リプログラミング関連DNAメチル化変化の解析(その2) | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

リプログラミング関連DNAメチル化変化の解析(その2)

リプログラミング関連DNAメチル化変化の解析 」の続きです。


(10年11月8日追加)

国立成育医療センターの梅澤明弘先生らのグループにより、胚体外羊膜および肺線維芽細胞由来のヒトiPS細胞およびヒトES細胞について、グローバルなDNAメチル化解析を行い、iPS/ES細胞と分化細胞とで異なったメチル化レベルを示す領域を同定、そのうち87.6%はiPS/ES細胞で高メチル化状態にあるが、転写因子をコードする遺伝子のプロモーターにおいて低メチル化状態にある領域もあり、SOX15, SALL4, TDGF1, PPP1R16B, SOX10, POU5F1など、23個の遺伝子が幹細胞特異的に低メチル化を示す領域を持ち、iPS/ES細胞において高発現していることを示した論文が発表されました。


PLoS One. 2010 Sep 27;5(9):e13017.

Defining hypo-methylated regions of stem cell-specific promoters in human iPS cells derived from extra-embryonic amnions and lung fibroblasts.
Nishino K, Toyoda M, Yamazaki-Inoue M, Makino H, Fukawatase Y, Chikazawa E, Takahashi Y, Miyagawa Y, Okita H, Kiyokawa N, Akutsu H, Umezawa A.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20885964?dopt=Abstract


梅沢先生らはまず、胎児肺線維芽細胞(MRC-5)由来、羊膜細胞(AM936EP)由来のヒトiPS細胞株(MRC-iPS細胞、AM-iPS細胞)3株ずつのゲノムワイドなDNAメチル化状態を、Illumina's Infinium HumanMethylation27 BeadChip(14000遺伝子以上をカバーする27578個のCpGサイト(ほとんどがプロモーター領域からセレクトされている)のオリゴヌクレオチドがマウントされている)を用いて、2株のヒトES細胞株、8株の体細胞株と比較し、解析した24949個のCpGサイトを、低(score≦0.3)、中(0.3<score≦0.7)、高(0.7<score)メチル化の3グループに分類したところ、分化細胞における高メチル化の割合は平均16.3%だったのに対し、iPS/ES細胞では25.3%であり、分化細胞よりも多能性幹細胞で有意に多い数のCpGサイトが高メチル化に分類されることが分かりました。

また、Hierarchical clustering analysisによってもiPS/ES細胞が分化細胞と明らかに区別できること、heat mapにおいてもiPS/ES細胞では分化細胞と比べて高メチル化領域が広く広がっていることが示されました。

一方、iPS/ES細胞および分化細胞の両グループにおいて、CpGサイトの約2/3が低メチル化レベルを示し、13971個のCpGサイトが一貫して0.3以下の数値を示すことも分かりました。


次に、2つの細胞グループ間で0.3ポイント以上異なる数値を示すCpGサイトを“differentially methylated site(DMS)”と名付け、MRC-iPS細胞とAM-iPS細胞間、iPS細胞とES細胞間のDMSが、全てのCpGサイトのうち、それぞれ1.0%、2.8%しかないのに対し、AM936EPとAM-iPS細胞間、MRC-5とMRC-iPS細胞間のDMSは、それぞれ11.3%、10.6%であることを示しました。

また、iPS細胞とその元となった細胞間のDMSの約80%が、iPS細胞において低メチル化状態から高メチル化状態へ変わること、AM-iPS細胞とMRC-iPS細胞間、およびiPS細胞とES細胞間でのDMSの比較により、わずかであるが有意な差があることを示しました。

さらに、MRC-iPS細胞とAM-iPS細胞間の261個のDMS(MA-DMS)のうち、AM-iPS細胞における203個、MRC-iPS細胞における165個がそれらの元となった細胞と違いが無いことが分かり、iPS細胞におけるそれらの部位はそれらの起源組織から受け継がれたものであることが示唆され、MRC-iPS細胞とES細胞間の694個のDMS(ME-DMS)のうち414個とAM-iPS細胞とES細胞間の990個のDMS(AE-DMS)のうち581個は受け継がれたDMSであることが示されました。

また、おもしろいことに、iPS細胞とES細胞間のDMSの約40%がiPS細胞特異的DMSであり、iPS細胞において異常にメチル化を受けた部位であると考えられました。

