2010年4月から月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率が引き上げられ、大企業では50%と定められました。改正に伴い2023年4月1日からは中小企業でもこの割増賃金率の引き上げが開始されています。

今回は、この改正のポイントなどについて解説します。

深夜労働や休日労働の取り扱いも見直しへ 割増賃金率を要チェック

 労働者が健康を保持しながら、労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう、2010年4月1日から労働基準法における月60時間を超える法定時間外労働(以下時間外労働)の割増賃金率が引き上げられ、大企業は即時適用されました。
 中小企業については、その影響の大きさなどが考慮され、適用が猶予されていましたが、改正により2023年4月1日からは、大企業と同じく適用・開始されています。
 これまで、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、大企業が50%以上、中小企業が25%以上でした。しかし、大企業、中小企業ともに50%以上に改正され、中小企業の割増賃金率の下限が25%から50%に引き上げられました。なお、月60時間以下の時間外労働の割増賃金率は、従来通り、大企業、中小企業ともに25%です。
 そして、この割増賃金率の引き上げに伴い、深夜労働や休日労働を行う場合の取り扱いについても見直されました。
 深夜労働については、月60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせる場合には、割増賃金率は75%以上(深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%)となります。 
また、休日労働については、法定休日に行った労働時間は月60時間を超える時間外労働の算定には含まれません。それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。なお、法定休日に労働させた場合の割増賃金率は、従来通り35%以上です。

引き上げ分の割増賃金の代わりは代替休暇の付与での対応も可能

 こうした割増賃金率の引き上げに伴い、『代替休暇制度』 が設けられています。この制度は、月60時間を超える時間外労働を行なった労働者の健康を確保するため、引き上げ分(25%)の割増賃金の支払の代わりに、有給の休暇(代替休暇)を付与することができるというものです。ただし、代替休暇を付与したとしても、60時間以上で引き上げられた分以外の割増賃金は支払う必要があります。
 この制度の主な内容は、次の2つになります。
①付与する代替休暇の時間数は、「(1カ月の法定時間外労働時間数-60)×換算率」で算定します。
換算率は、「代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率-代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率」です。
②特に長い時間外労働を行った労働者の休息の機会を確保する観点から、代替休暇は、まとまった単位(1日、半日、1日または半日のいずれか)で、一定の近接した期間内(法定時間外労働が月60時間を超えた月の末日の翌日から2カ月間以内の期間)に付与しなければなりません。
 また、代替休暇制度の導入にあたっては、労使協定を結ぶ必要がありますが、この協定は労働者に代替休暇の取得を義務づけるものではありません。
実際に代替休暇を取得するかどうかの決定権は労働者にあり、労働者は割増賃金の支払いを受けるか代替休暇を取得するかを任意で選択できます。
 

 事業者においては、割増賃金率の引き上げや代替休暇制度の導入に合わせて、必要な就業規則の変更がなされているかを確認することが大切です。
従業員の労働時間を適切に管理し、賃金を適正に支払うという労務管理の基本を徹底しましょう。

  1年間の所得税の額を算出し、税務署に申告・納税する手続きを確定申告といいます。個人事業主などは、所得があった年の翌年の指定された期間中に確定申告を行う必要があります。新たに確定申告をする必要がある人に向けて、確定申告に役立つ相談先を紹介します。

確定申告の有無を確認しておく無申告はペナルティの危険あり
  

  法人の確定申告は事業年度ごとの決算に基づいて行うため、一律で決まった期日はありませんが、個人事業主は毎年2月16日から3月15日という短期間で確定申告を行わなければいけません。また、個人事業主以外も、投資や不動産取引などで一定の所得が発生している人や、一定額の公的年金を受給している人、1年間の給与所得が2,000万円を超える会社員、副業など本業以外での所得が20万円を超える人なども、この期間内に確定申告を済ませる必要があります。
 確定申告は自身で1年間の収支と支出に基づき、納めるべき所得税額を計算しなければいけません。
煩雑な計算や制度のむずかしさなどから、多くの人が「手間がかかる」「よくわからない」と感じています。しかし、確定申告を行わない『無申告』のままでいると、税務署から税務調査を受ける可能性があり、場合によっては無申告加算税や延滞税などが課せられ、本来の税金以上の額を納めなければいけないこともあります。
 こうしたペナルティを受けないために、手間や時間がかかっても期日までに確定申告を行う必要があります。もし、わからないことや確定申告の方法を確認したい場合などは、さまざまな組織や団体が設けている相談窓口などを利用しましょう。
たとえば、税務のプロである税理士事務所では、確定申告時期に無料の相談会を開いているところが少なくありません。また、費用はかかりますが、確定申告の手続きそのものを税理士に引き受けてもらうことも可能です。税理士への依頼は、優遇税制や節税対策など、事業や税金についての有効なアドバイスをしてくれるというメリットがあります。

