「whole number=整数は、正しい?」からの続きです。
英和辞典の誤訳はそれほど珍しくないのですが、ここまで各社揃って曖昧な状態になっているケースというのはあまり多くないので、原因を考えてみました。
現代の国語辞典や百科事典で「整数」を引くと、整数、分数、小数というときの「整数」ではなく、自然数+自然数の負数+0の総称という語義が載っています。
ブリタニカ国際大百科事典 世界大百科事典 日本大百科全書、広辞苑、大辞林、大辞泉、デイリーコンサイス国語辞典、知恵蔵etc. etc.・・・・。
例外なく、この意味です。
このため結果として、whole numberに対する英和辞典の訳語「整数」が、不正確になるわけです。
完全な誤訳ではないとはいえ、かなりグレーです。
・・・が、これほど軒並みだということは、考えられる可能性は、
昔といまで、言葉の意味が違う
です。経験上、これが最も可能性が高いと思います。
そこで、古い国語辞典で「整数」を調べてみました。結果を現代漢字で示します。
一若しくは一を順次に加へて成れる数。 明治40年 『辞林』 p. 810 (デジタル425コマ目)
一又は一を順次に加へたる数。即ち、1・2・3・4・5…11・21…などの数。 |
やはり、現代とは国語辞典に載っている語義が異なりますね。
これなら、英語のwhole number の訳語として、「まさにそのまま」。何の問題も、ありません。
辞書というのは、改訂時に①新語を足す、②使われなくなった語を削除することはあっても、「意味が変わった場合の対応」は後回しになっているように見えます。
おそらく「整数」も、日本語のほうが whole numberに(ほぼ)1:1で対応していた時代に訳語が掲載され、語義が現代の自然数+自然数の負数+0に変化したあと、対応しきれていないだけでしょう。
それも、死語になったわけでもなければ、昔の国語辞典にある用法が消滅したわけでもありません。
古い用法が生活の中に残ったまま、数学的な定義と国語辞典の語義だけが変化しています。
こういうパターンが、もっとも修正されにくい・・・・のは、当然だろうと思います。
室町時代から現代まで、日頃から遊びでよく辞書を読んできた個人的な感覚だと、この「整数」のような変化をたどった語というのは、かなりの高確率で残ります。
それでも、一言語の辞書つまり国語辞典や各種の専門辞典はまだよいとして、外国語が絡む辞書は、ことさら時代遅れになりやすい。
編纂者が責められるものではなく、ある意味で仕方がないというか、辞書の宿命みたいなものですね。
だからこそ、使う側が気を付けていないといけないわけです。
それも、死語になったわけでもなければ、昔の国語辞典にある用法が消滅したわけでもありません。
古い用法が生活の中に残ったまま、数学的な定義と国語辞典の語義だけが変化しています。
こういうパターンが、もっとも修正されにくい・・・・のは、当然だろうと思います。
室町時代から現代まで、日頃から遊びでよく辞書を読んできた個人的な感覚だと、この「整数」のような変化をたどった語というのは、かなりの高確率で残ります。
それでも、一言語の辞書つまり国語辞典や各種の専門辞典はまだよいとして、外国語が絡む辞書は、ことさら時代遅れになりやすい。
編纂者が責められるものではなく、ある意味で仕方がないというか、辞書の宿命みたいなものですね。
だからこそ、使う側が気を付けていないといけないわけです。
以前、「雰囲気」という言葉には、オランダ語からの翻訳によって生まれた意味の流れと、ドイツ語からの翻訳によって生まれた流れの2種類あることを、示しました。
「シダ」にも、日本に古くからある意味の流れと、ラテン語学名の翻訳によって生まれた意味の流れがあることを、示しました。
おそらく「整数」にも、同様のことが生じていると思います。
もともと上にあげたような意味が先にあり、翻訳によって別の流れが生じて、重なり合ったのでしょう。
もともと上にあげたような意味が先にあり、翻訳によって別の流れが生じて、重なり合ったのでしょう。
明治21年の『数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書』で「Integer」の対訳として「完全数、整数」が掲載されていることがわかっていますから、integerの訳語が原因かもしれませんね。
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