『フルカウント』1985年 | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

フルカウント(原題:En tres y dos)/1985年/ 96分/カラー/ドラマ

監督:ローランド・ディアス
脚本:エリセオ・アルベルト・ディエゴ、ローランド・ディアス
撮影:ギジェルモ・センテーノ
美術:ルイス・ラコスタ
編集:ホルヘ・アベーリョ
音楽:ホセ・マリア・ビティエル


出演:サムエル・クラストン…マリオ・゛トゥルーコ″・ロペス役
    イレーラ・ブラボ…マガリ(マリオの妻)
    マリオ・バルマセダ…「インドゥストゥリアレス」チーム監督
    アレハンドロ・ルーゴ…ルーゴ
    ペドロ・カルボ(ロス・バンバン)…ペドロ
特別出演
★スポーツ:エリヒオ・サルディニャス(“キッド・チョコレート”/元プロボクシング世界チャンピオン)
        テオフィロ・ステベンソン(元ヘビー級オリンピック3大会連続金メダリスト)
        アルベルト・ファントレナ(モントリオール・オリンピック陸上金メダル)
        野球チーム:ビラ・クララ・チーム、インドゥストリアレス・チーム

☆音楽:ファン・フォルメル&ロス・バンバン
     エンリケ・ホリン&ティト・ゴメス


            フルカウント


あらすじ
2月10日、ハバナのラテンアメリカ球場で優勝を争う「ビジャ・クララ」チーム対「「インドゥストゥリアレス」。後者の人気選手マリオ・ロペスは、妙技師を意味する゛トゥルーコ″の愛称をもつ人気選手(写真中央)。だが寄る年波には勝てず、これが現役最後の試合だ。


引退。その言葉が現実となるこの日まで、彼は葛藤の日々を送っていた。
すでに活躍の場は、若手選手ポンセに奪われ、レギュラーからは外されていた。
工場労働者に戻るためには、能力審査に合格せねばならない。
38歳という年齢ゆえの不安と焦り、野球への執着とプライドに心は乱れる。


そこで彼は、引退したスター選手のインタビュー映像を見たり、第二の人生を歩む知人を訪ねる。

少年野球の指導者、歯科医、ナイトクラブの歌手。
そんなとき、トレーナーのルーゴが病気になる。
息子の晴れ舞台(バイオリン・ソロを弾くコンサート)の前に、ルーゴを見舞ったマリオは、元ボクシング・チャンピオンだったルーゴの境遇に心を寄せるあまり、コンサートに行きそびれてしまう。

大事な妻との約束、最愛の息子の期待を裏切ってしまったマリオは、口論の末に家を出て、監督の家に身を寄せる。


そんな状況の中で迎えた優勝決定戦。土壇場になって、「インドゥストゥリアレス」に逆転のチャンスが訪れる。試合は、2ストライク、3ボールのフルカウント。優勝を懸けた一球を監督はマリオに託すが……


見どころ
特別出演の欄で紹介した実在の名スポーツ選手たち(!)のインタビュー映像が挿入されており、彼らの引退時の心境や、アメリカに対するライバル意識などがリアルに伝わってくる。その結果、映画を超える価値や意味が備わった。


音楽的には、ロス・バンバン(ペドリート・カルボがメインボーカル)、エンリケ・ホリンとティト・ゴメスが登場!キューバ音楽ファンには見逃せない。


スタジアムを埋め尽くす6万人の観衆。その熱気と興奮。それをさらに煽るかのような国民的人気バンドの演奏。そして、審判に抗議する選手の激しさ。キューバにおける野球人気がスクリーンからムンムン伝わってくる。


とはいえ、基調をなすのは、登場人物たちの粗野だけど優しい人柄。互いへの思いやりや人情。
優勝決定戦という大きなドラマの影の小さな人間ドラマであり、人生讃歌。


MARYSOLより
国や職業を問わず、引退は当事者や家族にとり複雑でデリケートな問題。この作品は、どこで上映しても共感を得られるだろうし、いつ見ても心に沁みます。

とはいえ、感動のラストのあとエンディングで流れる陽気なサルサの歌詞は、オチャラケていて、思わずニヤリと笑ってしまいます。日本語字幕がないのが残念だけど、こんなことを歌っています。


No pasa nada. No es cosa de morir. En la vida a veces uno tiene ganas de llorar.
どうってことないさ。死ぬほどのことじゃない。人生には泣きたいときもあるのさ。


そう、辛くても笑ってやり過ごす。こんな楽天性や処世術にキューバ人の逞しさを感じます。
とにかく随所にキューバらしさが散りばめられいて、「これぞキューバ」な一本。


*コメント欄に、公開時の映画プログラムから印象的なコメントを抜粋して紹介したので、読んでください。


*下の写真は、左端がマリオを演じたサムエル・クラクストン。右端はわが師、マリオ・ピエドラ教授、隣は女優のデイシー・グラナドスで真ん中はデイシーの息子さん。(2005年12月撮影)

      デイシー