 

期間中には相談会場などが開設  電話やチャットなどでも相談できる

   確定申告の書類を提出する税務署の多くも、期間中に相談会場などを設けています。ただし、職員は確定申告の方法や相談に乗ってくれますが、書類自体は自分で作成しなければいけません。原則として、税務署は全国一律で開庁時間が月曜日から金
曜日の8時30分から17時までと決められており、一部の税務署では特定の日曜日に相談を受け付けているところもあります。また、確定申告期間中は会場が混雑することが予想されるため、あらかじめ電話などで確認や予約をしておくとよいでしょう。
 来署することがむずかしい場合は、電話で相談することも可能です。各国税局には国税局電話相談センターが設置されており、税金に関する質問に答えてもらえます。電話相談は受付時間内のみの対応となりますが、国税局では税務相談チャットボット
『ふたば』を2020年から導入しており、こちらは24時間いつでもAI(人工知能)が対応してくれます。
所得税や消費税の確定申告に関する質問などに答えてくれるので、相談したいことがあれば、まずはスマートフォンやパソコンなどからチャットボットを利用してみることをおすすめします。
 税理士や税務署のほかにも、市区町村役場の税務に関係する窓口や、商工会議所や商工会の開催する相談会などでも、確定申告について尋ねることができます。また、会員限定になりますが、各地の青色申告会では確定申告についてさまざまな支援を
行なっています。青色申告会とは青色申告を行う個人事業者のための納税者団体で、各地域の税務署ごとに点在しています。こうした団体や組織の力を借りながら、間違いのない適切な確定申告を行いましょう。

 限りある経営資源をどう効率よく活用するかは、経営者にとって悩ましい問題です。経済産業省は中小企業に対するさまざまな支援策を公表しています。それをふまえて中小企業がどのようにして自力で販路を開拓し拡大していくかについて解説します。

頑張る中小企業を応援するために国が示す販路拡大施策とは

 国際情勢の悪化に伴い、物価上昇などによる不況が長期化しています。また、グローバル化の進展などで中小企業は下請けの取引だけでなく、自社で販路を開拓する必要に迫られています。このような背景のなか、自社の製品やサービスを新規市場に
展開するにはどうすればよいのでしょうか。
 中小企業のなかには優れた新製品や新技術・新サービスを備えながら、販路の開拓に苦心しているケースは非常に多くあります。その理由としては、「新規性が高いがゆえに具体的な市場が顕在化していない」「さらに広域的な販路開拓を行いたいが
手がかりがない」などが挙げられます。経営資源に限りがある中小企業にとって、自社単独で販路開拓を行うのは至難の業といえます。
 そこで、このような悩みを抱える中小企業が活躍できるよう、国はさまざまな施策を打ち出しています。そのなかの一つである『販路拡大施策』は、主な施策として、独立行政法人中小企業基盤整備機構による『販路開拓コーディネート事業』を行っています。これは販路開拓に苦心する中小企業などを対象に、豊富な販路ネットワークを持つ販路開拓コーディネーターを中心として「ブラッシュアップ支援「テストマーケティング支援(市場へのアプローチの手がかりをつかむこと)」「フォローアップ支援」を行う事業です。   
 具体的には、マーケティング企画立案支援を行い、想定される市場を分析し販路を絞り込みます。そして、想定市場企業への同行訪問によるテストマーケティングを行い、フィードバックします。最終的に自社単独で販路開拓を実施できるよう、支援するというわけです。

