第60回記念定期演奏会「Blue」 | "楽音楽"の日々

"楽音楽"の日々

音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

第60回記念の京都橘高校定期演奏会を、私はライヴ配信で3日間楽しみました。

 

 

今回も事前にプログラムも発表されて、いろいろ予想しながら本番を待っていたのでした。

 

今回は3日間公演。それぞれ「Blue」「White」「Orange」というテーマが付けられて、違ったプログラムで構成されました。

日によって演奏曲目が違うので、発表されたプログラムはとても見辛いです。まぁ、仕方ないですが。

3日間で演奏された曲は、のべ35曲プラス・アルファ。昨年の23曲と比較すると、1、5倍です。本番までにこれらを仕上げるのは、とんでもなく大変だったことは容易に想像できます。

 

 

ということで、3月22日に開催された定期演奏会初日「Blue」と題されたステージが始まります。

演奏会に集中するために雑多なことを終わらせた私がPCの前に座ったのは、開演直前でした。

定刻通りに白いユニフォーム姿の部員たちが入場してきます。コンサート・ミストレスを務めるドラムメジャーのクラリネットの音に導かれて、チューニングと暫しの音出し。他のオーケストラのコンサートでも、この瞬間が大好きなんです。これから始まる演奏への期待感が高まりますよね。

 

登場した顧問の兼城先生の姿を見た私は、「えらくカジュアルだなぁ」と感じたのでした。なにしろ、シャツの首元が閉じてなかったので、そんな印象を持ったのです。けれども、開いた襟元には、アスコット・タイが見えました。日本ではあまり見かけませんが、基本的にはかなりフォーマルなネクタイなのです。さすが、TPOは心得ていらっしゃる。

 

 

1曲目は、今期のマーチング・コンテストのプログラムです。多分、今年になって初めての演奏だと思われますが、全体のリズムの乱れが少しだけ気になります。それにも拘らず、マーチ「木陰の散歩道」でのスネア・ドラムはとても素晴らしいです。

 

続いての曲は、ラフマニノフ作曲の「パガニーニの主題による狂詩曲」です。

ピアノとオーケストラによる演奏は大好きですが、吹奏楽版をしっかり聴くのはほぼ初めてです。吹奏楽アレンジは、人気編曲家の森田一浩氏。圧倒的な管楽器の数を生かしたダイナミックなアレンジは、実に見事です。京都橘の演奏も、文句の付けようのない表現です。表情豊かなクラリネットのソロで始まる通称「アダージョ」と呼ばれるパートのメロディが、一番一般的に知られていますね。私がこの曲を大好きになったのは、1980年のアメリカ映画「ある日どこかで(Somewhere In Time)」で印象的に使われたことがきっかけでした。

 

 

私にとって「生涯のベスト10」に入るSFファンタジーです。観たことのない方は、是非一度お試しを。原田知世主演の「時をかける少女」がお好きな方なら、きっと気に入ってもらえると思います。

 

続くクラシック曲は、プッチーニ作曲のオペラ「トゥーランドット」です。

オペラの作曲家として数多くの作品を残しているプッチーニですが、日本を舞台にした「蝶々夫人」と対をなす「トゥーランドット」は、中国が舞台です。後藤洋氏による吹奏楽アレンジは、各地の吹奏楽団で演奏されています。京都橘の演奏でも、中国風のパーカッションを使用したりして、エキゾチックな雰囲気を加えています。

有名なメロディが満載のこのオペラで最も有名なのが、終盤で演奏されているアリア「誰も寝てはならぬ」でしょう。京都橘の演奏も良く唄っていて、その出来の素晴らしさに驚きました。座奏に力を入れている近年の京都橘の実力を発揮した、集大成とも言える演奏です。

 

MCの元気な声で始まるのは、ポップス・ステージです。

まずは、お馴染みの「スーパー・マリオ・ブラザーズ」です。

今期も散々演奏してきた大人気のナンバーですが、ここでの演奏は更にソリッドになっています。特に、パーカッション・セクションの充実ぶりが耳に残ります。

 

ここで、この日だけの特別プログラム、中学生合同ステージがアナウンスされます。舞台上の席の準備中に演奏されるのが、アニメ「ワンピース」の主題歌「We Are!」です。

マルチタム担当の彼のヴォーカルは本番を重ねて堂々たるもので、全く不安を感じさせません。まるでスター歌手のように客席の通路で歌う姿には、思わず笑みがこぼれてしまいます。舞台上から観客の視線をそらすための演出も、実に見事でした。

 