なお、この異常なDMSのうち、155個がMRC-iPS細胞とAM-iPS細胞で重複しており、これらはFZD10, MMP9, ZNF551, ZNF513, ZNF540のような遺伝子のプロモーターに位置していることが分かりました。

また、これらの遺伝子は、元となった細胞よりもiPS細胞において高メチル化状態にあり、異常なDMSの約80%は、元となった細胞およびES細胞と比べて高メチル化状態にあることが分かりました。


次に、Principal component analysis(PCA)により、iPS細胞とES細胞間の高度な類似が示され、iPS/ES細胞は分化細胞と明らかに区別できることが確認され、principal component 1(PC1)に基づき、24949個のうち807個(3.2%)は“stemness”とともにそれらのメチル化状態が変化したと推測され、そのようなCpGサイトを持つ領域を“stem cell specific differentially methylated region(SS-DMR)”と名付けました。

まず、bead-chip上のCpGサイトの72.5%はCpGアイランド上にあるにも関わらず、807個のSS-DMRのうち、39.5%(319個)はCpGアイランド上に局在している一方、60.5%(488個)はそうでないことが分かり、non-CpGアイランド上のプロモーター領域が、多能性幹細胞へのリプログラミング間により影響を受けることが分かりました。

また、SS-DMRの707個(87.6%)は、分化細胞と比べ、iPS/ES細胞においてメチル化レベルが有意に増加していることが示され、それらを“stem cell specific hyper-differentially methylated region(SS-hyper-DMR)”と名付けました。

一方、100個(12.4%)が、減少しており、それらを“stem cell specific hypo-differentially methylated region(SS-hypo-DMR)”と名付けました。

なお、同定された遺伝子のいくつかのプロモーター領域におけるメチル化状態は、combined bisulfite restriction analysis(COBRA)およびbisulfite sequencingでも確認されました。


次に、gene ontology analysisを行い、SS-hypo-DMRは、核酸結合因子および転写因子に関連する遺伝子に多く見られ、iPS細胞において機能を持つことが示唆されたのに対し、SS-hyper-DMRは、分化に関連する遺伝子に多く見られることが分かりました。

また、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) pathwayにかけ、Cytokine receptor interaction cascade, MAPK signaling, Neuroactive ligand-receptor interactionが、SS-hyper-DMRの主なキーワードであることが分かりました。


次に、DNAメチル化状態の変化が発現レベルと相関するのか調べるために、分化細胞と比べてヒトiPS/ES細胞において5倍以上発現差がある遺伝子をGEO databaseで調べたところ、SOX15, SALL4, TDGF1, PPP1R16B, SOX10などのSS-hypo-DMRがある23個の遺伝子がiPS/ES細胞において有意に発現している遺伝子であることが分かり、SP100, GBP3などのSS-hyper-DMRがある43個の遺伝子がiPS/ES細胞において有意に抑制されている遺伝子であることが分かりました。

また、DNAメチル化酵素であるDNMT3A, DNMT3B, DNMT3LがiPS/ES細胞において発現しており、DNMT3Aプロモーターでは脱メチル化が見られる一方、DNMT3B, DNMT3Lプロモーターはリプログラミング間、低いメチル化が維持されていることが分かり、DNAメチル化に加えてヒストン修飾についても調べてみることにしました。


次に、UCSC Genome Bioinformaticsのデータベースに基づき、ヒト肺線維芽細胞に比べてヒトES細胞においてDNMT3BのプロモーターがH3K4me3で高度に修飾されていることが示された一方、DNMT3LのプロモーターではES細胞と肺線維芽細胞とでH3K4me3もしくはH3K27me3に違いが見られないことが示されました。

また、SS-hyper-DMRにおいて、68.8%がH3K4me3、H3K27me3を持たない一方、42.3%, 1.3%, 30.8%のSS-hypo-DMRが、H3K4me3, H3K27me3, bivalent H3K4me3 and H3K27me3でマークされていることが示されました。

さらに、SS-hypo-DMRを持つ23遺伝子のうち12個がH3K4me3のみでマークされること、6個がH3K4me3およびH3K27me3を持たず、残りがbivalent K4/K27me3を持つことが示されました。





non-CpGアイランドのCpGの方がリプログラミング間で変化しているところが興味深いです。