年4月1日から、これまで任意だった相続登記の義務化が始まります。
この義務化は、所有者がわからない『所有者不明土地』の解消を目的としたもので、不動産を取得した相続人にその取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行う義務を課し、これに違反すると罰則を科すものです。
しかし、さまざまな理由ですぐには相続登記の申請ができない人もいます。
そうした人のための救済措置として、『相続人申告登記』という新しい制度が創設されました。
相続人になったら知っておきたい相続人申告登記の内容について説明します。

相続登記の申請が義務化された背景
 

 これまで相続登記は義務ではなく、申請をしなくても相続人が罰則を受けることはありませんでした。
そのため、亡くなった被相続人から不動産を相続しても、その土地の価値が低かったり、売却することが困難だったりした場合、多くの相続人は手間や費用をかけてまで、わざわざ相続登記の申請をしようとは思いませんでした。

しかし、そうした土地が長期に渡って放置され続け、日本では所有者がわからない土地が大量に発生してしまいました。
こうした土地のことを『所有者不明土地』といいます。

増え続ける所有者不明土地は都市開発の妨げになり、周囲の環境悪化にもつながるなど社会問題化しており、政府にとっては所有者不明土地の解消が喫緊の課題でした。
そこで、法改正によって相続登記が義務化され、土地の所有者を明らかにさせることになりました。

施行日の2024年4月1日以降、相続によって土地や建物などの不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をする義務を負うことになります。
もし、正当な理由がないのに相続登記の申請を行わなかった場合は、法務局から登記をするように勧告され、それにも従わないと10万円以下の過料が科される可能性があります。
この相続登記の義務化の対象となる不動産は、新たに相続する土地や建物はもちろん、これまで相続登記が行われていなかったものも含まれます。

すぐに相続登記ができない人の救済措置
 

 不動産を相続した際に相続人が1人しかいなければ、比較的スムーズに相続登記を申請しやすいでしょう。
しかし、相続人が複数いる場合は遺産分割協議を行い、遺産分割が成立してからでないと相続登記の申請ができません。
遺産分割をせずにすべての相続人が共同で不動産を取得し、そのまま登記に反映することもできますが、ケースによってはかなりの手間と時間がかかる可能性があります。
不動産を共有したまま登記するには、法定相続人の範囲および法定相続分の割合の確定が必要です。

また、相続の際には、相続人が1人でも複数でも、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸除籍謄本等の書類を集めなければいけません。
場合によっては複数の戸籍をさかのぼる必要もあり、手続きが煩雑であることがほとんどです。

これらをふまえ、相続人が簡単に相続登記の義務を果たせるよう、『相続人申告登記』という新しい制度が創設されました。
相続人申告登記は、相続する不動産について相続が開始したことと、自分が相続人であることを3年以内に登記官に申し出ることで、とりあえず相続登記の義務を履行したとみなす制度です。
申し出を行なった相続人の氏名や住所などが登記されることになり、登記簿を見れば、その不動産を相続した相続人が誰なのかを把握することができます。

この制度では、特定の相続人が単独で申し出ることが可能なため、現状でほかの相続人がいるかどうかを明確にする必要がありません。
また、ほかの相続人の代理として、特定の相続人が申し出ることもできます。
さらに、法定相続分の割合の確定も不要です。
手続きとしては、申し出る相続人の戸籍謄本を提出します(場合によっては、ほかの書類も求められることがあります)。
基本的には、戸除籍謄本や複数の戸籍をさかのぼる書類などを収集・用意する必要がなく、大きな費用もかかりません。

ただし注意したいのは、相続人申告登記によって相続人が申し出たからといって、相続登記の申請が済んだわけではないということです。
相続人申告登記は、あくまで相続登記の申請が3年以内に間に合わない相続人のための救済措置であり、ひとまず相続登記の義務を履行したことにする制度です。
10万円以下の過料は免れることはできますが、いずれにせよ相続登記の申請は行わなければいけません。

