合唱組曲「唐津」初演 | "楽音楽"の日々

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音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

10月10日、体育の日。
抜けるような青空が広がる日に、久しぶりの帰郷です。

陶器曳山

ただいま〜。
帰って来たぜぃ。


自宅から片道3時間かかるんですが、超特急の日帰りです。

今回の目的は、これ。

「唐津」

2年前に記事にしているとおり、私が敬愛する作曲家・團伊玖磨が私の故郷・唐津のために作った合唱組曲「唐津」の初演がいよいよ実現することになり、その現場を目に焼き付けるために帰郷したのでした。
なにしろ、200名近くのコーラスとプロのオーケストラの共演という大掛かりなステージですから、最初で最後の演奏になる可能性が高いと思ったワケです。


開演時間まで余裕を持って到着した私は、懐かしい商店街を散策しながら青春時代に通っていた店がほとんど残っていないことに落胆しながらも、わずかに残る店に寄ったり、久しぶりの同級生がいる店で話し込んだりして、帰郷を楽しみました。

鳥居

そして、会場近くの唐津神社に参拝して、今日の演奏会の成功と個人的な「あれや、これや」といったもろもろのことを、お願いしたのでした。ちょっと、願い事が多すぎたかも・・・。



今回の公演のチケットは早々と完売していました。
私は自由席だったので、希望の席を確保するために開場の時刻には入場の列に並ぶことにしました。
その結果、3階席の前の方をゲットしました。そこからは、ステージの全貌が俯瞰できるのです。

ステージ

この会館の小屋守りをしていたこともある弟に聞いたところ、ステージの奥行きがないので心配だと言っていました。
実際のステージは、オーケストラ・ピット(バレエやオペラの際に、舞台の前方の一段下がったところで演奏する場所です。)の部分までせり出す形で、広げていました。(写真の、白い部分。)

開演までの時間、客席を観察してみると、若い人もいるものの平均年齢はとても高いです。私さえも、「若手」と言えるほどでした。
合唱団が市民の有志によるものなので、家族や知り合いが出演しているという人達が大勢見に来ている感じでした。


合唱団は素人の集まりですが、オーケストラは近年地方オーケストラのトップクラスという評価が高い九州交響楽団、指揮は日本でも超一流の小泉和裕氏という贅沢さ。
このプロジェクトが動き出してから知ったのですが、小泉氏の奥様が唐津出身で、唐津にも自宅があるという、唐津に浅からぬ縁のある人物だったのです。

ということで、作詞の故栗原一登氏も作曲の故團伊玖磨氏も天国で喜んでいるに違いない、理想的な形での初演になったのでした。

プログラムを見ていると、合唱団の名簿の中には、私の同級生で地元の小学校の校長をしている友人や、唐津出身の元佐賀県知事の名前もありました。
もう、なんだか冷静に演奏会を楽しむ感じじゃなくなってきました。作者と演奏者の「唐津愛」が爆発すれば、それだけで大成功なんじゃないかと・・・。




さて、いよいよ開演です。

市長によるここに至る経緯の説明も、簡潔でお見事でした。

小泉氏のタクトが静かに動き始め、演奏が始まります。
様々な楽器をフルに生かしたダイナミクス豊かな序奏で、すでに鳥肌が立ちます。
それに導かれるように入ってくるコーラス。「唐津、わが街 唐津」の連呼で、早くも私の涙腺は崩壊します。
コーラスとオーケストラのフォルティッシモで序章が終わると、クラシックの演奏会ではありえない拍手が会場を包みます。小泉氏が柔らかくそれを制しますが、拍手が起るのも当然の素晴らしさでした。これは、予想を遥かに越える作品だと、体が震えました。

2曲目では、ソプラノ歌手・川野久美子さんが登場して、唐津に伝わる佐用姫伝説を繊細に歌い上げます。若干声量が足りないものの、とても印象に残るリリカルな歌声でした。

波を表現した楽曲や、唐津焼のロクロを描写した個性的な曲を経て、子供たちの歌声を加えた唐津に伝わる「裏町勘右衛話」へ続きます。
この曲では、全編唐津弁を駆使して、ユーモラスな掛け合いが続きます。日本的音階は、團伊玖磨氏が得意としていたもので、彼の代表作であるオペラ「夕鶴」でもたびたび使われています。
「裏町勘右衛話」の話は、中学生の頃に読んでいて、懐かしさで一杯になって思わず笑顔になりました。

そして、唐津の人間にとってのメインである、唐津曳山を歌った曲では、なじみ深い囃子のメロディを一切使わずに、曳子のかけ声「エンヤ エンヤ」と團氏のオリジナルのメロディを融合させることに成功していて、全国に誇れる楽曲に昇華していました。ここでも、私の涙腺崩壊!

