「よく見てくださいよ、敦賀さん!!」
「うん、見たよ。見たし…分かったから。」
「これぞまさしく女神!!天が遣わしたもうた、愛と美の神様であります!!」
「うん、分かった。…それにそれ、聞きあきているから……。」
「どうだ~~!!」と見せられた雑誌には、俺の仄暗い感情も、彼女への邪な想いも全てを吹き飛ばしてしまう、恐ろしい人が満面の笑顔で映っていた。
「あぁ~~~!!こんな美しい方がこの世にいらっしゃっただなんてっ!!なんって世界は広いんでしょう~~~!!」
「私の女神様~~!!」と、最上さんがすでに崇め奉っているその雑誌の女性なら…俺は、生まれた時から知っている。それはもう、物ごころというものがつく前から知っている人だ。
「ほら見てください、敦賀さん!!これが彼女に関するデータですよ!!」
「……そう。」
「アメリカ在住の、ハリウッドスターでありながらもスーパーモデルというこのゴージャスターぶり!!全てを兼ね備えた究極のイイ女なんです!!富と名声両方ありますよ!!」
「うん、そうだね。…本当にすごいよね……。」
それがコンプレックスになり、愛していながらも憎んでしまうという歪んだ感情を持った身である俺なのだが。
……何だか今回は違う意味で恨み事を呟きたくなってきた……
「いずれ世界のトップスターになられる敦賀さんのお隣にはこの方しかいらっしゃいません!!ほら見てください、このしっくりといく具合を!!」
最上さんに押し付けられた『ジュリエラ』に関する調査資料(最上さん調べ)A4用紙30枚の次に俺の目に飛び込んできたのは。
……もう5年、会ったことはない『彼女』の姿だった。
…………ミニチュア版で…………。
「…………。本物を見なくても作れるんだね。」
「えぇ、一応は。基本データで作ってみただけですので、若干のズレはあると思いますが。」
ズレも何も。俺の目の前には、捨てた過去のその場所で、確かに微笑んでいた人と寸分違わぬ大切な女性がいる。
……約28センチメートルの大きさで。
「まぁそんなことはどうでもよくて。ほらほら、バッチリお似合いでしょう!?ステキカップルでしょう!?」
そしてそんな彼女の隣には。…当時の髪と瞳の色ではないけれど『彼女の息子』のミニチュアがいるのだ。
それはもちろん、俺と寸分違わぬ存在。
「と、いうことで。敦賀さん!!彼女と会ってみませんか!?」
「……え?」
それは似合うだろうさ。彼女とこの男(俺)は親子なんだから!!昔なんて、彼女に似ていると言われていたぐらいなんだぞ!!
というより、この30枚のデータの中にどうして彼女には夫と子どもがいるっていうデータだけ抜けているんだ!?スリーサイズ調べるより容易に分かる内容だろうが!!
何かものすごい意図を感じる!!悪い予感しかしないっ!!
そんなことを考えながらも『敦賀蓮』として何をどう突っ込んでいいか分からず、痛む頭を抱えていた俺の耳に。ワクワクウキウキとした最上さんの声が聞こえてくる。
「社長さんがおっしゃるところ、女神は来月、日本に来られるそうなんです!!映画の宣伝にいらっしゃるんですって!!」
「…………。」
彼女の笑顔の向こう側に浮かぶのは『にったぁぁぁ~~~~…』と楽しそうに笑う社長の顔。
その顔が浮かんだ瞬間に、頭がクラクラとしてきた。
「あぁ~~!!お二人が並んだ姿を写メに収めたいですぅ~~~!!絶対にゴージャスでこの世のものとも思えない世界が広がるはずですぅ~~~~!!」
「キョーコ、幸せ~~~!!」と、花やら天使やら妖精やらを周囲に放つ最上さんは恍惚とした表情をしていて美しい。
……だが、今の俺はその美しい女神の唇でも奪ってやろうかと言う邪な感情さえ浮かばないほど心身ともに疲れていた。
俺のテリトリーに呼び込み、ニ度と逃がさぬようにすると決めた可愛らしくも憎らしい小鳥。彼女の羽をむしってでもこの場に閉じ込めるつもりだったというのに俺は……。
「……ごめん。最上さん。……何だかとてつもなく疲れたから……今日は、帰ってもらってもいいかな……?」
この日、彼女を自らの手で鳥かごから放ってしまった……。