リプログラミング関連DNAメチル化変化の解析 | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

リプログラミング関連DNAメチル化変化の解析

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のKun Zhang、バージニアコモンウェルス大学(VCU)のYuan Gaoらのグループおよびハーバード大学のGeorge M Church、Jin Billy Liらのグループにより、次世代シークエンサーを利用したTargeted bisulfite sequencing(後者ではbisulfite padlock probe(BSPP)assayと表記)という新しい手法を用いて、ヒトの体細胞からiPS細胞ができるまでのリプログラミングにおいて変化するDNAメチル化をゲノムワイドに解析したという論文が出ました。


前者は、~30,000個のpadlock probeを用い、3つのヒト線維芽細胞株と8つのヒト多能性幹細胞株における、12, 20, 34番染色体上に分布する2,020個のCpGアイランド中の~66,000個のCpGについて解析しており、後者は、~10,000個のpadlock probeを用い、ヒトBリンパ球、線維芽細胞、iPS細胞における、ENCODE計画のパイロットプロジェクトの対象領域に分布する~7,000個のCpGについて解析しています。

また、後者では、methyl-sensitive cut counting(MSCC)を用い、Bリンパ球DNAのHpaII部位約140万ヶ所に関する非選択的なゲノムワイドデータを得、高発現遺伝子の遺伝子本体のメチル化がヒトゲノム全体に共通する現象であることも示しています。


Nat Biotechnol. 2009 Mar 29. [Epub ahead of print]
Targeted bisulfite sequencing reveals changes in DNA methylation associated with nuclear reprogramming.
Deng J, Shoemaker R, Xie B, Gore A, Leproust EM, Antosiewicz-Bourget J, Egli D, Maherali N, Park IH, Yu J, Daley GQ, Eggan K, Hochedlinger K, Thomson J, Wang W, Gao Y, Zhang K.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19330000?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
Current DNA methylation assays are limited in the flexibility and efficiency of characterizing a large number of genomic targets. We report a method to specifically capture an arbitrary subset of genomic targets for single-molecule bisulfite sequencing for digital quantification of DNA methylation at single-nucleotide resolution. A set of ~30,000 padlock probes was designed to assess methylation of ~66,000 CpG sites within 2,020 CpG islands on human chromosome 12, chromosome 20, and 34 selected regions. To investigate epigenetic differences associated with dedifferentiation, we compared methylation in three human fibroblast lines and eight human pluripotent stem cell lines. Chromosome-wide methylation patterns were similar among all lines studied, but cytosine methylation was slightly more prevalent in the pluripotent cells than in the fibroblasts. Induced pluripotent stem (iPS) cells appeared to display more methylation than embryonic stem cells. We found 288 regions methylated differently in fibroblasts and pluripotent cells. This targeted approach should be particularly useful for analyzing DNA methylation in large genomes.


Nat Biotechnol. 2009 Mar 29. [Epub ahead of print]

Targeted and genome-scale strategies reveal gene-body methylation signatures in human cells.
Ball MP, Li JB, Gao Y, Lee JH, LeProust EM, Park IH, Xie B, Daley GQ, Church GM.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19329998?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=3


Studies of epigenetic modifications would benefit from improved methods for high-throughput methylation profiling. We introduce two complementary approaches that use next-generation sequencing technology to detect cytosine methylation. In the first method, we designed approximately 10,000 bisulfite padlock probes to profile approximately 7,000 CpG locations distributed over the ENCODE pilot project regions and applied them to human B-lymphocytes, fibroblasts and induced pluripotent stem cells. This unbiased choice of targets takes advantage of existing expression and chromatin immunoprecipitation data and enabled us to observe a pattern of low promoter methylation and high gene-body methylation in highly expressed genes. The second method, methyl-sensitive cut counting, generated nontargeted genome-scale data for approximately 1.4 million HpaII sites in the DNA of B-lymphocytes and confirmed that gene-body methylation in highly expressed genes is a consistent phenomenon throughout the human genome. Our observations highlight the usefulness of techniques that are not inherently or intentionally biased towards particular subsets like CpG islands or promoter regions.


以前にも、メチル化DNA免疫沈降やメチル化感受性制限酵素処理をマイクロアレイと組み合わせることにより、ゲノムワイドなDNAメチル化解析が可能でしたが、これらの手法では、いくつかの接近したCpGのメチル化レベルの平均しか分かりませんでした。

一方、今回発表された手法により、より高解像度のデータが得られるようになり、CpGアイランドやプロモーター領域以外のメチル化に関しても詳しく解析できるようになったとのことです。



Zhang、Gaoらのグループは、毎度おなじみ、ジェームス・トムソン(Oct4, Sox2, Nanog, Lin28)、ジョージ・デイリー(Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc)、コンラッド・ホッケドリンガー(Oct4, Sox2, Nanog, Klf4, c-Myc)の3人のラボで樹立されたヒトiPS細胞、その元となった線維芽細胞、線維芽細胞とヒトES細胞の融合細胞、ヒトES細胞に関して、この手法を用いてグローバルなDNAメチル化を比較し、染色体レベルではCpGアイランドのメチル化はすべての細胞株において高度に似通っていることを示しました。

