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何となく妙な雰囲気を感じる北陸の某ホテル、翌朝のドライバー荒木くんの様子がおかしいのです。
※極度に怖い話が苦手な方は最後までお読みにならないことをお勧めします※
「大変だったんですよ、昨夜!」
ずっと浮かない顔をしていた荒木くんが、いきなり年配のドライバーに食ってかかるように言いました。私は予想外のことに思わず息を飲んだのですが、当の荒木くんも、しまった、というようにすぐに黙り込んでしまいました。
「どうしたんですか。何かあったんですか?」
そう尋ねてもバツが悪そうに薄く笑いながら下を向いたままです。
年配のドライバーも面喰って、荒木くんにどうしたのだと問いただすのですが、もはや彼は何でもないと繰り返すばかり。
そこでしばらくすると少し不機嫌になった年配のドライバーは、諦めて自分のバスの方へと行ってしまいました。
「どうしたんですか?」
気分を害したドライバーの乗り込むバスに目をやりながら、私はもう一度荒木くんに尋ねました。すると、彼は仕方なさそうに口を開いたのです。
「ローランさん、昨日はどこの部屋に泊まってたの?」
「私は旧館の玄関の奥の、3階か4階の和室でしたけど」
「そっか、そうだったんだ~」
荒木くんは複雑な顔で溜息混じりに言葉を吐き出しました。
「俺の部屋、出たんですよ。このホテルは出るっていうので有名なの、知りませんでした?」
あ、やはり、と私は思ったのですが、それを言葉にすることはせず、荒木くんの次の言葉を待ちました。
「俺もどこの部屋で出るかとかは全然知らなかったんですけどね……」
彼がフロントで貰った部屋の鍵は、私と同じ旧館のものではあったそうですが、話を聞く限りもっと粗末な部屋だったようです。窓すらなく、シングルベッドの脇にかろうじて荷物が置ける程度で、荒木くんは夕食後もこの部屋で長く過ごすのが億劫だと思い、温泉に長く浸かるなどして時間を過ごしたそうです。
22時頃にはもう寝ようと思い、部屋のベッドに入って就寝した彼は、深夜、物音に気付いて目を覚ましました。
夢見心地で何だろうかとぼんやりする彼は、次の瞬間、体中の血が凍りつくような気分を味わうこととなったのです。
吐息がかかりそうなほどすぐそばで、のっぺりとした白い顔が自分の寝顔を覗きこんでいるではありませんか―――――
何が何だか分からずに大声で叫ぼうとしましたが声が出ず、ぐっと目を閉じたままどれだけの時間が過ぎたでしょうか。自分では数十分のつもりで、もしかするとせいぜい十分ほどだったのかもしれません。
その間部屋の中では特に物音すらしませんでしたので、彼は先ほど見たものは単なる夢だったのかもしれないという気持ちになり、もう一度恐る恐る目を開けてみました。
すると―――――
今度は血走った目の白い顔がうすら笑いを浮かべながら目の前にあったのです。
現実感を持った恐怖感のために荒木くんはベッドの上から転がり落ち、とにもかくにもドアのノブを手探りで探しました。そしてようやくドアノブを荒々しくひねってドア開け放った時には、廊下の薄暗い明りですら眩しく感じられ、天の助けに思えたのだとか。
「翌日の仕事もハードだし、寝なきゃならないと思ったんで、俺はその後ドアを開けたままで再度ベッドに入ったんですよ。ところがね」
ドアを開けたままでも、眠りに入った頃にやはり何か気配を感じて目覚めてしまい、またあの白い顔が彼の顔を覗きこんでいたというのです。そこで今度はドアを開け放ち、電気も煌々と点けたままで荒木くんは頭から布団を被って寝ようと努力しましたが……
「そのまま眠れずに朝になりました……」
蒼白な顔でそう言って彼は黙り込みました。
何となく私の感じていたこのホテルでの湿っぽい、暗いイメージはこれだったのでしょうか。二人してしばし沈黙していたのですが、あることを思い立って私は荒木くんに聞いてみました。
「その荒木くんの部屋って……どの辺?」
そう尋ねる私には、きっとあそこではないかという、不確かだけれど確信めいた気持ちがありました。
そして、荒木くんの返事を聞いたとき、私のその予想が的中していたことを知り、改めてぞっとさせられたのです。
そう、それは、私が気持ち悪いと感じた旧館の玄関近くから伸びる、暗い暗い廊下の先にあったということ。
荒木くんは恐怖を思い出したくないということで深くは語りませんでした。ここに書いたことは私が無理に聞き出したことのみですので、おそらくもっと恐ろしい思いをしたのだと思います。
それでも寝不足の彼は頑張ってその日一日確実に運転をしてくれたのですが、ツアーの解散後には頬がげっそりと痩せこけたように見えました。
F I N
ちょっと時期遅れの怪談でしたが…オチなしです((>д<))
世界中のホテルには多かれ少なかれこういうことがあるので気を付けよ~(;^_^A
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