演奏の終わりと同時に椅子のセッティングが終わって、中学生の入場です。舞台の両袖から登場するものと思っていたら、いきなり「Down By The Riverside」が始まります。京都橘の部員達による渾身の演奏で、客席後方から通路を歩いて中学生達が入場して来ます。なんとまあ、立体的な演出なんでしょう!パレードの時よりずっとパワー・アップしたパーカッション隊の華麗な響きもあって、この曲の新たな魅力を発見した気分です。この演出は、初日の最大のサプライズでした。

 

さて、中学生を含めて170名を越えるバンドでの演奏が始まります。

最初は、吹奏楽における現代の人気作曲家Steven Reinekeによる最も人気の曲「セドナ」です。

私の記憶では、以前にも京都橘はこの曲を演奏していたのを見たような気がするんですが、いつのものだったか思い出せません。いずれにしろ、この明るくて心踊るサウンドにわかりやすいメロディは、京都橘のイメージにピッタリだと思うのです。いかがでしょう?私が大好きなJohn Williamsの作品にも通じる万人受けする曲調を作り出す人物が気になって調べてみたら、私より10歳も年下でした。現在は、最もアメリカらしいポップ・クラシカルを演奏するシンシナティ・ポップス・オーケストラの編曲家として活躍しているらしいです。

顧問の兼城先生の母校の吹奏楽部の演奏をお聴きください。

 

 

各パートのソリが多くて、絶好の選曲だと思います。懸命な中学生と優しく見守る京都橘の部員たち。この明るい曲で涙するとは、自分でも意外な驚きでした。予想以上に分厚いサウンドで、私が今までに聴いた「セドナ」の中でもトップクラスの出来だと思いました。

 

もう一曲は、岩井直溥編曲の「ディズニー・メドレー」です。現在でもどんどん作られている「ディズニー・メドレー」ですが、このアレンジは数多あるメドレーの中でも最も古いもののひとつだと思います。立命館大学応援団吹奏楽部の演奏をご覧ください。

 

 

いかにも岩井直溥氏らしい個性あふれるおしゃれなアレンジが魅力的です。特に、パーカッションが大活躍ですね。今回の演奏では、目立つところを中学生に任せて京都橘の部員はそれを見守るスタンスでした。

 

この中学生合同ステージは、私の期待を遥かに超える充実したものになりました。この参加者の中からどれだけの「オレンジの悪魔」が生まれるのか、もう期待しかありません。

 

ここまで、1時間を遥かに超えるステージ。満足の第一部でした。

 

 

 

 

20分の休憩を経て、第二部「マーチング・ステージ」の開幕です。

「伝統」と「革新」が現在の京都橘の両輪だと思っているのですが、マーチング・ステージのスタートは、その「伝統」を引き継いで青いユニフォームで「Winter Games」です。いつもと変わらない演出ですが、最初のフォルティッシモで鳥肌が立つのはなぜなんでしょう?これを超えるオープニングには、当分出会えない気がします。

 

本番の写真や動画はほとんどありませんので、ここからはいつも素敵なイラストを投稿されているフラワークラウンさんの作品を織り込みながら、パフォーマンスを紹介していきたいと思います。

 

「Winter Games」の「ヘイッ!」から間髪置かずに始まるのが、松田聖子の最初のヒット曲「青い珊瑚礁」です。

この曲は1月に開催された「フィールドアート」でお披露目されたという情報だけを得ていて、きっと定期演奏会のプログラムに入るだろうと期待していました。正統派のアレンジでオリジナルをなぞった構成の編曲ですが、振り付けがなかなか凝っています。前期の人気曲「ラムのラブソング」にも似た可愛い振り付けもあるのですが、全体的にはクールな印象なのが意外でした。

 

 

そして、ここからラストまで、年末のアメリカ遠征のプログラムの候補曲が続きます。多分、ここから数曲は間違いなく演奏されることになるでしょう。

 

Otis Reddingの名曲「I Can't Turn You Loose」は、10年前の伝説のステージでもパフォーマンスされたものです。さらには2018年には「The Blues Brothers Revue」の一部として演奏されました。

日本で広く知られるようになったのは、やはり映画「ブルース・ブラザース」で使われたことからでしょう。映画のサウンドトラックから、お聴きください。

 

 

京都橘のパフォーマンスは、初めて見るステップも所々にあって、ブラッシュアップしていったらアメリカでも絶対ウケるものになりそうです。

この曲の演奏で、私が最も好きなのはThe Gadd Gangによるカヴァーです。

 

 

実にカッコ良いですねー。目指せ、このグルーヴ!会場がダンスフロアになること、間違いなし!

