「じゃっじゃ~~ん!!」
掛け声とともに、衣装の帯どめの間からガマ口財布を取り出した。蓋を開けると、ポロリと転がり落ちてきたのは、悲しい色の碧い石。
「大丈夫、大丈夫……大丈夫……。」
両手で握りしめ、額に当てる。幼い頃から泣きたいことがあるたびに頼ってきた悲しくて優しい碧い石。辛い気持ちを取り除いてくれる魔法の石に、私はいつもの呪文を唱え続けた。
「私は大丈夫……もう、大丈夫……全然、大丈夫……」
さっきのシーンは、監督が撮り直さないというのなら、使われる方としては納得するしかない。でも、もう二度と同じことを繰り返してはならない。
だって……。
「大丈夫、私には…コーンがついているもの。」
問題は休憩の後のシーンなのだから。
今までの中で、一番厳しいシーンの撮影が、この後、はじまる。
想像をすると身体が震えて動くことを拒否してしまう。
私が『最上キョーコ』だからこそ、恐れてしまうシーン。いくら私が『ティア』であろうとしても、きっと『最上キョーコ』が出てこようとするだろう。役と同化してしまうタイプの役者である私だからこそ余計に。
……でも、きっと誰よりもリアルに演じることができるのも、私だろう。
うまく、演じることさえできれば……。
……大丈夫。できるわ。だって、私にはコーンがついている……
「……ね、コーン。」
そっと開いて見つめる碧い石。
大丈夫。コーンはきっと、『私』の恋心さえも吸い取ってくれる。辛い気持ちや悲しい想いは全て受け入れてくれる魔法の石なんだもの。この子がいれば私は大丈夫。1人でだって立っていける。
―――最上さん……?……大丈夫……?―――
尊敬する先生の指導のもと、クオン少年を演じる前に悩んでいた時。声をかけてくれたたった一人の男の人。
―――君がすごく悩んでいそうだったから―――
いつも優しい言葉をかけてくれる先輩。尊敬する、とても大切な人。
私はいつの間にか、あの方に甘えることを知ってしまった。でも……。
私は、1人で立たなければならないんだ。1人で、ちゃんとこの役を演じきってみせる。
信頼と、そしてあふれるほどに育った愛情を全て込めて、私はコーンにキスをした。
撮影再開まで後数分。
「力を、貸してね。コーン。」
コーンには、敦賀さんにかけられた魔法がある。
それを意識的に無視しながら、私はコーンをもう一度強く握りしめた。