また、遺伝子発現との関連を調べたところ、転写開始地点(TSS)から上流1.0Kb、下流1.4kbの領域におけるDNAメチル化が、遺伝子発現と最も強い負の相関を示すことが分かりました。

一方、TSSの下流2-10kbの領域では正の相関を示すことも分かりました。


次に、線維芽細胞と多能性細胞とで異なったDNAメチル化を示す領域(DMRs)があるか調べ、288個のDMRsを同定しています。

これらのDMRsをマッピングし、関連する遺伝子を調べ、カテゴリー分けしたところ、イオン輸送関連遺伝子が多能性細胞において高メチル化、転写・代謝・発生関連遺伝子が多能性細胞において低メチル化状態にあることを示しています。


また、ヒトiPS細胞とヒトES細胞におけるDNAメチル化は、線維芽細胞とは明確に異なるけれども、ヒトiPS細胞とヒトES細胞の間でもかすかに差があることも示しました。

さらに、おもしろいことに、DNAメチル化の点では、ヒトES細胞と線維芽細胞は、ヒトiPS細胞と線維芽細胞より類似しているということも分かりました。

また、グローバルには、iPS細胞とES細胞は線維芽細胞よりも高メチル化状態にあり、iPS細胞はES細胞よりも高メチル化状態にあることも示しています。



Church、Liらのグループは、ENCODE計画のデータを用い、GM06990 Bリンパ球において、高発現している遺伝子と低発現している遺伝子のメチル化状態を調べたところ、高発現遺伝子では、プロモーター領域が低メチル化を示す一方、残りの遺伝子本体においてかなりメチル化が見られること、低発現遺伝子では、プロモーターおよび遺伝子本体の両領域において中程度のメチル化が見られることを見出しました。

また、ChIPデータと比較することで、シトシンメチル化はH3K36メチル化と相関し、H3K27と逆相関することを示しました。

(これは用いたプローブのターゲットの半分が遺伝子本体であり、5%だけがTSSの1kb以内の領域であったからだと考えられる。)


次に、異なった個人それぞれのBリンパ球、線維芽細胞、この線維芽細胞由来のiPS細胞のメチル化を調べ、異なった個人由来のリンパ球のメチル化パターンは高度に相関する一方、同じ人由来の線維芽細胞とリンパ球では相関がかなり低いことを示しました。

また、iPS細胞では、由来する線維芽細胞と比べて、ENCODE領域の~400遺伝子において、低メチル化であること、個人由来のリンパ球・線維芽細胞株においても、高発現遺伝子の遺伝子本体のメチル化が見られることも示しています。


さらに、BSPP法に加え、MSCC法によっても、高発現遺伝子における、プロモーターの低メチル化と遺伝子本体のメチル化が見られること、高発現遺伝子の転写開始地点の下流+1kbにおいて、約600-700bpを谷として、低メチル化が見られること、上流にも谷が見られること、高発現遺伝子の3'末端においてメチル化の増加と遺伝子の末端の後ろにおいて低下が見られること、例外はあるものの、その遺伝子発現に関わらず、平均して、CpGを多く含むプロモーターは低メチル化、CpGが少ないプロモーターでは高メチル化状態にあること、中間くらいのCpGを持つプロモーターで最も遺伝子発現と関連したプロモーターメチル化の違いが見られることを示しています。





Zhang、Gaoらのグループの論文の方がリプログラミングに焦点を当てているのでおもしろいです。

ただ、こういうものは、「意味のある」DNAメチル化とそうでないDNAメチル化をちゃんと区別して解析しないと、余計に混乱してしまうので、遺伝子発現と関連付けて解釈すべきだと思うのですが、どうせ関連付けるなら遺伝子発現を先に解析して、それを元にクラスタリングしてからメチル化を解析した方が利口じゃないかと。。

まぁ、それでは見えてこない「何か」を期待して、メチル化解析→遺伝子発現解析という手法をとったと思うのですが、結局のところ、思うような成果が出なかった感じですね。

最後の部分はなかなかおもしろいですが。





(09年11月5日追加)

ハーバード大学のGeorge Q DaleyとAndrew P Feinbergらのグループにより、ヒトiPS細胞、ES細胞、線維芽細胞で異なるメチル化を示す、組織およびガン特異的なCpGアイランド‘shores’を見出したという論文が発表されました。


Nat Genet. 2009 Nov 1. [Epub ahead of print]
Differential methylation of tissue- and cancer-specific CpG island shores distinguishes human induced pluripotent stem cells, embryonic stem cells and fibroblasts.
Doi A, Park IH, Wen B, Murakami P, Aryee MJ, Irizarry R, Herb B, Ladd-Acosta C, Rho J, Loewer S, Miller J, Schlaeger T, Daley GQ, Feinberg AP.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19881528?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1


