「私と志季の間に、平等なんてありえないのにね。」
身分でかけ離れ、想う感情でもかけ離れる。その間に、平行になり得る線などありはしない。
「もう、ここには来ないよ。」
―――送る事ができなくて、ごめん。―――
先ほど、突き付けられた志季からの言葉。それは、叶うはずのない恋情を抱く香蘭を突き放す言葉だったに違いない。
もうすぐ、志季は結婚する。
帝である彼は、もうじき相応しい家柄の、器量が良い女性を隣に据えるのであろう。
この国の母となる、強く美しい女性が、志季の隣に寄り添うのだ。
そうなった時、友人とはいえ邪な想いを抱える香蘭が傍にいることは、志季と王妃にとって妨げとなるだろう。
「香蘭殿。」
香蘭の話を黙って聞いていた雨帖は、俯き、黙り込んだ少女の名前を静かに呼んだ。
「陛下のご様子が変化したのは、決してお妃様を迎えるからではありません。」
「え……?」
「その原因は、私にあります。…申し訳ございません。」
「雨帖様に?どうして?」
きっぱりと断定し、謝罪をする雨帖。その言葉に、香蘭は思わず下げていた頭を上げた。
「っ!!」
そこには、真剣な表情をした男の視線があった。
普段、柔和な笑みを浮かべる、どちらかといえば穏やかな雰囲気が似合う青年の、炎を宿したかのような熱く鋭い眼差し。
その力強い瞳の色に見つめられて、香蘭は金縛りにでもあったかのように身体を動かすことができなくなった。
「香蘭殿。」
「は、はい……。」
この時になって、ふいに志季の言葉を思い出した。
―――北の民族国家で一、ニを争う武将だったからね―――
……雨帖を見て、背筋がゾクリと震えるのは、今日が初めてだ……。
「私は昨夜、陛下に私の本心をお伝えしました。」
「ほ、本心……?」
「はい。」
雨帖は一息置くと、静かに口を開いて言った。
「香蘭殿。あなたを、お慕いしております。」
「え……?」
何を言われたのか分からなかった。真剣な表情をした青年のその雰囲気に飲まれてしまい、思考を巡らすことができない。そんな少女が視線をそらすことなく見つめる先の男は、ここでやっと少しだけ普段のような穏やかな空気を纏った。
「私の、家族になって下さい。」
そして告げられた言葉。
その意味を理解した時。
香蘭は、目を大きく見開いた。