人的なリソースが少ない企業では専門家への相談やIT活用を検討

 販路拡大費用を補助する施策としては『小規模事業者持続化補助金』があります。こちらは、商工会や商工会議所の支援を受けながら、持続的な経営に向けた経営計画を作成し、販路開拓や生産性向上に取り組む小規模事業者に対して、その費用の
一部を補助する制度です。具体的には、各地の商工会議所で行われている販路開拓・拡大にあたり、たとえば東京商工会議所では大手バイヤー企業の購買担当者と直接商談する機会を設けています。
 このほかにも、中小企業診断士などの専門家に相談することも一案です。また、人手不足により販路開拓に踏み出せない場合は、生産性をあげるためにITの活用を検討してもよいでしょう。
 販路開拓を行うには、広範囲において自社製品やサービスを展開できるようにすることが大切です。
その際、どのポジションに経営資源を投入すれば他社と差別化できるのかを見極めることが重要といえます。政府による支援や補助金など外部資源を上手に活用しながら、自社製品やサービスの販路開拓をすすめていきましょう。

 2023年10月1日からインボイス制度がスタートしました。免税事業者から課税事業者になると、これまでの所得税や法人税の確定申告に加えて、消費税の確定申告も行う必要が出てきます。
新たに課税事業者となった際に必要な、確定申告の基礎知識を説明します。

インボイスの請求書ではなくても1万円未満は仕入税額控除がOK

 免税事業者が適格請求書(インボイス)を発行するために適格請求書発行事業者として登録すると、課税事業者になります。免税事業者とは消費税の納税が免除されている事業者のことで、課税事業者とは消費税を納税する義務を負った事業者のことです。そのため、課税事業者は1年に一回、消費税の確定申告をしなければいけません。消費税の申告と納付の期限は、個人事業主であれば毎年3月31日(土日の場合は翌月曜日)、法人は課税期間終了日の翌日から2カ月以内です。
 ここでいう消費税は間接税といって、課税事業者が消費者や取引先などが支払った消費税をいったん預かり、代わりにまとめて納税する税金です。
 課税事業者も仕入れなどで消費税を支払っているため、二重課税にならないよう、確定申告の際には消費者や取引先から預かった消費税額から、仕入れなどの際に支払った消費税額を控除することができます。これを『仕入税額控除』といいます。ただ
し、インボイス制度の導入により、仕入税額控除を行うためには、インボイスとして発行された請求書や領収書が必要になります。
 インボイスではない請求書や領収書などは控除することができないため、その分の負担が増してしまいます。そこで、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについて、一定の期間はインボイスの保存がなくても仕入税額控除が可能になる『少額特例』と
いう緩和措置が取られます。この措置の対象になるのは、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者で、適用期間は2029年9月30日までです。

確定申告で行う消費税の計算と課税事業者の事務負担軽減がカギ

 インボイス制度導入により、税負担や事務負担の増加が懸念されています。そこで新たに課税事業者となった小規模事業者を対象に、『2割特例』という支援措置も取られます。これは、2026年9月30日までの3年間は、納税額を預かり消費税の2割程
度にできるというものです。
 納税する消費税額算出のための仕入控除税額の計算方法は、事業者ごとに異なり、複雑です。たとえば売上が700万円で経費が150万円の場合、従来は一般課税の場合、消費税額が55万円ほど、簡易課税の場合は35万円(サービス業のみなし仕入率で算出)ほどになります。しかし、2割特例では売上700万円の消費税となる70万円の2割、つまり14万円が納める消費税額になります。  
 

 このように、さまざまな緩和措置が設けられていますが、あくまで期限つきの措置ということを理解しておきましょう
消費税の確定申告に必要な確定申告書や消費税額計算表などの書類は、国税庁のホームページや税務署の窓口で入手できます。確定申告書には、課税標準額や仕入税額、納付税額や消費税額などを算出したうえで、それぞれの数値を正しく記入し、税
務署に提出しなければいけません。
 インボイス制度はスタートする前から、導入により事務負担が増すことが懸念されてきました。特に確定申告は、知識も時間も必要です。新たに免税事業者から課税事業者になった事業者は、事務負担の軽減のためにもインボイス制度に対応した会計
ソフトの導入や、税理士など専門家への依頼なども検討することをおすすめします。

 

インボイス制度のことやその他会計・税務のことでお困りのことは斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。

 定年とは、従業員が一定の年齢に達したことを退職の理由にする制度のことです。
現在、『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律』、通称『高年齢者雇用安定法』によって、定年年齢は60歳を下回ることはできません。
同法では、さらに事業者に対し、高齢者の雇用を確保することを義務づけています。
そのなかの措置の一つが、『定年制の廃止』です。定年制を廃止することで、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。
メリットやデメリットを含め、企業における定年制度の廃止について、考えてみます。