Daley、Feinbergらは以前、正常な組織間で異なったメチル化パターンを示す領域(T-DMRs)とガン組織と正常組織とで異なったメチル化パターンを示す領域(C-DMRs)が、CpGアイランドそれ自身よりも、CpGアイランドの近くにあり比較的CpG含量が低い領域であるCpGアイランド‘shores’において、13倍も多く見られること、ガンでは低メチル化領域と高メチル化領域が半々であり、C-DMRsの45%がT-DMRsとオーバーラップしていることを示しており、ガンにおけるエピジェネティックな変化は、組織特異的分化の正常パターンのリプログラミングと関わっていることが示唆されていました。

そこで、同様のアプローチでiPS細胞リプログラミングの問題に迫ろうと考え、comprehensive high-throughput array-based relative methylation(CHARM)analysisを用い、6つのヒトiPS細胞株を、それが由来する線維芽細胞と比較しました。


まず、96,404個のCpGを含む4,401領域が異なったメチル化を示すことが分かり、R-DMRsと名付けました。

これらのR-DMRsでは、線維芽細胞と比べてiPS細胞で高メチル化されているDMRsが低メチル化されているDMRsよりも優勢でした。(60%:40%)

また、4,401個のDMRsのうち、1,969個は、遺伝子の転写開始地点の2kb以内にあることが分かりました。

さらに、これらの遺伝子のgene ontology(GO)annotation analysisにより、発生や制御プロセスと関連する遺伝子が有意に多く含まれること、線維芽細胞と比べてiPS細胞で低メチル化にあるR-DMRsの65%がbivalent domain markとオーバーラップするのに対し、高メチル化されたR-DMRsでは18.6%しかオーバーラップしないこと、低メチル化R-DMRsではOCT4, NANOG, SOX2などの多能性マーカーの結合領域との有意なオーバーラップが見られるのに対し、高メチル化R-DMRsでは見られないことが示され、これらのR-DMRsと関連する遺伝子は機能的に重要であることがバイオインフォマティクス解析により分かり、線維芽細胞からiPS細胞へのリプログラミング間に脱メチル化が起こる部位が多能性に重要な機能を果たす遺伝子と強固に関連していることが示唆されました。


次に、R-DMRsの70%以上が、高メチル化されているか低メチル化されているかに関わらず、CpGアイランドよりもむしろCpGアイランドshoresと関連付けられることが示されました。

また、R-DMRsの56%が、三胚葉系列組織(脳、肝臓、脾臓)を区別するT-DMRsとオーバーラップすることが示されました。

さらに、iPS細胞における高メチル化および低メチル化R-DMRsの両方が、既知のT-DMRsとそれぞれ54%, 60%オーバーラップすることが示されました。

よって、R-DMRsは、CpGアイランドshoresに多く含まれ、正常発生に関わるT-DMRsと大部分オーバーラップすることが分かりました。

また、遺伝子の傍にあるR-DMRsの61%がT-DMRsとオーバーラップすることも分かりました。


次に、3セットのiPS細胞株とそれが由来する線維芽細胞においても同様にCHARM解析を繰り返したところ、2,179個のR-DMRsが同定され、iPS細胞において低メチル化DMRの方が高メチル化DMRよりもわずかに優勢であることが分かりました。(55%:45%)

また、これらのDMRsの80%が、一回目の実験で同定されたDMRsとオーバーラップすること、CpGアイランドshoresで多いこと(78%)、R-DMRsの60%がT-DMRsとオーバーラップすることが確認されました。

また、ES細胞と比較したところ、これらは非常に類似したDNAメチル化を示すのだが、71個のDMRsで区別でき、iPS細胞において、51個が高メチル化、20個が低メチル化を示すことが分かりました。

これらのDMRsは、ES細胞よりもiPS細胞において高メチル化されている発生関連遺伝子とより多く関連付けられ、うち32個が、HOXA9およびZNF568とZNF112をコードする2遺伝子を含むおもしろい遺伝子の傍にあることが分かりました。

また、iPS細胞におけるメチル化は、線維芽細胞とES細胞の中間にあることもあれば(TBX5)、どちらとも異なる異常なエピジェネティック状態を示すこともある(PTPRT)ことも分かりました。

中には、線維芽細胞と比べてES細胞と同じ方向であるが、度合いが大きすぎるメチル化変化を示すものもありました。(HOXA9)


次に、9つのDMRsのbisulfite pyrosequencingにより、CHARM法によって得られたデータの確認をしました。

さらに、グローバルな遺伝子発現解析を行い、異なった遺伝子発現が、遺伝子の転写開始地点(TSS)の500bp以内にあるR-DMRsにおける異なったメチル化(高メチル化、低メチル化の両方)と強く逆相関することを示しました。

また、TSSの1kb以内のR-DMRsでも有意に相関があること、この相関はCpGアイランドshoresにあるDMRsでより強いことが示されました。

さらに、正常な脳、肝臓、脾臓を区別する領域におけるメチル化の度合いを調べるために、R-DMRsを用いたunsupervised cluster analysisを行ったところ、それらの3組織は完全に分けられ、リプログラミング間でメチル化の変化が起きる領域でこれらの組織を区別できることが示唆されました。

