マリでクーデターが起こってかなりの時間が過ぎました。セネガル在勤時に10回以上、出張で行った国ですから特別の思いがあります。


 数か月前にこういうエントリー を書いていただけにとても残念です。大統領のアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ(ATT)は国父として尊敬されていたことは事実です。任期はあと1ヶ月ちょっとでした。何もこんなタイミングでクーデターを起こさなくてもいいのにと残念になります。


 ATT自体、丁度20年前にクーデターを起こしたことがあります。ただ、当時とは全然状況が違って、その時の大統領のムーサ・トラオレは強権政治と拷問、虐待等で国民の人気を失っていました。それをひっくり返したATTはむしろ国民的ヒーローでした。しかも、その後すぐに民政移管を果たし、コナレ大統領が10年、ATTが10年ということで、私の眼には相当に民主主義が定着した国だと思えました。今でもその評価は変わりません。


 今回のクーデターは、北部地域でトゥアレグ族の反乱やAQMI(Al-Qaida au Maghreb Islamique)という名のアル・カーイダ分派が暴れていて、それに対してATTが弱腰だったということで、どんどんトゥアレグ族やAQMIが北部テッサリトからキダルまで支配を強めようとしてきている中、十分な装備も与えられず敗走していくことに対して、軍が不満を持ってクーデターを起こしたということのようです。


 トゥアレグ族については、かつて書いたことがあります(ココ )。国を持たない民でして、リビアからマリくらいまでかなり広範な地域に広がっています。サハラ砂漠を縦横無尽に駆ける民とでも言えばいいのかもしれません。どの国でも扱いが低いために、どの国でも反乱勢力になっています。マリは長年、このトゥアレグ族対策を上手くやっていたのですが、最近は反乱が目立つようになっていました。一番決定的に悪かったのは、トゥアレグ族はリビアのカッザーフィに傭兵として雇われていたため、リビアのゴタゴタが終わってかなり強力な武器を持って戻ってきたということがあります。マリの正規軍はこれに相当手を焼き、それが中央政府への不満に繋がったというのが今回のクーデターの一因です。


 あと、AQMIですが、いつも思うのはこの手のアル・カーイダに近いことを売りにしている勢力は本当に何処までアル・カーイダそのものと関係を持っているのかがよく分からないのです。昔、こんな記事 を書きました。今でも問題意識はあまり変わっていません。AQMIはこの記事で言うところの③か④だろうと私は思っています。だからといって何かが正当化できるわけではないのですけども、変にアル・カーイダを過大評価することなく、マグレブ地域で暴れているその他の団体と大差ないくらいの見方でいいように思います(繰り返しになりますが、ここで言っているのは分類論だけであって、決してAQMIがもたらす脅威を過小評価しようとか、正当化しようという意図はありません。)。


 ATTによるトゥアレグ族の反乱やAQMI対策が上手く行っていなかったことは確かです。欧米からテロ対策が緩いと批判もされていました。ATTが少なくともトゥアレグ族に強く出なかったことは、何となくわかるような気がします。多分、同じマリ国民として平和裏に取り込みたかったのだと思います。ATTは以前、トゥアレグ族の首相を任命したりして、何とかマリ国内でのトゥアレグ族の地位を上げようと努力していたことがあります。それが万策尽きて、結局上手く行かなかったということなのですけども、私がマリ大統領なら押せ押せの攻撃路線を取ったかというと自信がありません。


 トゥアレグ族反乱やAQMIにどんどん押されて敗走していく軍のためにクーデターを起こしたというのは、全く理解できないわけではありません。ただ、首都バマコではどうもクーデターに対しての支持が得られていないみたいです。勿論、国際社会の寵児であったATTをクーデターで放逐したことに対して、国際社会全体が非難しています。反乱軍のトップを見ていても、特に著名な人気のある軍人ではなく、恐らく国民の気持ちはついていっていないでしょう。


 もしかしたら、遠隔地の砂漠で辛い軍務に携わる軍人たちからすれば「何故、自分達の思いを理解してくれないのだ」という思いが去来しているかもしれません。実際にマリ正規軍がAQMIやトゥアレグ族と戦っているのは、首都バマコから1000キロ以上離れた場所です。首都バマコの住民からすれば、遠く離れた場所での出来事ですから、今一つピンとこないといった意識のかい離があるのかもしれないなとちょこっとだけ同情的になりました。


 私の読みでは、クーデターはあまり首尾よく終わらないように思います。住民の支持が全く存在しない状態では次第に辛くなってきます。この20年で培われたマリ国民の民主主義体制への矜持は相当なものがあるでしょう。現状をこのまま維持できるとはとても思えません。ただ、今春に予定されていた大統領選挙はおじゃんですから、何処かで民政移管をしていかなくてはなりません。大統領選挙に出ようとしていた面々は民政移管のところからやり直しです。


 私は今でも「one of the most promising democracies in Africa」だと思っています。いち早く、またあの素朴なマリ共和国に戻ってほしいと願うばかりです。