企業における定年制度についての現状
 高年齢者雇用安定法に基づき、企業は労働者の65歳までの雇用を確保しなければならず、「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置を講じるように義務づけられています。

2022年12月に公表された厚生労働省の『令和4年高年齢者雇用状況等報告』によれば、報告を行った従業員21人以上の企業23万5,875社のうち、99.9%の企業が『高齢者雇用確保措置』を実施しています。
この措置の内訳を見てみると、「定年の引上げ」が25.5%、「継続雇用制度の導入」が70.6%、そして「定年制の廃止」は3.9%でした。
雇用確保措置として採用されることの少ない定年制の廃止ですが、廃止を行う企業は年々増加傾向にあり、今後は『定年制のない会社』がそこまで珍しい存在ではなくなるという見方もあります。

さらに、高年齢者雇用安定法が改正され、2021年4月からは、現行の65歳までの雇用確保(義務)に加え、70歳までの就業機会を確保するために以下のいずれかの措置を講じることが努力義務とされました。

・70歳までの定年引き上げ
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度の導入
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
・70歳まで継続的に以下(1)(2)の事業に従事できる制度の導入
(1)事業主がみずから実施する社会貢献事業
(2)事業主が委託、出資などする団体が行う社会貢献事業

あくまで努力義務ですが、この措置のなかにも定年制の廃止が含まれました。
定年制の廃止は、少子高齢化や労働者不足などへの対応策として注目を集めており、労働者人口を確保するための施策として期待されています。

定年制を廃止するメリットとデメリット
 定年制を廃止するメリットはいくつかあり、そのなかでも高齢従業員が持っているノウハウや人脈を引き続き活用できるという点は、最大のメリットといえるでしょう。
たとえば経験が豊富な高齢従業員は、トラブルが起きたときの問題解決能力も高く、会社になくてはならない存在です。
ベテラン従業員が会社に在籍している間に、若手従業員を育てることで企業の底力アップにもつながります。
このほかにも、定年制を廃止することで退職時期を遅らせ、退職のタイミングを分散させることができます。
そのぶん、新規で人材を採用する必要がありません。
つまり、採用コストを削減できるメリットもあります。

一方で、デメリットとしては、人件費の増大や世代交代が進まないなどの問題が考えられます。
たとえば、年功序列で在籍年数が多いほど給与が上がる日本企業の場合、定年制が廃止されることにより人件費が増大します。
また、成果をあげているのに、ベテラン従業員がいることにより出世できないと、若手従業員の不満が溜まり退職につながる恐れもあります。
このほかにも、加齢によって業務遂行がむずかしくなる高齢従業員が出てきてしまう可能性もあるでしょう。
判断能力や業務遂行能力の低下は、会社の生産性や売上の低下を招くことにもなりかねません。

定年制度が普及している日本では、従業員が定年の年齢に達すると、労働契約が解除され、従業員は退職していくことになります。
しかし、定年制を廃止することで、高齢従業員は一定の年齢を迎えても労働契約を解除されることはありません。

定年制を廃止した企業における高齢者の退職としては、従業員の申し出による自己都合退職や、労使の合意による合意退職、会社都合による解雇、従業員の死亡による退職などが考えられます。
加齢による身体および認知能力の低下、病気などで業務に支障が出るような状態であれば、簡易な業務への転換や、出勤日時の調整などを検討します。
それでも働き続けるのがむずかしい場合は、該当従業員の意思を確認したうえで合意退職となります。
もし、合意に至らなければ、退職勧奨や解雇などの選択肢を選ぶことになるかもしれません。

定年制を廃止する際は、定年以外の退職方法を理解したうえで、就業規則の変更が必要です。
就業規則から定年の項目を削除する際は、退職金制度なども変更することになるため、従業員の不利益な変更にならないように注意します。
定年の廃止を行うかどうかは、自社の事情をふまえたうえで社労士など専門家に相談しながら、検討することをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。
 

   これまでバスやタクシー、トラックなどの自動車を運転する業務は、労働基準法による残業時間の上限規制が設けられていませんでした。しかし、労働基準法の改正により、2024年4月1日からは時間外労働の上限規制が適用されることになります。「2024年問題」とも呼ばれる自動車運転の業務における時間外労働の上限規制について確認しておきましょう。