また、R-DMRsは、正常結腸粘膜と結腸直腸ガンを大部分区別することができることが分かり、これらのR-DMRsはガンにおける異常なリプログラミングとも関連があることが示唆されました。


次に、R-DMRsを、同一の個人由来の結腸直腸ガンと正常結腸粘膜におけるゲノムスケールのDNAメチル化比較で得られた結果と比較してみました。

以前、C-DMRsはT-DMRsよりも少なく(2,707:16,379)、C-DMRsの45%がT-DMRsとオーバーラップすることが示されていたのですが、本研究により、R-DMRsの約16%がC-DMRsとオーバーラップすることが分かりました。(permutation analysisによる予測では4.5%のみ)

また、線維芽細胞と比べてiPS細胞で低メチル化なR-DMRsは、正常組織と比べてガン組織で高メチル化なC-DMRsと関連していることが分かり、低メチル化R-DMRsと高メチル化C-DMRsとでオーバーラップすることが分かった294個のDMRsのうち、251個(85%)は、bivalent chromatin markとオーバーラップすることが示されました。

一方、高メチル化R-DMRsは低メチル化C-DMRsと関連していることが分かり、高メチル化R-DMRsと低メチル化C-DMRsとでオーバーラップすることが分かった293個のDMRsのうち、37個(13%)だけしかbivalent chromatin markとオーバーラップしないことが示されました。





いや~おもしろいですねぇ~

遺伝子発現、T-DMRsとC-DMRs、bivalent domainとの絡みが非常にクリアに示されていて、同定されたR-DMRsが“意味のある”ものであることがよく分かります。

ES細胞における解析から、遺伝子発現やクロマチン修飾(特にbivalent状態について)との関連付けが鍵を握るとは思っていましたが、ガンのDMRと関連付けるとは、おもしろい切り口だと思います。

Zhang、Gaoらのグループによる報告と同様、iPS細胞において、“行き過ぎた”メチル化リプログラミングが起こっていることが示されている点もおもしろいですね。





(12月24日追加)

スタンフォード大学のHelen M. Blauらのグループにより、多能性へのリプログラミングにはAID依存的なDNA脱メチル化が必要とされることを示した論文が発表されました。


Nature. 2009 Dec 21. [Epub ahead of print]

Reprogramming towards pluripotency requires AID-dependent DNA demethylation.
Bhutani N, Brady JJ, Damian M, Sacco A, Corbel SY, Blau HM.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20027182?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=2


多能性へのリプログラミングはAID依存的なDNA脱メチル化を必要とする 」をご参照下さい。





(10年2月22日追加)

Vavilov Institute of General GeneticsのSergey Kiseleraのグループにより、ヒト臍帯静脈内皮細胞からiPS細胞を樹立する際、ゲノムワイドスケールでエピジェネティックな変化が起こることを示した論文が発表されました。


Cell Cycle. 2010 Mar 6;9(5). [Epub ahead of print]

Induction of pluripotency in human endothelial cells resets epigenetic profile on genome scale.
Lagarkova MA, Shutova MV, Bogomazova AN, Vassina EM, Glazov EA, Zhang P, Rizvanov AA, Chestkov IV, Kiselev SL.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20160486?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=16


ヒト内皮細胞における多能性誘導はゲノムワイドスケールでエピジェネティック特性をリセットする 」をご参照下さい。





(10年6月7日追加)

東京大学の塩田邦朗先生らのグループにより、マウス多能性幹細胞における、組織特異的に異なったメチル化を示す領域(T-DMR)のゲノムワイドなDNAメチル化プロファイルについて解析したという論文が発表されました。


Genes Cells. 2010 May 13. [Epub ahead of print]

Genome-wide DNA methylation profile of tissue-dependent and differentially methylated regions (T-DMRs) residing in mouse pluripotent stem cells.
Sato S, Yagi S, Arai Y, Hirabayashi K, Hattori N, Iwatani M, Okita K, Ohgane J, Tanaka S, Wakayama T, Yamanaka S, Shiota K.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20477876?dopt=Abstract


塩田先生らは、メチル化感受性制限酵素、ligation-mediated PCR(LM-PCR)、DNA tiling arrayを組み合わせたT-DMR profiling with restriction tag-mediated amplification(D-REAM)という手法を用い、ES細胞、EG細胞、iPS細胞、体細胞におけるゲノムワイドなDNAメチル化解析を行いました。

まず、ES細胞株(B6-1, B6-2, MS12)と体細胞組織(脳、肝臓、腎臓)で比較し、22813個のT-DMRを同定し、ESC-T-DMRsと名付けました。

また、58個のESC-T-DMRsのMATscoreが、combined bisulfite restriction analysis(COBRA)で同定されたのとポジティブな相関を示し、D-REAMで同定されたESC-T-DMRsのいくつかは、Oct4やNanogのようなES細胞マーカー遺伝子の転写開始地点(TSS)のすぐ上流、遠い上流もしくは下流に位置しており、他の9つのECAT遺伝子でも同様でした。

