(よしっ!!)
俺は、見つめ合う二人の映像を確認しながらグッと握り拳を作った。
崩れゆく『友人』という関係。
互いが想い、想われている相手に対する罪悪感。
それらを超えた先で、今、一組の男女が想いを重ねあおうとしている。
未だその想いを否定し、逃れようとしながらも、もはや後戻りできない感情に苦しむ二人。
その背徳の感情は…その想いを罪深いと、抗う二人の心は、穢れなく美しいのに……。
まとう空気は、どこか官能的だ。
「よしっ!!」
……いい画が撮れている!!
小さくではあるが、声に出して確信し、握りしめた拳になお力を入れたその瞬間だった。
……ミシッ!!バキベキグシャグシャグシャッ!!
素晴らしい二人の演技に、監督として大興奮していた俺。
その俺の聴覚に、全てを台無しにする異音が飛び込んできた。
「!?カット~~~!!」
信じられないっ!!こんな大事なシーンで変な音を出すのはどこのどいつだ!?
流れとしては最高だった。
この映画の中で、どのシーンよりも重要で、男女の恋愛における罪深さと幸福を現す究極の場面。その重要なシーンの最高の演技を台無しにしたスタッフを、俺は睨みつけるために背後を振り返った。
そして俺は……
「れ……、れ、ん……。」
「……はい?何ですか?監督。」
キュラキュラと光輝く笑顔を浮かべる男を見つけてしまった。
「お、お前……ど、どどど…どうしたんだ?」
「え?何がですか?」
確かに蓮は笑っていた。キュラッキュラッと最高の笑顔を浮かべていた。
でも。
奴の表情を見た瞬間に、俺の毛穴は全開になり、身体中からぶわりと冷たい汗が噴き出した。
……おかしい。これは蓮じゃない。いや、容姿自体は蓮なんだけれど…でも、蓮じゃない!!
膝がガクガク震えるのを止められない。
もうこれ以上、目の前で微笑む男を視界に入れておきたくない。
でも、まるで蛇に睨まれた蛙のように、俺は奴から逃げだすことはおろか、視線を外すことさえできなかった。
「あぁ、監督。ひとつ謝らなければならないことがあります。」
にっこりと極上の笑顔の男が、一歩、また一歩と俺に近付いてくる……っ!!
普段通りの蓮らしい、実に優雅で隙のない歩みだ。でも、その一歩一歩が、死の宣告のように恐ろしい何かを連れてきていると感じてしまうのは俺がおかしいのか!?