ドライバーに対して適用される時間外労働の上限規制

   2018年に働き方改革関連法案が成立し、労働基準法が改正されました。この改正によって、ほとんどの企業は時間外労働の上限が原則月45時間・年360時間になり、臨時的な事情がない限り、これを超えることができなくなりました。臨時的な事情があって労使が合意する場合も、時間外労働は年720時間以内などの規制があります。多くの企業に適用されるこれらの基本的な規制を『一般則』といいます。この上限規制について、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用が始まりました。
 しかし、業務の特殊性や、短期間での切り替えがむずかしいことを理由に、自動車運転の業務などに対しては、5年間の猶予が設けられていました。この猶予が終了し、適用がスタートするのが2024年4月1日です。適用が始まると、自動車運転の業務についても、時間外労働の上限規制が原則月45時間・年360時間となり、臨時的な事情がある場合は、労使間で特別条項付き36協定を締結したうえで,年960時間(休日労働含まず)が限度となります。ただし、年960時間は月平均で80時間となりますが、1カ月の上限の規制はありません。
 これらの時間外労働の上限規制は、あくまで自動車運転の業務に対する規制です。運送業でも、ドライバーではない運行管理者、事務職、整備・技能職、倉庫作業職などは一般則が適用されます。ほかにも一般則では、特別条項付き36協定における時間
外労働と休日労働について、月100時間未満・2~6カ月平均80時間以内などと規制されていますが、自動車運転の業務には適用されません。また、一般則の『時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回まで』という規制も適用外となります。

改正改善基準告示も適用開始事業者が向き合う2024年問題

   時間外労働の上限規制には罰則が設けられており、違反すると6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるので注意が必要です。また、2024年4月1日に適用がスタートするまではドライバーをいくらでも働かせてよいというわけではありません。厚生労働省ではドライバーの拘束時間や休息時間などの基準となる『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)』を定めており、これに違反すると労働基準監督署から指導や是正勧告を受けることになります。
 この改善基準告示も改正され、新しい基準が2024年4月1日から適用されます。改善基準告示による規制はタクシー・ハイヤー、トラック、バスと,業種によって異なります。たとえばトラック運転者は、これまで1カ月の拘束時間が原則293時間、最
大320時間でしたが、2024年4月1日からは原則284時間、最大310時間になります。この改正された改善基準告示をもとに、事業者はドライバーの勤怠を見直す必要があります。
 

 いわゆる2024年問題と呼ばれるこれらの規制は、運送業の経営悪化を招くともいわれています。
時間外労働の上限規制の適用によって、ドライバーの荷物を運ぶ量が限られてしまうため、物流の脆弱化や運賃の上昇、さらにはドライバーの人手不足に拍車がかかるといった懸念があるからです。しかし、長時間労働が常態化している自動車運転業務においては、ドライバーの事故や過労死を避けるためにも、今回の上限規制の適用と、改善基準告示の改正に伴う適切な勤怠管理を行っていかなければいけません。運用開始はまもなくです。業務スケジュールの見直しや、作業の効率化など、自社で行える取り組みを考えていきましょう。


 

『倒産』とは法的に定義されている言葉ではなく、会社が資金繰りに窮して、事業を継続できない状態を指します。もし、取引先が倒産してしまったら、取引先から債権を回収しなければなりません。今回は、その回収方法について解説します。

 

納品済み商品の引き上げのための所有権留保特約を付帯させておく

 

  一般的に、倒産した企業から債権を回収するのは非常にむずかしいとされています。倒産は、経営がうまくいかずに資金不足に陥った状態だからです。
それでも、まったく方法がないわけではありません。
場合によっては、債権の大部分を回収できることもあります。
 まず、取引先が倒産したら、現状の確認を行います。社屋を訪れるなどして、取引先がどのような状況かを確認すれば、自社商品の納品を差し止めたり、納品済の商品を引き上げたりといった対応が取れます。一度納品した商品でも『所有権留保特約』を付帯させておけば、売買契約を解除して引き上げることが可能です。
 所有権留保特約とは、売り手が売買の代金を担保するために、代金が支払われるまでは所有権を買い手に移さず、保留する契約のことです。ただし、所有権留保特約があっても、相手先の倉庫から勝手に商品を持ち出すと、窃盗や不法侵入の罪に問わ
れる可能性があります。債務者である取引先から同意を得て、立ち会いのもと引き上げるようにしましょう。ちなみに同意を得る場合には、同意書を作成して署名をもらっておくと安心です。また、所有権留保特約を結んでいなくても、両社の合意があ
れば代金の未払いや契約の不履行を理由に売買契約を解除し、商品を引き上げることができます。さらに、取引先が商品の引き渡しを拒否したとしても、裁判所に占有移転禁止の仮処分の申立を行ってから訴訟を経て商品を引き上げる方法もあります。た
だし、商品が第三者に転売されている場合は、所有権留保特約の有無にかかわらず商品を引き上げることはできません。