相続登記の申請は、場合によっては戸除籍謄本の収集や遺産分割協議などを行う必要があり、とても手間と時間がかかります。
相続が発生したら、まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

 

 AIのなかでも『生成AI』の技術は加速度的に進歩しており、近年はさまざまな生成AIを使用したサービスも生まれています。
生成AIとは、AIがみずから学習したデータから新しいテキストや画像、音楽やデザインなどのコンテンツを作り出す技術で、成果物はマーケティングや製品開発などの場面で活用することができます。
日本語で「生成力」を意味する「ジェネレーティブAI」とも呼ばれる生成AIは、革新的で便利な技術である反面、さまざまなリスクも取り沙汰されています。
生成AIのビジネスの活用について、どう判断すればいいのか検証していきます。

さまざまな方面で活用が進む生成AIの現在地


 イラストや写真、デザインを生み出す『MidJourney』『Stable Diffusion』などの画像生成AIや、2022年11月に公開されて大きな話題になった『ChatGPT』などの文章生成AIは、すでに多くの分野で活用されています。
2024年1月には、第170回芥川賞の受賞作『東京都同情塔』が文章生成AIを駆使して書かれたことが、大きな話題になりました。

ビジネスシーンにおいても、文章生成AIでメール本文やレポート、資料などを作成したり、アイデア出しや言語の翻訳、コード生成などを行なったりと、活用が進められています。
自然言語処理技術による日程調整を可能にしたChatGPT搭載のスケジュール管理ツールなども登場し、生成AIは業務の効率化を図るうえで欠かせないものになりつつあります。

大企業でも、画像生成AIツールを広告やキャンペーンで活用しているコカ・コーラ社や、生成AIでソフトウェア開発を行ったLINEヤフーの事例などはよく知られています。
また、NTTやサイバーエージェントなども、独自で生成AIのツールを開発し、積極的に生成AIの使用に取り組んでいます。

また、マーケティングの分野では、生成AIが顧客のデータ分析や行動予測を行う『Adobe Sensei』や、企業の決算を要約して生成AIが出力する経済情報プラットフォーム『SPEEDA』、生成AIの活用で広告のパフォーマンスを最適化する『Albert』など、さまざまなサービスが誕生し、IT企業を中心に導入が進んでいます。

生成AIに潜むリスクをどのように捉えるか
 

 作業を効率化すると同時に、イノベーションの創出も期待される生成AIの活用ですが、一方で、生成AIの使用を禁止している企業も少なくありません。
企業におけるChatGPTへの向き合い方について行なったある調査では、およそ7割の企業が生成AIアプリケーションの使用を禁止しているというデータもあり、生成AIの利点は十分に理解しているものの、さまざまなリスクから使用に踏み切れないという現状が浮かび上がってきました。

では、生成AIに潜むのは、どのようなリスクなのでしょうか。

生成AIには「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる、AIが大量のデータのなかから自動的に生成に必要なものをピックアップして学習する技術が用いられています。
このインプットに必要な大元のデータには知的財産が含まれているケースも多く、もし生成AIが既存の知的財産と類似した成果物を出力し、それを使用した場合、状況によっては著作権侵害に該当する可能性もあります。

また、大元のデータに個人情報や個人を特定する画像などが含まれている場合は、肖像権やパブリシティ権、プライバシーなどの問題も出てきます。
ほかにも、生成AIが出力する誤った情報や偏った情報を、そうとは知らないまま受け取ってしまう可能性もあるでしょう。
近年はSNSなどで、生成AIが作ったフェイクニュースや、偽物の動画が拡散されるケースも増えてきているので、真偽の確認が必要です。

生成AIの使用には、「他者の権利や利益を侵害していないか」という視点を持つことが重要で、生成AIを活用している企業の多くは、使用に関するガイドラインを策定するなどのルール作りを行なっています。