また、ESC-T-DMRsの約75%がpromoter-tiling array上の30140個の遺伝子のTSSの-6.0から+2.5kbの8.5kbのうちにあることが分かりました。
次に、9985個のEShypo-T-DMRs(ES細胞で低メチル化状態にあるT-DMR)と関連する6408個の遺伝子をEShypo-genes、3つ全ての対象で共通しているものをEScore-T-DMRs、ES細胞で特異的に低メチル化状態にある1590個のEShypo-genesをEScore-genesとしたところ、Oct4やNanogを含む多能性幹細胞マーカー遺伝子はEScore-genesに含まれることが分かりました。

また、ES細胞において高メチル化状態を示すTissuehypo-T-DMRsを10322個同定し、うち6980個はTissuehypo-genesであるとされた4355個の遺伝子に位置しており、脳、肝臓、腎臓で低メチル化状態にある1418, 995, 535個の遺伝子をそれぞれBr-hypo-, Lv-hypo-, Kd-hypo-genesとしたところ、これらのTissuehypo-genesおよびTissuehypo-T-DMRsは、EShypo-genesおよびEShypo-T-DMRsと異なり、組織特異的なパターンを示し、共通した遺伝子はほとんどありませんでした。


次に、TSSの1kb以内にCpG Island(CGI)がある遺伝子をCGI genesとすると、EScore-genesはCGI genesに有意に偏っている一方、Br-hypo-, Lv-hypo-, Kd-hypo-genesはnon-CGI genesに偏っていることが分かりました。

また、EScore-genesはhigh CpG promoterに有意に偏っていることも分かりました。

CGI遺伝子では、TSSに対するEScore-T-DMRsの位置が二峰性の分布を示し、TSSの1.0-2.0kb下流および1.0-2.0kb上流にピークがありました。

また、EScore-, Br-hypo-, Lv-hypo-T-DMRsにおいて下流のピークは共通だったのに対し、Br-hypo-, Lv-hypo-, Kd-hypo-T-DMRsの分布において、上流のピークは明確でなく、組織間でT-DMRsの分布は異なっていることが示唆されました。

さらに、BioGPSデータベースからの遺伝子発現データセットを用い、EScore-genesは肝臓よりもES細胞において有意に高く発現していることを示しました。

また、TSSの3'下流にT-DMRsを持つCGI関連EScore-genesは、TSSの5'上流にT-DMRsを持つ遺伝子よりも、ES細胞において顕著に高発現を示すことも分かりました。


次に、EScore-genesのGene Ontology(GO)clustering analysisにより、EScore-genesの60%以上が核構成要素と、約40%が遺伝子発現調節と関連していることが示されました。

また、ES細胞転写ネットワークの構成要素であると考えられるNanog, Oct4, STAT3, Smad1, Sox2, Zfx, c-Myc, n-Myc, Klf4, Esrrb, Tcfcp2l1, E2f1, CTCF, p300, Suz12, Sall4, RESTの17転写制御因子のうち、8つ(Oct4, Nanog, c-Myc, n-Myc, STAT3, REST, p300, Sall4)がEScore-genesで、Sall4, Suz12を除いた15因子のターゲット遺伝子は有意にEScore-genes中に多く見られることが分かりました。

さらに、17転写因子のターゲット遺伝子は、EScore-genesの94%中に見られ、そのほとんどは複数の因子によって占有されていることも分かり、Oct4/Nanog/Sox2/Smad1, c-Myc/n-Myc/Zfx/E2f1, Klf4/Esrrb/Tcfcp2l1間で強い相関が見られました。


次に、Tissuehypo-genesのGO clustering analysisにより、Tissuehypo-genesは、他の組織やES細胞と比べて対応する組織に偏った発現パターンを示すことが分かりました。

また、Tissuehypo-genesでは、17の転写因子のうちSuz12とSall4のターゲット遺伝子が有意に多く、他の12因子のターゲット遺伝子は有意に少なく、CTCF, Suz12, Sall4による単独の結合が顕著であることが示されました。

さらにSuz12と/もしくはSall4のターゲットにおけるTissuehypo-genesは、異なった遺伝子ターゲットパターンを示すことも分かりました。


次に、EG細胞株(EG8.5, EG12.5)、MEF由来iPS細胞株(38D-1, 38D-2, 38D-3)、肝細胞由来iPS細胞株(103C-1, 103C-2)、およびそれらの元のMEFおよび肝細胞をD-REAMによって解析しました。

まず、ESC-T-DMRsにおけるDNAメチル化プロファイルのクラスタリング解析により、ES細胞、EG細胞、iPS細胞(特にES細胞とEG細胞)のDNAメチル化プロファイルは似ており、体細胞のそれとは異なることが示されました。

また、EScore-T-DMRsにおけるクラスタリング解析により、多能性幹細胞のtrunkと前駆細胞のbranchは、体細胞のtrunkとは離れていることも示されました。