 

資産を譲り受ける代物弁済や債務と債権を差し引く相殺で回収

 

   自社商品を引き上げられない場合は、合意のもと取引先の資産を債権の代わりに譲り受ける『代物弁済』という方法もあります。資産には、取引先に納品されていた商品や、入金前の受取手形や小切手、車や不動産なども含まれます。また、取引先が別の会社に対して保有している売掛金の債権を譲り受ける『債権譲渡』という方法もあります。ただし、ほかの債権者から詐害行為として取消される可能性もありますので、十分注意が必要です。
 さらに、取引先に対して債務がある場合には、取引先への債権と自社の債務を同じ金額だけ相殺させることもできます。ただし、いくつか要件があるので、実施する前に確認しておきましょう。
 代物弁済や相殺のほかにも、裁判による資産の仮差押えや連帯保証人への取立などの手段を講じることができます。しかし、取引先が『破産手続』を開始した場合には注意が必要です。破産手続とは、裁判所に選定された破産管財人が倒産した企業の
財産を金銭に換えて、債権者に配当金を分配する法的手続の一つです。倒産した取引先が破産手続を開始した場合、独自に債権を回収することができなくなります。また後日、自社が行った代物弁済や相殺などの債権回収に関して、破産管財人から否認
される可能性があります。否認された場合は、せっかく回収した金銭や資産を返さなければいけません。破産手続が開始されると、債権者は破産管財人から配当金しか受け取ることができず、債権の多くが未回収になる可能性もあります。
 ケースによって対応が異なるため、取引先が倒産したら、弁護士などの専門家に相談しましょう。

 『景品表示法』は、正式名称を『不当景品類及び不当表示防止法』といい、商品やサービスの内容や品質などを偽って表示する行為を禁止し、消費者が自主的かつ合理的に商品やサービスを選べる環境を守るための法律です。
2023年3月28日、消費者庁は景品表示法の定める禁止行為に、ステルスマーケティング、いわゆる『ステマ』を追加しました。
このステマに対する規制は、2023年10月1日から施行されています。
宣伝やプロモーションなどの手法によっては、ステマと判断される恐れもあるので、景品表示法に違反しないよう、ステマ規制について理解しておきましょう。

ステマが合理的な商品の選択を阻害する
 これまで企業が行ってきたステマには、主に2つの種類があります。
一つは、口コミサイトやECサイトに、一般消費者になりすまして自社商品に対する高評価のレビューを書き込んだり、逆に競合他社の商品に対する低評価レビューを書き込んだりする『なりすまし型』です。
もう一つは、インフルエンサーや著名人など、影響力のある第三者に報酬を支払い、自社商品の宣伝であることを隠して、情報を発信してもらう『利益提供型』です。

なりすまし型では、グルメサイトに評価や口コミなどを書き込む代行業者に、飲食店が対価を支払い、口コミの内容を操作していた事件が有名です。
利益提供型では、企業(オークションサイト運営者)から依頼された芸能人が宣伝であることを隠して、SNSにオークションサイトに関する投稿を行った事件がよく知られています。
特に、2012年に起きた後者の事件は、多くの芸能人が関わっていたことから『ステマ』がその年の新語・流行語大賞にもノミネートされるほど話題となりました。

ステマは、消費者による合理的な商品の選択を阻害する行為です。
通常、事業者による広告表示であれば、消費者はその内容について、ある程度の誇張表現が含まれると考え、商品を選ぶ際にそのことを考慮に入れます。
しかし、本来は事業者の広告表示であるにも関わらず、第三者を装う者が商品を取り上げると、消費者はその商品について正しく判断・選択することができなくなります。

同じ商品を宣伝する場合でも、企業が広告として宣伝するケースと、インフルエンサーが企業からの依頼を隠したまま「自分のおすすめ商品」としてSNSなどで発信するケースでは、消費者は後者を信用しがちです。
実際に、消費者庁の報告書によれば、「広告であることを明示しないことで、売上が20%増加した」「ステマによって、大手ECサイトにおける売上ランキングが20位ほど上昇した」などの結果が出ています。
高い宣伝効果があるステマは、これまでもさまざまな企業によって行われてきましたが、日本にはステマを規制する法律がありませんでした。
ちなみにOECD(経済協力開発機構)加盟国の名目GDP上位9カ国のなかで、ステマ規制がないのは日本だけでした。

