第2027回「イエスタデイ・ワンス・モア その1」(タイムスリップ青春小説) | 新稀少堂日記

第2027回「イエスタデイ・ワンス・モア その1」(タイムスリップ青春小説)

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 第2027回は、「イエスタデイ・ワンス・モア その1」(タイムスリップ青春小説)です。タイトルは、もちろんカーペンターズの同名の曲(1973年発表)から取ったものです。著者は、小林信彦氏です。純文学から大衆小説まで幅広い作家です。本書は1985年に公開された「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にインスパイアされた作品です。


 本作品の文体は、どこか村上春樹氏の「ぼくシリーズ四部作」(※)をもっと砕いたような感じです。文庫カバーのイラストは、吉田秋生(あきみ)さんが担当しています。挿絵も、吉田さんが担当していますので、雰囲気は大人の絵本って言ったところでしょうか。


 物語は、小説が書かれた1989年からはじまります。18歳の"ぼく"が、30年前の1959年にタイムスリップします・・・・・・。ですから、カーペンターズの活躍した時代より、さらに遡ります。ですが、タイトルとしては素敵です。バブルの全盛期から、貧しいながらも日本が輝いていた時代(?)へ・・・・・。


 いつの頃からでしょうか、写真がカラーとなりましたのは・・・・・。1960年代からカラー写真が出始め、急速に普及していったと思います。とかく、モノクロ映像には、貧相さがつきまといます。ですが、それが間違いであるとは理解できるのですが、感覚的な部分で拒否している自分を感じます。


 この小説を評価できるかどうかは、この小説で描かれている1959年(昭和34年)にカラーを感じられるか、どうかと思います。たくさんのキー・ワードが詰め込まれています。著者である小林氏の青春時代です。私は、小林氏(1932年生まれ)より20年近く遅く生まれていますので、著者の感覚とは若干のズレがあると思います。


 それでも、1959年を楽しめます。本文に記されている流行歌も、小説も、事件も明瞭な記憶として残されています。しかし、自分自身を振り返ると、ズボン、靴下を繕って使っていた記憶も一方であります。セピア色に色褪せた想い出です・・・・。


 「読者が気持ちよく感じてくれるような小説を書きたい」、著者の作品コンセプトです。面白い本です、それに尽きます、そして、懐かしい小説です。なぜ、このように面白い本が廃版になっているのでしょうか。次回、ネタバレで、ストーリーを紹介する予定です。


(追記 ※) 村上春樹氏の「ぼくシリーズ四部作」につきましては、既にブログに書いています。

「風の歌を聴け」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10262414923.html

「1973年のピンボール」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10262428026.html

「羊をめぐる冒険 その1」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10262802122.html

「羊をめぐる冒険 その2」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10262848336.html

「ダンス・ダンス・ダンス」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10286797568.html