 

George Gershwinの名作オペラ「ポーギーとベス」からのスタンダード・ナンバー「Summertime」は、岩井直溥氏のアレンジです。トロンボーンのソロから始まります。良い音ですねー。もっと自分のものにしてブルース・フィーリングが出せれば満点のプレイです。

リズムインしてからの振り付けが、私のお気に入りです。橘お得意の「ぴょんぴょん」したくなるリズムなんですが、ここでは敢えてアダルトでおしゃれな振り付けにしています。これは、実にカッコ良い。カラーガードのステッキを使ったダンスも、おしゃれです。

 

 

そして、今期を代表するナンバー「September」です。ピアノが作り出すサルサのリズムと、今期一番目立っていた強力なサックス・セクションをフィーチャーしたパフォーマンスは、追随を許しません。他の誰も真似できない完璧なステージです。

 

 

ドラムメジャーの明るい声のMCから、舞台は暗転して祝電の披露です。

当然のように、台湾の蔡英文総統からの祝電が最初です。彼女の任期もあとわずか。来期はどうなるんでしょう?その後も、各地の吹奏楽部や関係のある自治体の長からの祝電が続きます。京都橘の交流の多彩さを再認識させられます。

この長い暗転の間にオレンジのユニフォームに着替えて、後半のステージが開幕します。

 

ノーランズのヒット曲「ダンシング・シスター(I'm In The Mood For Dancing)」は、1、2年生のパフォーマンスです。当然、来期のドラムメジャーが指揮をしています。来期の定番のナンバーになるんでしょうか?かなり出来上がっている印象です。

 

今期、日本でも台湾でも評判になったのが、フランク・シナトラのヒット曲「My Way」です。

ホルンのソロも橘の歴史で記憶にない珍しいもので、注目を浴びました。

 

ハープも加えたフル・パフォーマンスですが、話題になったカニちゃんはベースを弾いていません。こういったところが、定期演奏会のおもしろさです。ファンにとって「定番」と思っていることを軽〜く裏切ってくれるのも、毎年楽しみにしていることなのです。後半では、ドラムメジャーのメイス捌きも楽しめます。

この曲はMCも語っていたように、フランスの曲です。作者が歌っている動画がありました。

 

 

これを聴くと、やはりシャンソンですね。

これを聴いたアメリカのシンガー・ソングライターPaul Ankaが新たな歌詞をつけて歌ったのがフランク・シナトラだったのです。それが大ヒットしたため、この曲をフランスの曲だと思う人は多くありません。イギリスの曲がフランスのご当地ソングになった「オー・シャンゼリゼ」と同じような経緯ですね。

作詞を担当したPaul Ankaの歌をお聴きください。

 

 

私個人的には、フランク・シナトラの歌よりも好きです。

 

そして、今期のプログラムの中で私が最も好きだったのが「君の瞳に恋してる」です。

カラーガードを中心にして、可愛さが渋滞する記憶に残る振り付けです。

 

 

カラーガードは、完全にチアガールのような振り付けだし、演奏しているメンバーも実に楽しそうです。日本では熱帯JAZZ楽団のヴァージョンが主流になっていますが、オリジナルに近い金山徹氏のアレンジを採用したことが京都橘の個性を引き出すことになっています。

 

ここで、部長の挨拶を挟んで、クライマックスへ突入します。

 

「Runaway Baby」は、既にいろんな吹奏楽団が演奏していて、京都橘はかなり後発といった感じですね。けれども、なかなかカッコ良い振り付けになっています。出雲商業がやっている右足を後ろへ跳ね上げる振り付けは、オリジナルのBruno Marsがやっていた印象的なものなので、当然のように京都橘でも取り入れています。

この曲は、当然来期のメイン・プログラムのひとつになるでしょうし、アメリカ遠征においても有力な候補になるでしょう。

 

そして、前回の定期演奏会以来、1年ぶりの「Memories Of You」です。

今回のクラリネット・ソロは、初めての部員が担当します。緊張していることは手に取るようにわかるんですが、なかなか堂々としたプレイです。バックのハーモニーも美しく、エモーショナルに歌い上げていて完璧な出来です。

 

バスタムのジャングル・ビートから始まる「Sing,Sing,Sing」は、いつもながら見事です。とてもソリッドなサウンドで、今期の集大成としてのパフォーマンスです。

今期の通常のパターンで終わったのは、ちょっと拍子抜けしてしまいました。サプライズのアンコールを軽く入れても良かった気がします。

 

それにしても、全体の構成がしっかりと組み立てられていて、充実の初日のステージでした。

残り2日への期待感が高まる幕切れでした。