ステマを規制するには、その広告表示が景品表示法における不当表示の『優良誤認表示』や『有利誤認表示』に該当する必要があります。
該当しなければ、ステマであっても不当表示には当たらないとされていたのです。

日本で初めてステマに関する規制が誕生
 このような状況を受け、消費者庁ではステマを規制する必要があると判断し、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を景品表示法の不当表示に追加しました。
ステマが不当表示に指定されたことで、企業側はこれまで以上に広告表示について慎重になる必要があります。

インフルエンサーや著名人にSNSで宣伝を依頼する場合などは、投稿に「広告」や「PR」と表示してもらうだけではなく、広告であることが不明瞭な方法で記載されないように注意しなければいけません。
その際、周りの文字と比べて、広告やPRの文字を必要以上に小さくしたり、文章の末尾に配置してわかりづらくしたりすると、ステマと判断されてしまう可能性があります。

動画による商品のプロモーションも同様に、第三者が動画で商品を宣伝する場合にも、動画内に広告であることがわかるような配慮をしておかねばなりません。
広告という文字が小さかったり冒頭に一瞬表示されたりするだけで、消費者が認識しにくい場合は、ステマと見なされる可能性があります。

もし、景品表示法に違反すると、消費者庁や都道府県による措置命令が出され、広告表示の停止や再発防止が命じられます。
措置命令が出された場合は、消費者庁や都道府県などのWebサイトで公表されるため、企業イメージの低下につながりかねません。
また、措置命令に従わない場合は、刑事罰として、2年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。

ステマは、これまでのような顧客離れや信頼感の低下、ネット炎上などのほかに、景品表示法違反になるリスクも加わることになります。
ステマ規制が施行される今年10月1日までに、自社で行っているPRや広告がステマ規制に抵触していないかどうか確認し、誤解をされないようなマーケティング活動を行うよう努めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。

労働災害(労災)とは、業務上の事由または通勤によって負傷、疾病、傷害または死亡(以下、傷病等)となることを指します。事業者には労災を防止する義務があり、労災が起きた場合には、その責任を問われることがあります。では、長期休暇中の従業員が無断出社して怪我をした場合、事業者に責任はあるのでしょうか。労働災害が認められる範囲について解説します

業務に従事していない場合でも業務災害が認められる可能性

 事業主は一人でも労働者を使用したら、労災保険に加入する義務があります。労災保険(労働者災害補償保険)は、従業員が業務上や通勤中に傷病等となった場合に、労災保険による給付が行われます。
ただし、従業員の傷病等がすべて労災に認定されるわけではありません。労災は業務に起因する業務災害と、通勤中の通勤災害に分かれており、それぞれに認定基準が定められています。ここでは、業務災害と認定される基準について説明します。
 

   業務災害と認定されるためには、2つの条件があり、従業員が事業主の支配下にあること、支配下にあったこととその負傷等との間に因果関係があることです。たとえば、工場で機械に巻き込まれて怪我をした場合や、飲食店で調理中に火傷をした場合
などは、勤務中の傷病なので、事業主の支配・管理下にあるといえます。このようなケースでは特別な事情がない限り、業務災害に該当する可能性が高くなります。ただし、故意に事故を起こしたことによる傷病や、業務とは関係のない作業が原因の傷病、自然災害で負った傷病(災害を被りやすい業務の事業は除く)などは、業務災害と認められません。
 また、事業主の支配・管理下にあれば、業務に従事していなくても、業務災害と認められることがあります。たとえばトイレ休憩の時間、用具や設備の後片付けの時間などは、業務に付随する行為であり、事業主の支配・管理下にあるとみなされます。よって、このときに起きた事故などに起因する傷病は、業務災害と認められます。さらに、休憩時間なども業務の時間ではありませんが、私的な作業や故意の事故で負った傷病ではない限り、業務災害と認められる可能性は高いでしょう。

