先日、まっぷる『首都圏からの日帰り温泉 '13』というガイド本をパラパラとめくっていたところ、「"温泉の常識"にはウソ!?がいっぱい」というコーナーがありました。
温泉について誤解の多い事項が列挙され、本当はどうなのかということが、説明されています。
筆頭が「温泉とは薬効成分を含んだ熱い(温かい)湯が地中から湧き出しているものである」で、新聞に掲載された間違い記事まで取り上げられていました。「温泉に対する強い思い込みが記者に温泉法を読み違えさせ、"間違い記事"となってしまった」とあります。
問題となったのは、温泉法第2条。
条文には、次のように定められています。強調は、こちらで付しました。
(定義) 第二条 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。 2 この法律で「温泉源」とは、未だ採取されない温泉をいう。 |
まっぷるのガイド本にも同じ条文の第1項が掲載され、「温度および物質ではない」として条文の読み方が説明されています。
要点を抜き出すと、次のとおりです。
・温かい湯でありさえすれば、成分が真水同様でも温泉
・逆に、温かい湯であるとは限らない
・冷水でも、指定物質を1つでも一定量含んでいれば温泉になる
・「物質を有する」とあるだけで「薬効成分を含む」とは書かれていない
・「温水、鉱水及び水蒸気その他のガス」とあるように、液体であるとも限らない
温度は「湧出時の温度が25℃以上」で、日本最南端の年間平均気温をもとに定められたそうです。
「地中からゆう出する」とあるのは、海、川、池などの水を「温泉」と区別するためで、「炭化水素を主成分とする天然ガスを除く」とあるのは、燃料に使う天然ガスと区別するためとのこと。
噴気タイプの温泉の代表例として、大分の別府鉄輪温泉と栃木の塩原新湯温泉があげられています。
ここで、和英辞典で「温泉」を引いてみました。
古いものだとhot spring、新しいものはhot springとspaが出てきます。
なかには不定冠詞付きで「a hot spring; a spa」としている辞書もありました。
それでは、英英辞典の定義はどうなっているでしょうか。
Webster hot spring |
以上のとおり、温泉法上の「温泉」とhot springやspaは、定義が明らかに異なるのです。
もちろん日常会話では法の定義など気にしませんから、英語の定義と一致する「温泉」も当然のこと含まれるとは思います。
ただ、たとえば次のような文を英訳するとしたら?
【従来の技術】温泉法によれば、「温泉」の定義として、源泉で採取されるときの温度が25℃以上であること、または25℃に達していなくても、イオウ、カルシウムなど、指定した19種類の成分のどれか1つが規定値以上含有されていることが要件とされている。しかしながら、浴用温泉として活用するには、42℃以上の温度が要求されるため、42℃未満の温泉は、ボイラーなどで加熱して利用されている。 (特許第3033046号)
この特許は発明の名称が「温泉水汲み上げ装置」で、温泉は「液体」が想定されています。
湯の花は、地下から温泉水や温泉ガスが噴出したときに岩石や粘土表面に析出するもの、又は水中に沈殿する固体状のものであり、場合によっては水に不溶の成分を含有する場合もある。
(特許第5500757号)
こちらは、「温泉水」と「温泉ガス」に分けて扱っています。
だからといって、温泉水+温泉ガス=法でいう温泉かというと、そうとも言い切れません。
以上は一例ですが、「温泉」をいかに英訳するかは、簡単なようで非常に難しい問題だと思います。
それではどうするか?ということについは、後日あらためて扱います。
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