シドニー・ルメット監督が亡くなったことで、彼の作品のサウンドトラックを聴きなおしています。
先日は、「ショーン・コネリー/盗聴作戦」と「オリエント急行殺人事件」を紹介しました。
彼の作品の音楽担当者をチェックしていると、クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)との関係が結構重要なものであることがわかってきました。
1965年公開の「質屋(The Pawnbroker)」で、クインシーは初めての映画音楽を担当します。
当時ジャズ・アレンジャーとして最も意欲的な作品を連発していたクインシーを、ダークな雰囲気のこの作品に起用したのは、大正解だったようです。
さまざまなタイプのジャズを楽しめますが、私の好みからすると絶妙のブルース・フィーリングを出しているストリングスが、抜群の気持ち良さです。
このサウンドトラック盤は、ジャズ・ファンからも評価が高いようですね。
そして、先日ご紹介した「盗聴作戦」では、「クロスオーヴァー」以前の「ジャズ・ロック」といったテイストの曲で、サスペンスを盛り上げました。
シドニー・ルメット監督の初めての「失敗作」と言われたのが、1978年の「ウィズ(The Wiz)」です。
公開前から大きな話題になっていましたので、当然私も劇場で観ました。
映画の失敗の最大の要因は、薄っぺらな脚本だと思います。
人物描写に定評のあるルメット監督ですが、それを活かせない脚本でした。
まぁ、最初からリズミカルなミュージカルには、ルメット監督は合うはずもなかったんですが。
主役のダイアナ・ロス(Diana Ross)が、「純真な少女」に見えないという批判が続出しましたが、確かに・・・。
私の素直な感想は、ダイアナ・ロスとマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)が中心のミュージカル・ナンバーは、とても楽しいものでした。ただ、それ以外はあまり記憶に残りません。
映画本編は、全ての人におすすめ!というわけにはいきませんが、サウンドトラック盤は素晴らしい出来です。
この映画が公開された1978年は、クインシーの絶頂期です。
たくさんのプロデュース作品をリリースしています。
中でも、彼のリーダー・アルバム「スタッフ・ライク・ザット(Sounds... And Stuff Like That!!)」は、完璧でした。
それまでのアルバムにあった、曲ごとにメンバーが全く違うというパターンから、固定したリズム・セクションに変更して製作しています。
その核となるメンバーは、キーボードがRichard Tee、ドラムスがSteve Gadd、ギターにEric GaleというStuffからのメンバー。
それにベースのAnthony JacksonとパーカッションのRalph MacDonaldという、鉄壁のリズム・セクションです。
そして、そっくりそのままのメンバーが、「ウィズ」のサウンドトラック盤のメインになっているのです。
ですから、この「ウィズ」は、もうひとつの「スタッフ・ライク・ザット」という側面を持っているのです。
とにかく、フュージョン・ファンには全てのナンバーが「聴きどころ」なのです。
ということで、おすすめを何曲か紹介しておきます。
まずは、本編が始まる前の「Overture (Part Two)」です。
分厚いオーケストラの上で、Toots Thielemansのハーモニカがメロディを奏でて、Eric Galeのギターが「ワン・アンド・オンリー」のオブリガートを弾きます。
もう、「幸せなひととき」って感じです。
「Overture」に続いて登場するのが、Theresa Merrittが歌う「The Feeling That We Have」です。
控えめなパーカッションの上で、Anthony JacksonのベースとEric Galeのギターだけの伴奏で、Theresaのゴスペル調のヴォーカルとコーラスが本編の開幕を告げます。
最小限のバックでの幕開けが、見事な効果を上げています。
お待ちかね、Michael Jacksonの登場です。
カラスにバカにされるかかしを演じるマイコーの歌「You Can't Win」です。
動けない状況でのマイコーのヴォーカルと演技は、見事です。
そして、「欽ちゃんの仮装大賞」でもおなじみの「Ease On Down The Road」です。
DianaとMichaelのヴォーカルが、抜群です。
なんと言っても、このミュージカルの全曲の作詞作曲を手掛けているCharlie Smallsの曲が素晴らしいですねー。
ベースのAnthony Jacksonのファンには、看過できない曲が「Poppy Girls」です。
Michael Breckerのエレクトリック・サックスが、いつもの音を奏でていますが、なんと言っても主役はAnthonyのベース・パターンでしょう。
この強烈な個性と正確なリズム・キープは、全ベーシストが参考にすべきプレイだと思います。
いかがでしょうか?
とにかくこのアルバムは、超豪華なミュージシャンを惜し気もなく使っていますが、きちんと統一感のある作品に仕上がっています。
これこそ、クインシーのプロデュース力の証でしょう。
Michaelのクインシー・プロデュース作「Off The Wall」、「Thriller」、「Bad」のファンは、絶対に聴き逃すことができない重要なアルバムなのです。
最後に、テレビ番組でのMichaelとDianaのデュエットをご覧ください。
二人の「天才ぶり」が、強烈です。
映画本編も、フュージョン・ファンなら一度は観ておくべきです。
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