「でも、敦賀さん。」
「うん。」
「私は、蓮が大好きです。」
「っ!!最上さん……。」
俺が汚いと言ったその花を、君はそれでも好きだと言う。
「敦賀さんにとっては、汚い花だとしても。」
泥の中で咲く花であったとしても。純粋であるはずがなく、また、善良であるはずもない花だとしても。
「私にとっては、とても美しい花です。」
君は、「綺麗だ」と言ってくれるのか。泥の中から見出し、掬いあげてくれるのか。
「大好きです。」
そして、君は、愛してくれるのか。
「最上さん……。」
じわり、と視界が滲みそうになり、俺は慌てて瞳を固く閉ざした。
……俺がどれだけ否定し、愛さなかったとしても。君が愛してくれると言う、それだけで……
それだけで、簡単に救われてしまう、俺の心。
君が好きだと語る『蓮』は、決して俺のことではないけれど。
それでも俺は、君に勝手に救われる。
「蓮の花は暑い夏に見ても涼やかに見えますし。ピンクの花は可愛いし、白の花は心が洗われるような気持ちになります。花は早朝に咲くんですよ?その瞬間を見た時は私、本当に感動しました。」
笑顔で紡ぎ出す君の言の葉は、それだけで少しずつ、心に巣食っていた想いを浄化させる。
「蓮の葉って、水を弾くんです。だから、雨水の雫が綺麗な水玉になるんですよ。とっても不思議ですよね。」
蓮を不思議というけれど。
俺には最上さんの方が不思議な存在だ。
何も知らないはずなのに。
偽りだらけの俺の真実を、知らないというのに。
それなのになぜ、俺の心を救ってくれるのだろう?
蓮の花は浄土の花というけれど。
俺にとっては、最上さんこそが、救いの花。
愛しい唯一無二なる花なのだ。
「最上さん。……俺……。」
ドクン、ドクンと高鳴る想い。
口に出すことは許されなかった、少女を想う気持ちが今にも身体中から溢れ出てしまいそうだ。
……あぁ、叶うことならば。この至上の花を、俺の手で手折ってしまいたい。