さらに、MEFは肝細胞と比べ、より多能性幹細胞trunkに近いこと、EScore-T-DMRsにおけるMATscoreのヒートマップにより、EScore-T-DMRsのほとんど全てがiPS細胞において低メチル化状態にあり、前駆細胞では、いくつかの数のEScore-T-DMRsで低メチル化を示すことが示唆されました。

一方、Tissuehypo-T-DMRsにおけるクラスタリング解析では、iPS細胞のbranchはES細胞とEG細胞のbranchから派生していることが分かり、多能性細胞のtrunkと体細胞組織のtrunkのどちらも発達しないことが示されました。

また、Hnf4aを含むいくつかのTissuehypo-genesにおけるTissuehypo-T-DMRsは、肝細胞由来のiPS細胞株において株依存的低メチル化を示すことも分かりました。

さらに、全てのiPS細胞株はES細胞よりもTissuehypo-T-DMRsにおいて有意に高いMATscoreを示すことが分かり、iPS細胞においてTissuehypo-T-DMRsの一部が低メチル化状態にあることが示唆されました。





う~ん。。個人的には、もう少しiPS細胞特有の部分について、詳細な解析が欲しかったかな。。と思います。





(10年11月1日追加)

ジョンズ・ホプキンス大学のStephen B. Baylin、Linzhao Chengらのグループにより、iPS細胞樹立途中のリプログラミング初期に癌と関連するエピジェネティックな異常が発生し、iPS細胞株にも残存していること、それらには数百の異常な遺伝子サイレンシング、癌細胞に対するのに似たエピジェネティック修飾薬剤への異常な反応のパターン、iPS細胞および部分的にリプログラミングを受けた細胞における癌細胞特異的な遺伝子プロモーターDNAメチル化変化が含まれることを示した論文が発表されました。


Cancer Res. 2010 Oct 1;70(19):7662-73. Epub 2010 Sep 14.

Cancer-related epigenome changes associated with reprogramming to induced pluripotent stem cells.
Ohm JE, Mali P, Van Neste L, Berman DM, Liang L, Pandiyan K, Briggs KJ, Zhang W, Argani P, Simons B, Yu W, Matsui W, Van Criekinge W, Rassool FV, Zambidis E, Schuebel KE, Cope L, Yen J, Mohammad HP, Cheng L, Baylin SB.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20841480?dopt=Abstract


同グループは以前、「ヒトiPS細胞樹立効率の改善とNILベクター使用の試み 」で紹介したような論文を発表しており、この研究において樹立したiPS細胞株および部分的にリプログラミングを受けた細胞株について、多能性と腫瘍形成能を比較するために異種移植片腫瘍を調べました。

すると、IMR90線維芽細胞株にレンチウイルスでOCT4, SOX2, NANOG, LIN28, SV40 T-antigen(OSNLT)を導入してリプログラミングされた細胞株であり、OCT4などの未分化マーカーを発現しているがTRA-1-60は発現しておらず、in vitro, in vivoともに分化抵抗性を示し、異常核型を持つ、部分的なリプログラミングを受けた細胞株であるMP4が最も高いcancer potentialを示し、細胞質に対する核の高い比率、極端に高い有糸分裂率、ネクローシス領域、原始的で侵襲性の間葉系腫瘍が見られることが分かりました。

それに対し、TRA-1-60および全ての古典的なiPSマーカーを発現しているiPS細胞株であるMP2(ただし異常核型を持つ)は、良性で複数細胞系列からなるテラトーマを形成することが示されました。

次に、ES細胞株であるH1, H9, SC233およびAP, OCT4, TRA-1-60を発現している完全にリプログラミングされた複数のiPS細胞株(IMR90線維芽細胞にレトロウイルスでOCT4, SOX2, KLF4, c-MYC(OSKM)を導入し作製されたMR45, MR46、間葉系幹細胞(MSC)に同じレトロウイルスを導入して作製したMB41, MB45, MMW1, MMW2、IMR90にc-MYCを除く3因子(OSK)を導入して作製されたMR31, MR32についても調べたところ、全て、複数の胚葉由来の分化細胞種を持つマウス異種移植片が得られたものの、iPS細胞異種移植片は、軟骨、骨、小腸のような特定の構造について様々な度合いの成熟度(from 0.067 to 0.231 lineage structures/areas examined)を示し、三つのES細胞由来のテラトーマ(0.338-0.97)と比べて低い値を示すことが分かりました。

また、全てのiPS細胞テラトーマは、悪性のような特徴を持つ点(局所的なネクローシス、核多形性、異常に高い有糸分裂率、マウス筋系への浸潤を含む)を持つことが分かり、これらは三つのES細胞由来テラトーマでは見られないことが分かりました。


次に、これらの細胞株について、グローバルな遺伝子発現を比較したところ、非常に似ているが同一でないことが分かりました。

部分的にリプログラミングを受けたMP4細胞株ですら、多能性細胞株やES細胞とわずかにしか違わず、4つのヒト癌細胞株と離れてクラスタリングされることが分かりました。