日本では生成AIの活用について、規制する法律がまだ存在しません。
しかし、世界では生成AIとの共存を目指すためのルール作りが進められているため、日本でもAI 戦略会議などで生成AIの利点と問題点が整理されはじめています。
2024年1月には、大学や大手企業で構成される生成AIの業界団体が発足するなど、ルール作りに向けた動きが活発化してきました。
生成AIは活用次第で生産性の向上や業務効率化の面で成果が期待できますが、ルールやガイドラインが未整備であるなど注意すべき点もあります。
まだ過渡期にある生成AIに対して企業としてどのような措置を取るのか、今後の動きを注視しながら、社内で対応を検討していく必要があります。

    約束手形や小切手など、紙の有価証券は将来的に廃止される予定です。これまで企業間取引を支えてきた決済手段が、なぜ廃止に向かっているのでしょうか。現在の約束手形の概要と、そのデメリットを解消するために推奨されている新たな決済手段について説明します。

明治時代から今も続く決済手段  しかし政府は廃止する方針を発表

   約束手形において、発行する側を『振出人』、受け取る側を『受取人』といいます。約束手形は、振出人が一定の期日までに受取人に所定の金額を支払うことを約束する決済手段で、日本では明治時代に普及しました。企業間の取引で行われる現金決済の場合は、商品の受け渡し後の約1~2カ月以内に代金を支払うのが一般的ですが、約束手形であれば、現金決済よりも遅い期日に設定することができます。
中小企業庁の資料によれば、約束手形の支払いサイトの平均値は110日となっています。このように、約束手形による決済は、代金の支払い期限を現金決済よりも伸ばすことができるため、振出人となる発注側の企業は資金繰りの負担が減ります。
 約束手形を利用するには、振出人は銀行に当座預金口座を開設します。そして、銀行から交付を受けた約束手形を受取人に発行することで、口座に残高がなくても高額な取引が可能になります。その後、支払期日までに口座に所定の金額を振り込みます。
一方、受取人は支払期日に約束手形を銀行に提示することで、振出人の口座から決済日に所定の金額を受け取れるという仕組みです。
 資金調達や決済手段の多様化などにより、最盛期だった1990年代と比べると減少している約束手形ですが、現在も高額な資材費や原材料費などが発生する製造業や建設業などで主に利用されています。
しかし、政府は2026年を目処に約束手形と小切手を廃止する方針を打ち出しており、メガバンクも2024年1月から当座預金口座の新規開設者を対象に、紙の手形や小切手の発行停止を発表しました。
また、既存顧客に対しても2027年4月以降を期日とする手形や小切手の受付停止を発表しています。

リスクや負担を軽減するために電子化が推奨されている

   銀行が取り扱いを止めるしまうと、今後は約束手形での取引ができなくなります。長年の慣習だった小切手や約束手形などが廃止されようとしている理由の一つに、受取人の負担があります。受取人の企業にしてみれば、商品を納品したにもかかわらず、長期間に渡って代金が入ってこないことになります。
さらに、振出人が期日までに口座に入金できない場合は、約束手形を銀行に持参しても、受取人は支払いを受けることができません。約束手形が現金化できないことを『不渡り』といいます。そのほかに、受取人が取立手数料や割引料などを負担するなど、受取人のデメリットや振出人に有利な約束手形の取引慣行はかねてから問題視されていました。また、支払期日までに紙の約束手形を紛失しないように保管しておかなければならず、こうしたリスクや事務負担も廃止に向かっている理由です。
 

 現在、経済産業省や全国銀行協会では、紙の約束手形の代替手段として、ネット上で取引できる『でんさい』や『電手決済サービス(以下、電手)』などの利用を推奨しています。どちらも約束手形など紙の手形を電子化したもので、紙の手形と同様に利用でき、ペーパーレス化によってコストや事務負担も軽くなりました。また、紙の約束手形は現金化するために受取人が自社の取引銀行に『取立依頼』をする必要がありましたが、でんさいや電手は支払期日に自動入金されるため、この取立依頼も不要になります。
 紙の約束手形はいずれ廃止されることが決定しています。事務負担の軽減や資金繰りの円滑化など、振出人と受取人の双方にメリットのある電子化された約束手形の利用を検討しましょう。
 

