……ダメ、だな。本当は私1人でなんとかしなくちゃいけないのに。こんな不安なんてふっ飛ばしてしまって、『京子』として立っていなければならないのに……。それなのに、この仮面はなんて弱いんだろう。
けれど。『京子』でいなければ。彼に支えられずとも、どんなシーンでも終われば笑顔で労い合える…そういう『私』にならなければ、きっと立っていられない。
「よ~~し、それじゃあ始めるぞ~~~。全員位置につけ~~~。」
「はい!!」
監督の間のびがしている声掛けに応じ、全員が立ち位置につく。
今。『ティア』には『カイル』がいない。だからこそ、『京子』に『敦賀蓮』という支えがあってはいけない。
……気を、引き締めなければ……
その決意を新たに始まった、シーン。カイルのいなくなったパーティでアルセアの洞窟へと入る。
『あなたたちは一体、この世界に何を望むの?なぜ争うことを考えるのっ!』
『ほほう、面白いことを尋ねる人間だな。ならば、この世の最後に教えてやろう。我らが望むは闇の支配。暗黒と力だけがこの世界のすべて!…そう、あのお方ならそれが叶えられるのだから。』
それまで話すことができなかった『敵』と言葉が通じる驚き。
通じたとしても、心が通い合わない絶望感。
そんな中で、支えになっていた人は…黒い甲冑を着た、背中を預け合えたあの人は、いない。
だけど……。
『そいつは右胸が急所だ。慌てなければ仕留められる。』
声が、聞こえるのだ。『傍にいるよ、守るよ』と、言っているかのように、ティアが愛した男は、彼女の傍にいる。
『魔王……。世界が闇に堕ちているのは、魔王のせいなんだわ。』
『行こう、魔王を倒しに。』
パーティの全員がそう決意をする中、ティアである私だけが、違う感情に苛まれていた。
……なぜ同じ人が争わなくてはいけないの?闇の眷属だって、貴方みたいに優しい人がいるのに。どうして人が魔物と手を結ぶの……?
知っているのなら、教えて欲しかった。…今、ここにいない人に、愛しいあの人に、聞いてみたかった。