シャトーって何?
シャトーって何?
シャトーとは一体何を表す言葉なのでしょうか。元々はワインを造っている設備、建物、葡萄畑を一体としてシャトーと呼び始めたようです。1855年のメドック格付当時辺りから、高級感を出すために使われ始めたとも言われています。
シャトー・ド・ラマルク。
実際、メドックの格付けシャトーを見るまでもなくお城のような立派な建物が相当数あるようです。
かつて葡萄園の多くは、荘園領主のものであり、荘園の邸宅であったり、ゲスト・ハウス的な建物が建てられていたようです。勿論、場所によっては防衛用の建物(区別してシャトー・フォール~Chateau Fortと呼ばれることも。)でもあり、立派な造りからシャトー(お城)と呼ばれて何の不思議もないような気がします。
やがて葡萄畑、従業員の宿舎、醸造施設、保管庫、オーナーの住居等全体をシャトーと呼ぶようになったようです。
実際問題としては、規模の大きなワイン醸造所の周りに従業員達の住居があり、1つの村全体が1つのワイン醸造所といった状態が珍しくなかったようですのでシャトーという語句は漠然としたものであったように思われます。
1900年代初めまでは弱小の葡萄園のオーナー達、といっても小麦栽培等を行なっており、現金収入の道として一部の畑で葡萄栽培を行なっていた程度の栽培農家にとっては、自分達のワインをネゴシアンに樽で販売するのが一般的であり、自分のブランドとして瓶詰めしたワインを販売することはなかったようです。
しかし、次第に自分達で自社ブランドを立上げ、販路の開拓へと進んでいきます。当然ワインのエチケットには他と区別するためのワイン名が必要となります。
明治の初めに急に名字を付けることになった庶民が、佐藤、斎藤、鈴木、田中等同じような名字が多いのと同様の結果が生まれます。地名を付けたり、地名にオー、ヴュー、クロ等を付したり、地域の特色ある塔や風車に因み、ラトゥール、ムーランとしたり、丘、砂利、教会に因む名等が数多く生まれます。
当然、売れてもらわなければ困るで、仰々しくシャトー・○○とし、エチケットにはありもしない立派な建物まで描く輩も出て来ます。
いずれにしても、定義が明らかではないのですが、一般的にブドウ園を所有してワインを生産する生産者や、ブドウ園そのものを意味すると言われているようです。
それでは、シャトーという語句はどのようなところに現れるのでしょうか。まずはエチケットで見ると、シャトーの語句が表記されるのは
当該ワイン名としての①シャトー○○。
ワイン生産者を表す②シャトー○○。
シャトー元詰を表す③『Mis en Bouteille au Chateau』
があるようです。法的な面では、
①のシャトーを名乗る為には、自己又は自己が管理する畑で作られた葡萄を使って、自己又は自己の管理下の敷地内で醸造、熟成、瓶詰めさせたワインであることが1949年9月30日政令によって決められておりますのでシャトー名は制約を受けています。
②の生産者の表記は、EUワイン規則第59条(ワインラベル規則)による絶対的記載事項とされています。
③のシャトー元詰は1972年に法制化されています。
注 生産者元詰のエチケットに対する記載自体は、法的に任意記載事項となります。
エチケットに描かれているこのマークは生産者元詰を表すマークのようです。
実際のエチケットでシャトーが表記されるケースを確認すると、
大きく Chateau Pavie Macquin Saint Emilion と図案化されたシャトーの表記は ① のワイン名としてのシャトーでしょう。
GRAND CRU CLASSE SAINT-EMILION GRAND CRU は格付けを表し、
下に APPELLATION SAINT-EMILION GRAND CRU CONTROLEE とAOCの表記が為され、
次に ② S.C.E.A.CHATEAU PAVIE MACQUIN PROPRIETAIRE ・・・とあるのは生産者を現す語句としてのシャトーです。
次の ③ MIS EN BOUTEILLE AU CHATEAU は元詰を表すシャトーと言うことになるものと思われます。
上記に於ける最初のシャトーはワイナリーと言うのか葡萄畑や醸造設備の総称としての語句であり、ワイン生産者をも表す語句であり、次に列挙されたシャトーは生産・販売している個々のワイン名と思われます。つまりはシャトー○○はワイナリーの名称を意味し、ワイン名としても使われているものと思われます。このようにワイナリー名とワイン名が同一の場合、『ワイナリー商標~Marque Viticole』とか『ドメーヌ・ブランド~Marque Dominale』と呼ばれるようです。