  事業を継続・発展させるために重要な『経営計画』は、策定して終わりではなく、その計画をスタートさせなければ意味がありません。経営計画を策定する重要性や見直しの必要性と、そのタイミングについて確認していきましょう

経営計画はビジョンを明確に示し経営戦略や目標を可視化すること

 人・モノ・金・情報といった経営資源には限りがあり、近年では経済情勢や外部環境の変化も著しいため、経営はいうまでもなく、一朝一夕で成功を収められるほど簡単なものではありません。
そこで重要なのが経営計画です。経営計画とは、経営理念を実現するために、目標やビジョンを明確にし、経営戦略や行動計画を具体的に示すことです。
経営計画のない企業経営は航海にたとえるなら、地図やコンパスを持たずに航行するようなもの。自社が今どこに向かっているのかわからずに働く従業員は、不安になるでしょう。
経営目標や戦略を策定することはもちろん大事ですが、それを可視化できなければ意味をなしません。経営計画を示すことで、社内の暗黙のルールだった目標や方向性が明確になり、事業計画もスムーズに運ぶようになります。そして、それが理念と
なって社内に根付きます。結果、社員側も自分の将来における人生設計が可能となり、安心して働けるようになるのです。
 経営計画がしっかり構築されている企業には、そうでない企業よりも優秀な人材が集まりやすい傾向があります。また、金融機関から融資を受ける場合、そもそも経営(事業)計画がないと審査に通りません。公的な補助金や助成金を申請する際も、綿密な経営計画を策定すると採択率が高まるといわれています。
経営計画の策定は、資金調達において有利に働き、取引先や従業員・求職者からの信用力強化の観点からも有用だといえるでしょう。

社内外環境の変化を早期に見極め,軌道修正することが大きなカギ

 

   策定した経営計画を完璧に遂行するのは事実上不可能です。不確実性の高い時代といわれるなかで、計画通りにいかないことのほうが多いのは当然でしょう。
また、経営計画策定後に非常に重要なのが、定期的に経営計画の進捗を確認することです。見直しのスパンは短期であればあるほど好ましいといえます。特に近年は感染症の流行や物価上昇・為替市況などの観点から、先々を見通すことがむずかしい情
勢です。しかし、むしろこのように事業環境(外部環境)が変化したタイミングこそ経営計画の見直しが必須です。そのなかで、計画が期限内に達成できそうもないと判断されたのであれば、迅速に軌道修正を行いましょう。逆に計画が早期に達成する見込みとなった場合も同様です。
 

   会社経営を成功に導くために重要なツールである経営計画は、策定して終わりではありません。環境の変化に対応しつつ、成長し続けていくためにも、経営計画を策定したあとは、定期的に見直しながら運用していきましょう

 2010年4月から月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率が引き上げられ、大企業では50%と定められました。改正に伴い2023年4月1日からは中小企業でもこの割増賃金率の引き上げが開始されています。

今回は、この改正のポイントなどについて解説します。

深夜労働や休日労働の取り扱いも見直しへ 割増賃金率を要チェック

 労働者が健康を保持しながら、労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう、2010年4月1日から労働基準法における月60時間を超える法定時間外労働(以下時間外労働)の割増賃金率が引き上げられ、大企業は即時適用されました。
 中小企業については、その影響の大きさなどが考慮され、適用が猶予されていましたが、改正により2023年4月1日からは、大企業と同じく適用・開始されています。
 これまで、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、大企業が50%以上、中小企業が25%以上でした。しかし、大企業、中小企業ともに50%以上に改正され、中小企業の割増賃金率の下限が25%から50%に引き上げられました。なお、月60時間以下の時間外労働の割増賃金率は、従来通り、大企業、中小企業ともに25%です。
 そして、この割増賃金率の引き上げに伴い、深夜労働や休日労働を行う場合の取り扱いについても見直されました。
 深夜労働については、月60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせる場合には、割増賃金率は75%以上(深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%)となります。 
また、休日労働については、法定休日に行った労働時間は月60時間を超える時間外労働の算定には含まれません。それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。なお、法定休日に労働させた場合の割増賃金率は、従来通り35%以上です。

