iPS細胞樹立に有効な線維芽細胞中のサブポピュレーション | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

iPS細胞樹立に有効な線維芽細胞中のサブポピュレーション

ほとんどの体細胞、iPS細胞に 山中教授が仮説
の記事の最後で、『分化状態に寄らず、同じ細胞種の中でもリプログラミングに耐性を持つものと寛容なものが存在している』というある種の“エリートモデル”も考えられると指摘しましたが、それを支持するような論文が発表されました。

スタンフォード大学のRenee A. Reijo Peraらのグループによる論文で、ヒト線維芽細胞中に存在するSSEA3ポジティブなサブポピュレーションからはより効率的にiPS細胞が樹立できるが、SSEA3ネガティブなサブポピュレーションからはiPS細胞が得られなかったというものです。

PLoS One. 2009 Sep 23;4(9):e7118.
Enhanced generation of induced pluripotent stem cells from a subpopulation of human fibroblasts.
Byrne JA, Nguyen HN, Reijo Pera RA.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19774082?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum



この種の研究は、どのラボで採れた細胞株でも言えることなのか?言えないのか?といった再現性の問題がつきまとうとは思いますが、頭の片隅には置いておくべきだと思います。

Reijo Peraらはまず、成人男性の皮膚から線維芽細胞株(HUF1)を樹立し、多能性幹細胞マーカーであるSSEA3, TRA-1-60, TRA-1-81の発現を調べたところ、意外なことに、SSEA3がヘテロな発現を示すことを見出しました。
そこで、この発現がHUF1に限ったものなのか、より一般的に言えることなのかを調べるために、別の8つの初代培養成体ヒト線維芽細胞株についても調べたところ、8つ全ての細胞株がSSEA3ポジティブなサブポピュレーションを含むことが分かりました。
また、HUF1についてFACSで調べたところ、大部分のサブポピュレーションでは全くもしくは少しだけしかSSEA3発現が見られないが、一部のサブポピュレーションで確かにSSEA3発現が確認されました。
上位10%、下位10%の蛍光を示す細胞を単離し、それぞれSSEA3ポジティブ集団、SSEA3ネガティブ集団としました。

次に、HUF1にレトロウイルスでOCT4, SOX2, KLF4, c-MYCを導入することで、アルカリフォスファターゼ(AP), Nanog, SSEA3, SSEA4, TRA-1-60, TRA-1-81ポジティブなiPS細胞を樹立でき、核型正常で、テラトーマ形成により三胚葉分化できること、心筋に分化誘導できることを示しました。
同様の実験を、上記のSSEA3ポジティブおよびネガティブなサブポピュレーションでも試してみたところ、MEFフィーダー上に移してから3週間ヒトES細胞培地で培養しても、SSEA3ネガティブポピュレーションを用いた場合では10-27個のES細胞様でない大きなコロニーしか得られなかったのに対し、SSEA3ポジティブポピュレーションを用いた場合では4-5個のES細胞様のコロニーが得られ、ES細胞様でない大きなコロニーは0-1個だけでした。
SSEA3ポジティブポピュレーション由来のES細胞様コロニーをピックアップして樹立されたiPS細胞は、ヒトES細胞様の形態を示し、AP, Nanog, SSEA3, SSEA4, TRA-1-60, TRA-1-81ポジティブであり、正常核型を持つこと、テラトーマ形成により三胚葉分化できること、心筋に分化誘導できることが示されました。
一方、SSEA3ネガティブポピュレーションからはiPS細胞を樹立することができず、それらの細胞はSSEA3を発現する細胞と比べてリプログラミング能が低いか、もしくはないことが示唆されました。
また、SSEA3を強く発現する初代培養線維芽細胞の10倍の濃縮により、iPS細胞樹立効率が8倍改善することも示しました。

最後に、上記のSSEA3ポジティブおよびネガティブなサブポピュレーションと残りの80%の中間発現細胞集団におけるNanog, Sall4, hTertおよびコントロールとしてGapdhの発現を調べたところ、Sall4, hTert, Gapdhの発現には有意差は見られなかったのに対し、NanogはSSEA3ポジティブポピュレーションにおいてSSEA3中間およびネガティブサブポピュレーションよりも強く発現していることを示しています。(ただし、ES細胞やiPS細胞の数千分の一のレベル)




この同一細胞株中のSSEA3の発現差が何に起因しているのかを探るのがおもしろそうですね。
グローバルな転写解析やエピジェネティック修飾解析の結果が気になります。