次にワイン生産者のサイトによっては、生産者名としてシャトー○○、そしてワイン名として幾種類かのシャトー○○、シャトー△△、シャトー□□が表記される場合があります。
このように見ると、シャトーという語句は生産者やワイン名を表す場合にも使われており、、商標登録されている場合(フランス国内法における商標登録若しくはマドリッド協定による国際登録)も制約を受けることになるでしょう。
シャトー名等の使用制限 詳解はこちら
それでは、ワイナリー総称としてのシャトーの範囲は誰が決めるかとなると専ら所有者が決定することとなります。
通常葡萄畑は区画で管理されることが多いようです。区画毎に葡萄樹や土壌が異なるため、醸造する場合でも区画毎にロット管理されるようです。そこで、どこまでの区画を1つのシャトーとするかは所有者次第ということになります。
1人のオーナーが数シャトーのクリュ・ブルジョワの格付けを受けているケースがあります。さらに、後からシャトーを取得した場合は、アペラシオンが同一の場合は自己のシャトーに組み入れることも可能であり、従前のシャトー名を存続させることも自由のようです。
1855年の格付オリジナル・リストではサン・ジュリアンのLeoville(レオヴィル)が表記され、所有者欄には別行でBaron de PoyferreとBartonが表記されています。おそらくシャトーとしては1つとの認識であったように思われます。勿論、後にシャトー・レオヴィル・ラスカーズ、シャトー・レオヴィル・ポワフェレ、シャトー・レオヴィル・バルトンとなるのですが。
シャトー・ランゴア・バルトン。 シャトー・レオヴィル・ラスカーズ。
シャトー・レオヴィル・バルトン。 シャトー・レオヴィル・ポワフェレ。
それでは、複数のシャトーを所有する場合に醸造設備の取り扱いはどうなるのでしょうか。シャトー・レオヴィル・バルトンのワインはシャトー・ランゴア・バルトンの醸造所で造くられており、建物自体が存在しておりません。
シャトー・レオヴィル・ラス・カーズとシャトー・ポワフェレの醸造施設は敷地内に混在しているそうです。
つまりは、1つのシャトーが独立した醸造設備や建物を持たなくても、所有する他のシャトーで醸造や熟成が行える施設を有する(独立して別管理は必要。)場合は、AOCの認定を受けることが出来そうですし、シャトーを名乗るのも当然自由となるのでしょう。
所有する葡萄畑が離れているかどうかは問題にならないようです。離れていても同一アペラシオン内であればAOCの認定にも支障はないようです。
それでは、地続きの葡萄畑を有し、複数のシャトーを持つ場合の実態はどうなのでしょうか。
ピュイスガン・サン・テミリオンのシャトー・ソレイユとリューサック・サン・テミリオンのシャトー・ソレイユ・クロ・ド・ライバルは地続きであり、アペラシオンが異なりますので、ワイン名を別としているようです。
シャトー・ソレイユ。 シャトー・ソレイユ・クロ・ド・ライバル。
かのミシェル・ロランが所有する葡萄畑はサン・テミリオン、ポムロール、ラランド・ド・ポムロールの3つのアペラシオンに跨っており、サン・テミリオンはシャトー・ロラン・マイエ~Rolland Maillet となり、ポムロールはル・ボン・パストゥール~Le Bon Pasteur 、ラランド・ド・ポムロールはシャトー・ベルティノー・サン・ヴァンサンのシャトー名を名乗っています。
ル・ボン・パストゥール。 シャトー・ベルティノー・サン・ヴァンサン。
それでは、畑が地続きでAOCが別なら別シャトー名を名乗らなければならないのかとなると、これも自由の様で、シャトー・フオンガバンは同一シャトー名で2つのAOCを取得し、
カスティヨン・コート・ド・ボルドーAOC ピュイスガン・サン・テミリオンAOC
同様に、シャトー・ラ・クロワ・ド・ムーシェは同一シャトー名で、モンターニュ・サン・テミリオンとピュイスガン・サン・テミリオンのワインを販売しています。
ピュイスガン・サン・テミリオンAOC モンターニュ・サン・テミリオンAOC
結局のところ、シャトー名、シャトー元詰とエチケットに表記するためには一定の条件をクリアーしなければなりませんが、ワイナリー名としてのシャトーやワイン名としてのシャトーは商標登録をされているシャトー名は名乗れないでしょうが、原則的に選択は自由であり、当然経営者としては、知名度の向上、ポジショニングの向上、エチケット作成料等総合的な判断のもと決められるのでしょう。
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