引き上げ分の割増賃金の代わりは代替休暇の付与での対応も可能

 こうした割増賃金率の引き上げに伴い、『代替休暇制度』 が設けられています。この制度は、月60時間を超える時間外労働を行なった労働者の健康を確保するため、引き上げ分(25%)の割増賃金の支払の代わりに、有給の休暇(代替休暇)を付与することができるというものです。ただし、代替休暇を付与したとしても、60時間以上で引き上げられた分以外の割増賃金は支払う必要があります。
 この制度の主な内容は、次の2つになります。
①付与する代替休暇の時間数は、「(1カ月の法定時間外労働時間数-60)×換算率」で算定します。
換算率は、「代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率-代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率」です。
②特に長い時間外労働を行った労働者の休息の機会を確保する観点から、代替休暇は、まとまった単位(1日、半日、1日または半日のいずれか)で、一定の近接した期間内(法定時間外労働が月60時間を超えた月の末日の翌日から2カ月間以内の期間)に付与しなければなりません。
 また、代替休暇制度の導入にあたっては、労使協定を結ぶ必要がありますが、この協定は労働者に代替休暇の取得を義務づけるものではありません。
実際に代替休暇を取得するかどうかの決定権は労働者にあり、労働者は割増賃金の支払いを受けるか代替休暇を取得するかを任意で選択できます。
 

 事業者においては、割増賃金率の引き上げや代替休暇制度の導入に合わせて、必要な就業規則の変更がなされているかを確認することが大切です。
従業員の労働時間を適切に管理し、賃金を適正に支払うという労務管理の基本を徹底しましょう。

  1年間の所得税の額を算出し、税務署に申告・納税する手続きを確定申告といいます。個人事業主などは、所得があった年の翌年の指定された期間中に確定申告を行う必要があります。新たに確定申告をする必要がある人に向けて、確定申告に役立つ相談先を紹介します。

確定申告の有無を確認しておく無申告はペナルティの危険あり
  

  法人の確定申告は事業年度ごとの決算に基づいて行うため、一律で決まった期日はありませんが、個人事業主は毎年2月16日から3月15日という短期間で確定申告を行わなければいけません。また、個人事業主以外も、投資や不動産取引などで一定の所得が発生している人や、一定額の公的年金を受給している人、1年間の給与所得が2,000万円を超える会社員、副業など本業以外での所得が20万円を超える人なども、この期間内に確定申告を済ませる必要があります。
 確定申告は自身で1年間の収支と支出に基づき、納めるべき所得税額を計算しなければいけません。
煩雑な計算や制度のむずかしさなどから、多くの人が「手間がかかる」「よくわからない」と感じています。しかし、確定申告を行わない『無申告』のままでいると、税務署から税務調査を受ける可能性があり、場合によっては無申告加算税や延滞税などが課せられ、本来の税金以上の額を納めなければいけないこともあります。
 こうしたペナルティを受けないために、手間や時間がかかっても期日までに確定申告を行う必要があります。もし、わからないことや確定申告の方法を確認したい場合などは、さまざまな組織や団体が設けている相談窓口などを利用しましょう。
たとえば、税務のプロである税理士事務所では、確定申告時期に無料の相談会を開いているところが少なくありません。また、費用はかかりますが、確定申告の手続きそのものを税理士に引き受けてもらうことも可能です。税理士への依頼は、優遇税制や節税対策など、事業や税金についての有効なアドバイスをしてくれるというメリットがあります。