最後の曲の後半が、「唐津市歌」として唯一作曲当時に発表されたらしいのですが、現在どのくらい浸透しているのか、私は全く知りません。
けれども、長い歴史をふまえて未来への展望を示すこの歌は、単なる明るい一般的な「市歌」とは一線を画していて、陰影に富んだ名曲だと思いました。これは、全国に誇れる名曲です。
誰でも歌えるシンプルなメロディながら、ちょっとマイナーなコードを挟んだりして単調さを避けています。音楽的にも見事な出来です。
唐津のイヴェントでは、普通にこの曲を歌うような状況になって欲しいものです。

この第1部のアンコールでは、唐津市歌の一部を会場全体で歌うことになりました。この一体感は、感動のひと言でした。

私のまわりで泣いている人はひとりも見当たらなかったのですが、私ひとり涙を拭いながら喫煙所へ向かったのでした。



会場に来ている人は、今までクラシックのコンサートには無縁の人が多いということを見込んでか、第2部は大定番のベートーヴェンの「運命」がプログラムに入れられていました。

私も大好きな曲で、数えきれないほどのCDや映像で楽しんできた曲です。

素晴らしい演奏も数々あるので、九州交響楽団がどの程度の演奏を披露してくれるのかなぁ、ぐらいの期待でした。

合唱団も退席して、楽器の数も減ってシンプルな編成になって始まったおなじみの曲は、私の予想を遥かに越える演奏でした。

若干早いテンポで始まる第1楽章も、見事な展開で最後のフォルティッシモへ突き進みます。

私が大好きな第2楽章は、通常よりもかなりテンポを落として、天国的な美しさを表現してくれます。これは、たまらんっ!!

アドレナリン出まくりの第3楽章から第4楽章への流れは、もう期待を遥かに越えていました。
譜面も見ないで指揮している小泉氏に的確に反応している九州交響楽団のメンバーも、実に見事です。このコンビでの演奏の回数が多いことを、如実に物語っています。
楽団員のミストーンは数カ所あったものの、私が聴いた「運命」のベストのひとつであることは、間違いありません。

アンコールは、これまた定番のヨハン・シュトラウスの「ラデツキー行進曲」でした。
観客の手拍子で盛り上がる曲なんですが、小泉氏はきちんと典雅な雰囲気を楽団に指示していて、とても格調高い演奏になっていました。単なる「盛り上げ」にしていないところが、小泉さんのプライドを感じました。




一年以上前から練習を積み重ねて来た合唱団の皆さんは、本番前日に初めてオーケストラとリハーサルをやったようです。
ずっとピアノの伴奏で練習してきた皆さんにとっては、オーケストラの音の洪水は驚きだったに違いありません。
単なる伴奏だったピアノと違って、コーラスと対等に扱われるオーケストラの存在は、彼らのモチベーションを一気に高めたのは間違いありません。
その結果として、本番では練習以上のパワーが出たんだと思います。技術以上のパワーを感じられました。ホントに素晴らしいコーラスでした。



ということで、久々のライヴ・レポートでした。
初演なので当然ながら動画はありませんが、私の感動が少しでも伝われば嬉しいです。



終演後、この演奏会について語りたくてしょうがない私は、偶然にもこのライヴの音声を公式に録音していた知り合いと出会いました。
いかにこの演奏会が素晴らしかったかを力説して、少しだけ気分が楽になりました。
DVDが発売される予定らしいのですが、音声だけのCDだけでも私は欲しいです。




ちょっとだけ、この演奏会の雰囲気を味わえる動画を見つけました。
同じ團伊玖磨氏の代表作のひとつ「西海讃歌」です。
かなり、近い感じです。是非、聴いてみてください。


佐世保市民管弦楽団:西海讃歌




團伊玖磨と聞いてピンと来ない方のために、彼の代表作をあげておきます。

ぞうさん
やぎさんゆうびん
ラジオ体操第2
花の街
オペラ「夕鶴」から「与ひょう、私の大事な与ひょう」

決定版は、「祝典行進曲」でしょう。
日本を代表する、世界に誇れる典雅な行進曲です。


洗足学園音楽大学:祝典行進曲






新聞にも、ちゃんと載っていましたよ。
「唐津」新聞記事

合唱組曲「唐津」。

新たな名曲の誕生の瞬間に立ち会うことができて、心から幸せでした。




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