従業員の自己判断による休日出勤にも要注意

   従業員が外回りや出張などで事業主の管理下を離れている場合でも、会社や上司から命令を受けて業務に従事しているため、一般的には事業主の支配下にあるといえます。つまり、外回り中や出張中の傷病でも、特別な事情がない限りは、通常の事業
所などと同様に業務災害として扱われます。
 では、たとえば長期休暇中の従業員が、無断で出社して怪我をした場合はどうなるのでしょうか。このケースでも、事業主の支配下にあるか否かで判断することができます。無断で出社しているということは、会社や上司の命令を受けずに、自己判断で業務に赴いたことになります。これは事業主の支配下にあるとはいえず、このときに起きた事故などによる傷病は、業務に起因するものだったとしても業務災害とは認められません。
 ただし、事業主の支配下になかったのかどうかは、実際の状況をふまえて個別に判断する必要があります。長期休暇中の従業員が無断で出社していることを、本当に会社や上司が知らなければ、事業主の支配下になかったといえるかもしれません。しか
し、暗黙の了解になっていたり、黙認されていたりした場合などは、事業主の支配下にあると判断されて業務災害が認められる可能性もあります。休日出勤の場合でも、会社の指示のもとなのか、自己判断なのかなどによって結果は異なります。
 休暇中の従業員が無断で出社することは、会社にとってリスクでしかありません。予防労務の観点からは、出社をさせない、出社しても社内に入れないようなセキュリティ対策も重要です。無断で出社する従業員がいたら、状況をよく確認したうえで、就業規則に沿い適切な対応を行いましょう。

 近年、SNSなどの普及により『インフルエンサー』という言葉を耳にするようになり、それをマーケティングに活用するケースが増えてきました。今回は、インフルエンサーマーケティングの重要性、自社で導入するメリットや注意点について、事例を交えつつ解説します。

インフルエンサーの定義と特徴  活用するメリットとデメリットとは

 インフルエンサーとは、その言動が世間や人の思考・行動に大きな影響を与える人物のことです。たとえば有名なスポーツ選手やテレビタレント、ファッションモデル、ブロガーやユーチューバーなどがそれにあたります。そして、このようなインフルエンサーを活用して企業のマーケティングを行うことを『インフルエンサーマーケティング』といいます。
 インフルエンサーマーケティングは、主にSNS上で大きな影響力をもつインフルエンサーに自社の製品やサービスをPRしてもらうことでクチコミを誘発し、消費者の購買行動に影響を与えるものです。
コミュニケーション型のマーケティング手法であり、企業が消費者に対して直接メッセージを発信する従来型のマーケティングと比べ、消費者の視点を取り入れた共感性と訴求力の高いPRが可能になります。商品やブランドに対する認知や購買意欲の向上
が期待できるメリットがあり、その市場規模は年々拡大傾向にあります。
 インフルエンサーマーケティングの成功事例は数多くあります。たとえば、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社は、コロナ禍による外出自粛時に、自宅で楽しめるダンス動画を数パターン制作しました。複数の人気TikTokerにダンス動画をPRしてもらい、『#おうちでリフレッシュ』のタグをつけての投稿を促し、大成功しました。
 また、カビキラーなどを販売するジョンソン株式会社が、タレントの辻希美さんとタイアップした事例も有名です。4人の子育てに奮闘する辻さんがブランドイメージに合致したこともあり、ユーチューブで多くの視聴回数を得ました。

2023年10月からステマ規制強化  忘れてはならないリスクと注意点

 多くのメリットがあるインフルエンサーマーケティングですが、デメリットもあります。広告臭が強すぎると『ステルスマーケティング(以下「ステマ」)』を疑われる可能性もあります。ステマとは企業から報酬をもらって製品のPRを依頼されている
ことを隠し、あたかも自然に製品を見つけたかのように宣伝をすることです。ステマが発覚すると炎上し、インフルエンサーだけにあらず企業の社会的信用を失う可能性もあります。
 ここ数年でステマによる炎上が続いた結果、2023年10月からステマに対する規制が強化されることになりました。広告と明示せず、クチコミや感想を装って宣伝した場合は事業者名の公表、改善されない場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金を科すものです。
 インフルエンサーマーケティングはアイデア次第で資金力の少ない中小企業でも大きな効果を得られる可能性がある一方、炎上やイメージダウンにつながるリスクも潜んでいます。現在では、インフルエンサーマーケティングを専門で請け負う企業も
多数あります。メリットとデメリットを理解したうえで、これらの企業の利用も視野にいれつつ、インフルエンサーマーケティングの導入を検討してはいかがでしょうか。