 

期間中には相談会場などが開設  電話やチャットなどでも相談できる

   確定申告の書類を提出する税務署の多くも、期間中に相談会場などを設けています。ただし、職員は確定申告の方法や相談に乗ってくれますが、書類自体は自分で作成しなければいけません。原則として、税務署は全国一律で開庁時間が月曜日から金
曜日の8時30分から17時までと決められており、一部の税務署では特定の日曜日に相談を受け付けているところもあります。また、確定申告期間中は会場が混雑することが予想されるため、あらかじめ電話などで確認や予約をしておくとよいでしょう。
 来署することがむずかしい場合は、電話で相談することも可能です。各国税局には国税局電話相談センターが設置されており、税金に関する質問に答えてもらえます。電話相談は受付時間内のみの対応となりますが、国税局では税務相談チャットボット
『ふたば』を2020年から導入しており、こちらは24時間いつでもAI(人工知能)が対応してくれます。
所得税や消費税の確定申告に関する質問などに答えてくれるので、相談したいことがあれば、まずはスマートフォンやパソコンなどからチャットボットを利用してみることをおすすめします。
 税理士や税務署のほかにも、市区町村役場の税務に関係する窓口や、商工会議所や商工会の開催する相談会などでも、確定申告について尋ねることができます。また、会員限定になりますが、各地の青色申告会では確定申告についてさまざまな支援を
行なっています。青色申告会とは青色申告を行う個人事業者のための納税者団体で、各地域の税務署ごとに点在しています。こうした団体や組織の力を借りながら、間違いのない適切な確定申告を行いましょう。

 限りある経営資源をどう効率よく活用するかは、経営者にとって悩ましい問題です。経済産業省は中小企業に対するさまざまな支援策を公表しています。それをふまえて中小企業がどのようにして自力で販路を開拓し拡大していくかについて解説します。

頑張る中小企業を応援するために国が示す販路拡大施策とは

 国際情勢の悪化に伴い、物価上昇などによる不況が長期化しています。また、グローバル化の進展などで中小企業は下請けの取引だけでなく、自社で販路を開拓する必要に迫られています。このような背景のなか、自社の製品やサービスを新規市場に
展開するにはどうすればよいのでしょうか。
 中小企業のなかには優れた新製品や新技術・新サービスを備えながら、販路の開拓に苦心しているケースは非常に多くあります。その理由としては、「新規性が高いがゆえに具体的な市場が顕在化していない」「さらに広域的な販路開拓を行いたいが
手がかりがない」などが挙げられます。経営資源に限りがある中小企業にとって、自社単独で販路開拓を行うのは至難の業といえます。
 そこで、このような悩みを抱える中小企業が活躍できるよう、国はさまざまな施策を打ち出しています。そのなかの一つである『販路拡大施策』は、主な施策として、独立行政法人中小企業基盤整備機構による『販路開拓コーディネート事業』を行っています。これは販路開拓に苦心する中小企業などを対象に、豊富な販路ネットワークを持つ販路開拓コーディネーターを中心として「ブラッシュアップ支援「テストマーケティング支援(市場へのアプローチの手がかりをつかむこと)」「フォローアップ支援」を行う事業です。   
 具体的には、マーケティング企画立案支援を行い、想定される市場を分析し販路を絞り込みます。そして、想定市場企業への同行訪問によるテストマーケティングを行い、フィードバックします。最終的に自社単独で販路開拓を実施できるよう、支援するというわけです。

