かけがえのない日々~芽吹きのとき(4)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「俺と君…本当に、ろくな出会い方をしなかったよね……。」

「え?あ、いえ…。ま、まぁ、お互いに好印象とは言えないでしょうけれど…。」



 過去を振り返るように、天井を見上げながら呟く蓮。後悔の色が滲む彼の呟きを否定しようとしたのだが。…記憶を振り返ってみると打ち消す言葉など浮かぶはずもなく、キョーコはしどろもどろに肯定の返事をした。



「ごめん。あの時の俺にもし出会えたら、絶対に殴ってやるんだけれど。」

「!?え?いえ、結構です!!わ、私もあなたにくってかかっていましたし!!顔だけ俳優だって思っていたし、むしろ嫌いでしたから!!」

「……。そうか、そんなに俺の印象、悪かったのか……。」

「あっ!!す、すみません!!思わず本音がっ!!」

「……。素直すぎるのもあまり関心しないな。特にこの業界ではね……。」



 ガックリと肩を落とし、蓮は両手で顔を覆った。傷ついていることが充分に分かる蓮の姿に、キョーコはすぐさま土下座をし、「すみませんっ!!」とへコヘコ頭を下げる。



「クックッ…。やっぱり記憶がなくても、君は最上さんだね。」



 地に伏せ頭を上げ下げし続けるキョーコを掌の間からこっそりと見つめた後、蓮は「もういいから」と下げようとするキョ―コの頭に掌を当てた。



「君の、その面白おかしい正直すぎる言動が、多分俺達の接点を増やすことになったんだと思う。」

「へ?」

「あれだけの騒動、デビューしたての新人タレントが起こせるなんて、奇跡に近いからね。」

「……え!?わ、ワタクシは一体、何をしでかしたんでしょうか!?」

「え?聞きたい?」

「いっいえ!!やっぱり今度にします!!」



 楽しそうに話す蓮を見る限り、あまり悪いことではないのかもしれない。

しかし、この業界でもトップに君臨する男に『奇跡』と言わしめる所業をしたのかと思うと、今すぐ聞くと心臓が止まってしまう恐れがある。

キョーコは逃げるかのように頭を高速に横に振って、語ろうとする蓮を止めた。



「あ~~…。それで。本題は…何で俺が君を好きかってこと、だよね?」

「あ……。はい……。」



 だが、それ以上に心臓に悪い話をふっかけたままだった。

…しかし、その話から逃げては意味がない。それこそが確かに『本題』なのだから。

キョーコは姿勢を正すと、蓮をしっかりと見つめた。



「正直に言うとね。俺も分からないんだ。」

「え?」

「君は、恋愛に対してものすごく否定的だし、不破君への執着だって半端ない。常軌を逸していると思う時もある。」

「!?ショータローへの感情は執着ではありません!!嫌悪です!!憎悪です!!殺意です!!」

「ほら、名前を出すだけでそんな風になる。」



 尚の名前が出た途端に、鬼のような形相になり、オドロオドロしいオーラを放ち始めたキョーコの額を「ぺチリ」と軽く叩いて、蓮は溜息をついた。



「確かに面倒な子だよね、君は。」

「すっ、すみません。思わず……。」

「まぁ、こと『恋愛』に関しては、俺も君のことを言えないけれど。」

「え?」



 蓮からの額への刺激により我に返ったキョーコ。額をさすりながら反省をしていたら、蓮から思いがけない言葉を聞かされる。



「だって、俺も恋をしないようにしていたんだから。…いや、恋、というより、俺個人の心に入ってこようとする人間を排除していた、というのが正しいのかもしれない。そういう意味では俺も立派な『愛の欠落者』。君の仲間だね。」



 そう言いながら、キョーコの目の前で少し寂しそうに微笑む美しい人。



「君を気にしだしたのは、随分前だったと思うよ?社さんからよく冷やかされていたからね。」

 

 クスクスと、笑いながら過去を振り返る蓮に、キョーコは一言も発することなく彼を見つめていた。



「でも、認めるつもりなんかなかった。どれだけ君を可愛いと思っても、一緒にいるのが楽しいと感じても。君を好きだと、必要だと想う心は受け入れないつもりだった。」



耳に馴染む、優しいテノールの声。 

その声が紡ぐ言葉達。

それにじっと耳を傾ける。



「幸いにして最上さんは高校生だったし、俺にとっては『子ども』として認識していい立場にいた。それも利用させてもらって、君じゃダメなんだと思おうとしたんだ。」

「敦賀さん……。」

「でもね。ちょっとでも自覚したらもう無理だった。君を好きだという感情に急速に蝕まれていって、どれだけストップをかけようとしても止まることができなかった。俺の心に侵入する君を拒むどころか、俺から追いかけるような愚行もした。」



 目を瞑り、静かに語る蓮はとても美しかった。…けれど、その美しい彼が語る話の『彼女』が自分であるとは全然思えない。

 

思えない、というのに。どうしてこんなに、心が暖かくなってくるのだろう?



「何がきっかけ、ということはなかったと思う。そもそもどんな感情も、『きっかけ』を探すのは難しいと思うよ?それが友情にしろ、恋情にしろ、ね。」

「…………。」

「君と出会って、反発して。でもその後、色々な事があってお互いの誤解を解いて認めあった。そして一緒に困難を乗り越えて……。そんな日々の中で、俺は『最上キョーコ』さんに恋をした。」

「………。」

「こんなことしか言えないけれど……。これじゃ、不満かな?」

「いっ、いえっ!!」



 首を左右に振り、否定するキョーコに蓮は瞳を開けて微笑んでみせた。



 今、話してくれたことは。

 多分、具体的な理由を連ねてくれるよりも深い、根本の部分にある話なのだと、思う。

 そんな風に彼から想われている、記憶のある『最上キョーコ』が、なぜだか羨ましく感じた。








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