しかし、ES細胞で高度に発現している遺伝子に焦点を当てると違いがあることが分かり、IMR90線維芽細胞と比べ多能性細胞株であるMR46, MR45では、12/16, 13/16遺伝子が、ES細胞におけるレベルにまで有意に発現上昇しているのに対し、MP2では、11/16のみが元となった線維芽細胞より高いレベルに、8つだけがES細胞と同じレベルに発現上昇することが示されました。

また、悪性で部分的なリプログラミングを受けたMP4では、最初の線維芽細胞に関して5/16のみが適切に増加しており、6つだけがES細胞のレベルに達していることが示されました。

さらに、MP4は、不完全な導入遺伝子の抑制のために、OCT4とc-MYCがES細胞よりも有意に高く発現していることも示されました。


次に、リプログラミング間の異常な遺伝子サイレンシングに関して、遺伝子発現と腫瘍形成のエピジェネティックな点をリンクさせたところ、多能性細胞株であるMR46, MR45, MP2では、線維芽細胞ではサイレンシングされているがES細胞では活性化されるべき、もしくは両細胞種で活性化されるべき遺伝子の両方について、正常なサイレンシングが異常なサイレンシングよりも優位を占めるのに対し、腫瘍原性MP4細胞では、逆であることが分かりました。

しかし、MP4が最も多い数の異常なサイレンシングを示す(~800)一方、best-performingなiPS細胞株であるMR46ですら~100個は異常なサイレンシングを示すことも示されました。

癌においてはCpGアイランドプロモーターのDNA高メチル化が異常な遺伝子サイレンシングを介する主な候補であるとされており、リプログラミングされた細胞株においても、異常なサイレンシングを受けた遺伝子のいくつか(CDKN2B, LXN, TIMP3, PYCARDなど)がそのような変化を示すことが知られていることから、グローバルな遺伝子発現が、DNA脱メチル化剤であるDACおよびヒストン脱メチル化酵素(HDAC)阻害剤であるTSAの両方に反応するか調べてみました。

まず、癌においては、DACは、高密度にメチル化されたプロモーターCpGアイランドを持つ遺伝子を効率的に再発現させるが、TSAのみでは無理なことを示されたのに対し、iPS細胞では、DACもしくはTSAのいずれかの添加で、異常なサイレンシングを受けている遺伝子の67%(MR46)から84%(MR45)が再発現すること、部分的なリプログラミングを受けたMP4では、他のiPS細胞よりも低い程度で、より多くのサイレンシングが誘導された遺伝子がDACのみもしくはDACとTSAの両方に反応するが、TSAには反応しないこと、また、わずかに低い程度で、異常に残っているサイレンシングされた遺伝子にも当てはまることが示されました。

さらに、CpGアイランド、non-CpGアイランドを含む遺伝子の両方で当てはまることも示されました。

これにより、MP4は、TSAのみよりもDACのみに反応する遺伝子を多く持つ点で癌細胞と似ていることが分かりました。

また、正常ES細胞、成人MSC、運命決定された骨前駆細胞(骨芽細胞)では、TSAのみに反応する遺伝子が多いこと、U2OS骨肉腫細胞、HT1080線維肉腫細胞では、DACのみに反応する遺伝子が多いことが示されました。

最後に、IMR90線維芽細胞は、DAC、TSA反応遺伝子の混合が多いが、TSAに反応する遺伝子が多く、DACに反応する遺伝子の増加する頻度によって、完全にリプログラミングされた細胞株全てを、ES細胞および成人MSCと区別できることも示しました。


次に、グローバルなスケールで異常な遺伝子サイレンシングと癌特異的プロモーターDNAメチル化をさらに調べるために、~27000個のCpGサイトを調べ、遺伝子の転写開始地点から-1000から+200bpにあるCpGに焦点を当てて解析したところ、よく注釈付けされたプロモーターCpGアイランドを持つ~5700個の異なった遺伝子中の~7500箇所の大多数(~90%)が全ての正常細胞(ES細胞、MSC、線維芽細胞)においてメチル化されていないことが確認されたのに対し、高密度のCpGアイランドプロモーターを含まない~800個の常染色体遺伝子中の~3750個のプローブで、CpGが少ないプロモーターではずっと多くがメチル化されており、正常細胞においても組織によってパターンが異なることが示されました。

また、メチル化されていないCpGアイランドプロモーターの数は、4つの成人癌細胞株において~78%に、2つの生殖系列テラトカルシノーマ株において~87%に落ち、前者では900個、後者は>200個の遺伝子が高メチル化状態にあることが示され、癌における遺伝子プロモーターCpGアイランドの高メチル化が確認されました。

non-CpGアイランドプロモーターはこれまで癌において注意深く調べられていないが、複数の遺伝子がメチル化されており、また、多くが正常なメチル化を失っていることから、癌細胞株は正常細胞株とは離れてクラスター化され、HCT116結腸直腸細胞のような癌細胞株で、Infinium解析により正確に同定された~90%の遺伝子が癌特異的DNA高メチル化を持つと確認されました。

