インドのムンバイで起こった同時テロ事件は、どうもラシュカル・エ・タイバによる事件ではないかということですね。ラシュカル・エ・タイバというのは、カシミール紛争関係で対印抵抗活動をしている団体です。


 このラシュカル・エ・タイバは「テロ組織」として、アメリカ、イギリス、オーストラリア、インドなんかで登録されているだけでなく、国連でもアル・カーイダ関連(associated with Al-Qaida)ということで、制裁対象になっています。タリバーン関係やアル・カーイダ関係の個人、団体、組織等は国連安保理決議で制裁対象になっていて、日本はそれを受けて、これらすべてを外為法等で指定しています。


 ちょっと話が飛びますが、アラビア文字で表記する名前の人を制裁対象にするというのは実は実務上とても難しいのです。我々がムハンマドとして認識する人の名前を「Mohammed」と書くか、「Muhammad」と書くかで全然違いますよね。銀行で口座を凍結しようとしても、ローマ字表記がちょこっと違うだけでコンピューター検索上は漏れ落ちてしまいます。かといって広く捉えようとすると、全然関係ない方も引っかかってしまいます。ラシュカル・エ・タイバも「lashkar-e-taiba」と書くのか、「lashkar-e-toyyba」なのかで全然違います。これをすべて漏れなく拾おうとすると結構、銀行実務上は難儀です。


 ところで、この「テロ組織」というカテゴリーについて長らく疑問に思っていることを書き残しておきます。それはこの「関連する(associated with)」という言葉についてです。今回のラシュカル・エ・タイバについても、マスコミでは一部「アル・カーイダ関連」みたいな書き方がしてあります。たしかにアル・カーイダ関係者が、カシミールのラシュカル・エ・タイバの基地で投宿して、訓練を受けたといった話もあるようですが、昨今のマスコミはテロが起こるとすぐに「アル・カーイダ『関連』」というふうに流れる傾向にあるのをちょっと私は疑問に思っています。


 そもそも、この関連というのは以下の何処までを指すのかなと思うわけです。


① アル・カーイダの指揮下にある団体等

② アル・カーイダの指揮下にあるわけではなく、同列の位置付けであるが、資金的・人的交流がある団体等

③ アル・カーイダの指揮下にあるわけではなく、何の交流もないのだが、一方的にアル・カーイダに親近感を持っている団体等

④ アル・カーイダの指揮下にあるわけではなく、何の交流もなく、親近感もないのだが、ネットワーク上、第三者を介して繋がっているようにも見える団体等


 私の感想は、2001年9月11日以降、この全部が「アル・カーイダ関連」と位置付けられているように思えるのです。そもそも、アル・カーイダという団体は、エジプトでイスラムの厳格な適用を訴え、ムスリム同胞団の精神的・思想的支柱であるサイード・クトゥブに非常に影響を受けています。同じくワッハーブ主義からの影響も大です。そういう思想的な背景とは全く関係なく、単にイスラム主義で、反エスタブリッシュメントで闘っている団体すべてを、とりあえず制裁対象にするために強引にアル・カーイダ関連としている節がないわけでもありません。意地の悪い言い方をすれば、国連安保理決議でビン・ラーデン、アル・カーイダ、タリバーンやその関連の団体等に対する制裁を決めているので、そこにはめ込むために議論を作っているようなケースも幾つかあるように思うのですね。


 特に主要国の内政事項に関する部分については、当該主要国の個別関心によって、制裁対象にする団体等がボコボコ盛り込まれているように思えてなりません。ロシア、中国なんてのは良い例です。(私はこれらの団体の活動すべてを容認するわけではありませんが)ラシュカル・エ・タイバのみならず、チェチェンのシャミル・バサーエフ(既に死んでますけど)とか、中国新疆の東トルキスタン・イスラム運動が「アル・カーイダ関連・タリバーン関連」ということで国連制裁対象になっているのを見ると、ちょっと「うーん、変だ」という思いがあります。アメリカが「テロとの戦いの国際的連帯」という目的を重視するあまり、主要国が「タリバーン関連だ」、「アル・カーイダ関連だ」と主張して制裁対象に盛り込もうとするものをはねつけきれなかったのでしょうね、多分。


 ゴチャゴチャ書きましたが、別に私はテロ組織と言われる団体を容認するつもりは毛頭ないのですが、何でもかんでも「アル・カーイダ関連」と位置付けてしまうことは変だと思っています。それは無用に「アル・カーイダ」の存在を誇大に評価してしまいがちですし、色々な意味でテロとの戦いにおいて、判断を誤る可能性もあると思いますからね。