人的なリソースが少ない企業では専門家への相談やIT活用を検討

 販路拡大費用を補助する施策としては『小規模事業者持続化補助金』があります。こちらは、商工会や商工会議所の支援を受けながら、持続的な経営に向けた経営計画を作成し、販路開拓や生産性向上に取り組む小規模事業者に対して、その費用の
一部を補助する制度です。具体的には、各地の商工会議所で行われている販路開拓・拡大にあたり、たとえば東京商工会議所では大手バイヤー企業の購買担当者と直接商談する機会を設けています。
 このほかにも、中小企業診断士などの専門家に相談することも一案です。また、人手不足により販路開拓に踏み出せない場合は、生産性をあげるためにITの活用を検討してもよいでしょう。
 販路開拓を行うには、広範囲において自社製品やサービスを展開できるようにすることが大切です。
その際、どのポジションに経営資源を投入すれば他社と差別化できるのかを見極めることが重要といえます。政府による支援や補助金など外部資源を上手に活用しながら、自社製品やサービスの販路開拓をすすめていきましょう。

 2023年10月1日からインボイス制度がスタートしました。免税事業者から課税事業者になると、これまでの所得税や法人税の確定申告に加えて、消費税の確定申告も行う必要が出てきます。
新たに課税事業者となった際に必要な、確定申告の基礎知識を説明します。

インボイスの請求書ではなくても1万円未満は仕入税額控除がOK

 免税事業者が適格請求書(インボイス)を発行するために適格請求書発行事業者として登録すると、課税事業者になります。免税事業者とは消費税の納税が免除されている事業者のことで、課税事業者とは消費税を納税する義務を負った事業者のことです。そのため、課税事業者は1年に一回、消費税の確定申告をしなければいけません。消費税の申告と納付の期限は、個人事業主であれば毎年3月31日(土日の場合は翌月曜日)、法人は課税期間終了日の翌日から2カ月以内です。
 ここでいう消費税は間接税といって、課税事業者が消費者や取引先などが支払った消費税をいったん預かり、代わりにまとめて納税する税金です。
 課税事業者も仕入れなどで消費税を支払っているため、二重課税にならないよう、確定申告の際には消費者や取引先から預かった消費税額から、仕入れなどの際に支払った消費税額を控除することができます。これを『仕入税額控除』といいます。ただ
し、インボイス制度の導入により、仕入税額控除を行うためには、インボイスとして発行された請求書や領収書が必要になります。
 インボイスではない請求書や領収書などは控除することができないため、その分の負担が増してしまいます。そこで、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについて、一定の期間はインボイスの保存がなくても仕入税額控除が可能になる『少額特例』と
いう緩和措置が取られます。この措置の対象になるのは、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者で、適用期間は2029年9月30日までです。

確定申告で行う消費税の計算と課税事業者の事務負担軽減がカギ

 インボイス制度導入により、税負担や事務負担の増加が懸念されています。そこで新たに課税事業者となった小規模事業者を対象に、『2割特例』という支援措置も取られます。これは、2026年9月30日までの3年間は、納税額を預かり消費税の2割程
度にできるというものです。
 納税する消費税額算出のための仕入控除税額の計算方法は、事業者ごとに異なり、複雑です。たとえば売上が700万円で経費が150万円の場合、従来は一般課税の場合、消費税額が55万円ほど、簡易課税の場合は35万円(サービス業のみなし仕入率で算出)ほどになります。しかし、2割特例では売上700万円の消費税となる70万円の2割、つまり14万円が納める消費税額になります。  
 

 このように、さまざまな緩和措置が設けられていますが、あくまで期限つきの措置ということを理解しておきましょう
消費税の確定申告に必要な確定申告書や消費税額計算表などの書類は、国税庁のホームページや税務署の窓口で入手できます。確定申告書には、課税標準額や仕入税額、納付税額や消費税額などを算出したうえで、それぞれの数値を正しく記入し、税
務署に提出しなければいけません。
 インボイス制度はスタートする前から、導入により事務負担が増すことが懸念されてきました。特に確定申告は、知識も時間も必要です。新たに免税事業者から課税事業者になった事業者は、事務負担の軽減のためにもインボイス制度に対応した会計
ソフトの導入や、税理士など専門家への依頼なども検討することをおすすめします。

 

インボイス制度のことやその他会計・税務のことでお困りのことは斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。