「あ、あわわわわ……あわわわわわわ………!!」
口から零れ出る、意味のない言葉達。
でも、そんなものは私自身の耳には聞こえていなかった。
なぜか早朝に事務所に呼ばれたと思ったら、社長命令でラブミー部に待機させられ。
そして、絶対観るようにと言われたテレビ番組を見ていると。
頭の中が真っ白になり、口から心臓が飛び出るほどのスキャンダルが報じられていた。
『ありがとうございます。皆さんが温かく俺達のことを見守ってくださるなら、あの娘からも良い返事がもらえそうです。』
『頑張ってください!!敦賀さん!!』
『はい。』
『大丈夫ですよ、昨日の様子だと、どう見てもイチャイチャバカップルにしか見えませんでしたから!!』
『あはは、そうですか?そう言ってもらえると嬉しいですね。』
嬉しくないわよ、何言ってくれちゃっているのかしら、この意地悪俳優は~~~!!
『京子さんに良い返事をいただけたら、すぐに皆様にご報告いたしますので。…楽しみに待っていてください』
『はい!!』
『敦賀さん、頑張ってください!!』『後もうひと押しですよ!!』
などと。
なぜかものすごい勢いで声援を受けている先輩俳優。
その内容が例えば、大きな大会を控えたスポーツ選手への声援であったならば。
……特に違和感はなかったかもしれない……
……いえ!!違和感ありまくりだわ!!だって、あの人達、報道マンなのよ!?真実の追求をほっぽりだして、何を声援なんか送っちゃっているの!?おかしくない!!??おかしいわよね、応援はあの人達の仕事じゃないわ!!真実を求めて裏付けをとるのがあの人達の仕事じゃない!!何勝手に納得しちゃっているのよ~~~~!!!!……
「恐ろしい……これがもしや、妖精界の魔法……?……魔法と言うより邪法に近い気もするけれど……。いえ、でもやっぱり……。」
「ブツブツと忙しいことだね?最上さん。」
「ヒィッ!?」
……報道関係者を笑顔ひとつで丸めこんで、あまつさえ全員を味方にしてしまえるとは、さすがは先生と女神の間に生まれし妖精国の王子様……。
現実から逃げるためにどうでもいいことを考えていた私の耳に、美しいテノールの声が聞こえる。
「の、ののののの、ノックをしてください!!っていうか、私、確か一応部室に鍵を……!!」
「クスクス…あんなもの、俺と君との愛の障害になりはしないよ。」
手に持つ安全ピンをヒラヒラさせながら言ってみせる敦賀さん。
……も、もしや、ピッキングしたのかしら!?
「さてと。こうして俺達のことは世間に知れ渡ることになったんだけれど……。どうしようか?」
「ど、どどど、どうもこうもありません!!さっきのは気の迷いでしたと釈明をしてください!!」
「どうして?俺は君が好きで、君は俺が好き。これは間違いないことだ。確定している想いが迷っているわけがない。」
「~~~~~でもっ!!」
「『でも』、何?」
「わ、私は………。あ、あなたに、相応しく、ありません……。」
敦賀さんにどれだけの人が惑わされ、私のことを認めてくれたとしても。それは私自信を認めてくれたことになりはしない。
「敦賀さんの隣に相応しいのは、あなたに守られる存在じゃなくて、あなたを守る事ができる人です!!」
私は、いつも敦賀さんに助けられてきた。
今の報道も、私のバッシングがなかったのは『敦賀蓮』の業界における力によるところが大きいはず。
演技で助けられ、仕事で助けられ、私生活で助けられ……。
守られてばかりの私が。
お荷物以外になれない私が。
一番、敦賀さんの隣にいてバランスの悪い私が、彼の傍にいていいはずがない。