シャトー元詰
シ ャ ト ー 元 詰
かって、『ワインは夜造られる』という言葉があったようです。意味するところは生産者が造った樽入りワインをネゴシアンがブレンドしたり、瓶詰めするのですが、夜中に不良品を混ぜて水増ししたり、アペラシオンを無視してブレンドする手法が横行した過去があるようで、クリューズ家所有のポンテ・カネで明るみに出たワイン・スキャンダルなどが良く知られているようです。
根底には第1次世界大戦後の不景気や世界恐慌の影響によるワイン販売の不振があり、ワインの評判をさらに下げたと言われています。
1900年代初めまで、シャトーでは自分のワインをネゴシアンに樽で販売するのですが瓶詰め作業はネゴシアン任せですから、不正が行われ、品質に対する評判の下落に対しても手の打ちようがなかったようです。
勿論、ネゴシアンの不正が行われたのは事実のようですがクパージュ(ブレンド)に関しては補足が必要でしょう。
メドックの1級シャトーのワインであっても、ネゴシアンは顧客の好みによりクパージュを行っていました。根底には当時のワインは1級であったとしてもアルコール度数は低く、度数の強いワインをクパージュせざるを得なかったとの理由もあるようです。
高級シャトーのワインを楽しむ人々にとっては、クパージュの異なるネゴシアンものを比較して楽しんだとの話も残されています。
しかし、該して水増しのためのクパージュが多かったようでありシャトー元詰により1級シャトーの販売量は半減したとのお話も。
シャトー・ムートン・ロートシルトは1902年から顧客の求めに応じてシャトー元詰を行っていたようであり、フイリップ・ド・ロートシルトは1920年頃一級シャトー(ムートン一級昇格は1973年)に呼び掛けてシャトー元詰を提案したとされ、1924年から毎年全量をシャトー元詰とします。
残るシャトー・マルゴー、シャトー・オー・ブリオンも1924年にシャトー元詰に同意します。
シャトー・ラフィット・ロートシルトはシャトー・元詰に消極的であり、親戚にあたるムートンのフィリップと仲が悪かったからだとの説もあるのですが、ビジネス上の決断にそのような感情を持ち込むはずがなく、消極的だった理由は次のようなものとされています。
既に1834年頃からシャトー元詰を始め(全部ではない。)ていた。ネゴシアンを介さないワイン商に対する直接販売に力を入れ始め、1923年にはパリのワイン商ニコラと取引を始め、1924年には取引先を拡大、更には1925年にオランダのネゴシアンと取引を始め、ボルドーのネゴシアン達による不正クパージュの被害を受ける危険性が少なかったことによるようです。
シャトー元詰は要するに自社による品質管理と言うことになるのでしょう。シャトー元詰は1972年になってやっと法制化されます。シャトー元詰は、自分の葡萄畑で造った葡萄でワインを生産し、自社の敷地内で瓶詰めすると言うことになるようです。
そんなシャトー元詰ですが、シャトー・モンローズがシャトー元詰を始めたのは1969年からであり、クリュ・ブルジョワの多くは1970年代後半になってシャトー元詰を始めたようです。
また、ドメーヌ元詰という表現もあり、こちらはブルゴーニュで多く使われているようであり、意味するところは同様のようです。
アルマン・ルソーはダンジェルヴィル、グージュ、グリヴォらと組織化を図り1915年にドメーヌ元詰を実現。アンリ・グージュは1933年にドメーヌ元詰を開始したとされていますので、バーガンディの方が進んでいたことになりますが、ワインの絶対量からバーガンディの方が取り組みやすかったものと思われます(さすが、ボルドー専科、何とかボルドー贔屓の理由を付けています)。
『シャトー』と言う言葉は、1855年の格付時に高級感を出すために創作?された語句のようで、『葡萄栽培やワイン生産をする私有地』を意味するとか。
『シャトー元詰』は、自園で栽培された葡萄のみを使用してワインを造り、瓶詰めまで一貫して行われたワインに対して使用することが認められているようです。
表記としては、
『Mis en Bouteille au Chateau』 (シャト-元詰め)
『Mis en Bouteille au Domaine』 (ドメーヌ元詰)
『Mis en Bouteille a la Propriete』
(所有者元詰め又は生産者元詰め又は協同組合元詰)
『Mis du Chateau』
とされており、ワイン法で元詰に関する表記としてCHATEAU~シャトー、DOMAINE~ドメーヌ,PROPRIETE~プロプリエテの文字はエステート・ワインと呼ばれる自家農園醸造ワインにしか使用できないようです。プロプリエテは『生産者』と訳されていることもあり、協同組合で造られるワインにも使用されており『協同組合』と訳されている場合もあるようです。
己が所有する敷地内で葡萄を栽培し、己の敷地内の醸造設備で醸造し、己の敷地内で瓶づめをし、己の敷地内の熟成施設にて熟成させる。と言うことだと思われます。
では、葡萄畑は己が個人の場合でも法人の場合でも、所有していないと名乗れないかとなると、グラーヴのドメーヌ・ド・シュヴァリエは1993年から40年契約で修道院の葡萄畑を借地して、ドメーヌ・ド・ラ・ソリテュードというワインを造っているのですが、エチケットを見ると、
Mis en bouteilles au domaine と表記されていますので借地でもOKのようです。
では、醸造設備を持たない場合はどうなのでしょうか。個人の葡萄を協同組合が醸造・生産した、協同組合のワインであるシャトー・ラ・ローズ・ポイヤックは、
Mis en Bouteille a la Propriete(生産者元詰め)の表記がなされており、この協同組合の醸造設備を借りてワイン醸造を行なっているシャトー・オー・ミロン、シャトー・オー・サン・ランベールのエチケット表記は、
Mis en Bouteille a la Propriete(生産者元詰め) とされています。
ということは、借地であってもシャトー元詰表記が可能で、他の地の醸造設備を借りて造っても所有者元詰(生産者元詰)表記が可能ということだと思います。
瓶詰めに関しては、ワインを敷地外に持ち出して瓶詰め業者に任せるのは認められていないようで、瓶詰め業者が機械をシャトーの敷地内に持ち込んで瓶詰めするのは認められているようです。
前記以外の表記としてネゴシアンものがあるのですが、
mis en bouteille par region de production(生産した場所での元詰め)
mis en bouteille par calvet negociant eleveuur
(ネゴシアン醸造者カルベ社による元詰め)
等と表記されているようです。
ボルドー・ワインでは、シャトー元詰が当たり前のように思っていますが、おそらくブルゴーニュ党の方々にとっては元詰表記は重要な判断材料になっているのでしょうね。
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