このような背景のもと、リプログラミングされた細胞株だけでなく、線維芽細胞とMSCに4因子を導入、もしくは線維芽細胞にOCT4のみを導入してから初期段階(6-18日)の細胞集団も解析したところ、それらの細胞は、正常にメチル化されていない状態のCpGアイランドプロモーターを維持しており、多くが癌細胞で見られたよりも少ない異常しか持たないことが分かったものの、一つもしくはそれ以上の初期細胞集団において、6日目までに、50個が異常なメチル化を示し、個々のリプログラミングされた細胞株において、38個が異常なメチル化を示すことが分かりました。

また、細胞集団と細胞株とで遺伝子は概して異なったものの、~15%はそれら二つで共通でした。

部分的なリプログラミングを受けたMP4細胞を含む、調べた10細胞株のうち、高メチル化遺伝子が示されなかったのは2つだけ(MMW1, MMW2)で、残りは3個(MR46)から17個(MB45)持つことが分かり、細胞株においてそれら全ての遺伝子の>60%、細胞集団において50%が、1つもしくはそれ以上の癌細胞株においても高メチル化状態にあることが示され、OCT4のみを導入した細胞においてすら、12-16個の高メチル化遺伝子を持ち、それらの~50%が少なくとも1つの癌細胞株でも高メチル化状態にあることが示されました。

また、完全にリプログラミングを受けた細胞株では、non-CpGアイランド遺伝子のプロモーターの87-95%は、ES細胞と比べ、適切にDNAメチル化を得るか失っており、それらのグループのほとんどが線維芽細胞もしくはMSCのリプログラミング中の集団においては、iPSに必要な変化をしておらず、概して最初の親細胞のメチル化パターンを維持していることが示されました。

また、グローバルな適切な挙動にも関わらず、複数のnon-CpGアイランド遺伝子が、通常細胞と比べ、プロモーターメチル化を得たり失ったりしており、細胞株において13個、細胞集団において他の13個の遺伝子が異常にメチル化を得ている一方、それぞれ56、37個がメチル化を失っていることが示されました。

特に、MP4は37個の異常な遺伝子を含み、5つは異常にメチル化を得、32個が異常に失っていました。

また、高い割合の(細胞株で60%、細胞集団で43%)DNAメチル化の異常な獲得および欠損が、一つもしくはそれ以上の癌細胞株でも見られることも分かりました。

なお、MP4では、35%のnon-CpGアイランド遺伝子のみがES細胞と比べ適切にDNAメチル化を得たり失ったりしていました。

重要なことに、上記の異常なCpGアイランド遺伝子の多くが初代培養ヒト癌において高メチル化状態にあり、悪性度や、もしくは胚細胞運命パターン形成に役割を持つことが分かりました。

適切な内胚葉分化に重要なGATA4は複数の癌種において高メチル化状態にあり、機能欠損がDNA修復を妨害するO6-MGMTも、癌において高メチル化状態にありました。

結腸癌において低頻度に変異している遺伝子として最近同定されたTCERG1Lは、それらの腫瘍全てで実質的にDNA高メチル化状態にありました。

ERK経路をネガティブに制御することで発生と分化に役割を持つSRRY2は、予後的に重要な癌において高メチル化状態にありました。

発生にもキーとなる役割を持つSOX1は、癌において高メチル化状態にありました。

間葉系発生に重要なモルフォゲンであるBMP4は、乳癌において高メチル化状態にありました。

重要な細胞パターン制御遺伝子であるHOXA9は、乳癌においてしばしば高メチル化状態にありました。

腫瘍形成細胞株MP4において高メチル化状態にあるLXNは、いくつかの癌種において弱いCpGアイランドを持ち、高メチル化状態にありました。

また、これらの重要な遺伝子の選抜のために、methylation-specific PCR(MSP)解析を行い、Infiniumの結果を検証したところ、Infiniumプローブの近くに位置する4-6個のCpGサイトのクエリーで高メチル化値が得られ、10個中7個の遺伝子がMSPによってメチル化されていると分かり、クエリーされた2つのプロモーターサイトのうち1つで、TCERG1LがiPS細胞株MP2とMR45で完全にメチル化されていることが示されました。


次に、iPS細胞株、リプログラミング細胞集団、癌細胞株において、異常にサイレンシングされた遺伝子のプロモーター占有を調べたところ、iPSリプログラミング因子そのものによる占有は、それらの遺伝子プロモーターにおいて有意な濃縮が見られなかったものの、細胞株および部分的なリプログラミングを受けた集団において、DNAメチル化された複数の遺伝子のプロモーターでNANOGが見られ、PcGプロモーターマークの濃縮が見られることが分かりました。

なお、これらは、ES細胞、iPS細胞株MP2、部分的にリプログラミングを受けた細胞株MP4において、選択された遺伝子のプロモーター領域でのPcGマークH3K27me3の局所的なChIPによっても確認されました。





より質の高いiPS細胞を選抜するためのマーカーとして、標準化の際に有用になるかもしれませんね。