本当に彼女の隣に立つ人間が俺でいいのか?
そう考えなかった日はなかったか、と問われたら。
それは、「ある。」としか答えられないだろう。
俺は決して聖人君子ではない。
それどころか、取り返しのつかない大きな罪を背負った人間だ。
彼女に相応しいかと尋ねられたら、それは『否』だと答えられる。
でも。
最上さんが他の誰かのものになることなんて想像したくない。
俺の隣で微笑むあの娘こそが、俺が求める彼女で。俺以外の『誰か』を傍に寄せることも本当は許せなくて。
それなのに君は……
―――とにかく、私では敦賀さんのお相手が務まりませんので、不肖最上キョーコ、敦賀さんにお似合いの女性を必ずや、探し出してみせます!!―――
俺を好きだと語った同じ唇で、君以外の女性を俺の隣に据えようとした。
……それを俺が、許すと本気で思っていたのだろうか……
そうなのだとすれば。
君は今すぐ理解しなければならない。
俺に愛されるということがどういうことなのか。
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「敦賀さん!!昨日の女性について一言!!一言お願いいたします!!」
「あの女性は誰ですか!!??」
LMEの看板俳優、『抱かれたい男No.1』なる称号を得ることになってしまった、『敦賀蓮』。その人物の初スキャンダルというものは、この愛すべき小さな島国の人々とっては一大ニュースとなってしまうらしい。
「彼女は、同じ事務所のタレントで『京子』さんです。」
社さんに庇われながらにこやかにスタジオ入りしようとしていた俺は、入口までくると振り返り、『彼女』の名前を暴露した。
「『京子』。……えぇ!!??『京子』!!??」
「あの、ダークムーンの『未緒』!!??」
「『BOX-R』の『ナツ』!!??」
続々と飛び出すのは、彼女が出演したドラマの役名。
思えば最上さんも有名になったものだ。今も素の時には『気付かれないから』とかいう謎の理由でフラフラと都内を1人で歩き回っているらしい。
だが、これからはそんなことは絶対にさせない。俺が一緒にいられない時にはSPでも付けて、彼女が安全でいられる環境を確保しなくては。
「では、共演がきっかけでお付き合いに発展したと!?」
「そういえば、ダークムーンの打ち上げの際には一緒にインタビューを受けられていましたね!!あの時にはもうすでに!!??」
「いいえ。京子さんとは、ドラマでご一緒する前から個人的に付き合いがありました。俺自身が彼女への気持ちを認めたのはダークムーンのドラマの撮影当初からですが、そのずっと前から気になる女の子でした。」
『敦賀蓮』として初めて会った日。
最悪な出会い方をした俺達ではあったが、思えばあれほど互いに印象的な出会いをしたのは、むしろ運命であっただろう。
あの日から、俺にとってあの娘は特別な存在だった。
良い意味でも悪い意味でも。
「昨夜、マスコミの皆さんとばったり遭遇してしまってから、社長と話をしまして。こうなれば公表しようということになりました。」
これは半分以上が嘘だ。
俺がマスコミの前に彼女と共に姿を見せたのは意図的なものだった。
しかし、あの騒動の後に宝田邸に行き、社長と話をしたのは本当のこと。
「昨夜、お話したとおり、俺と京子さんは愛し合っています。彼女はなかなか俺の気持ちを信じてくれませんがね。」
「あの…なぜ、京子さんはその、頑なに信じられないんでしょうか……?」
情けないながらも事実を口にすると、記者の1人から遠慮気味な質問が出される。