拍手お礼~それが二人の生活(22)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

(伝説のおわり②)


「ご、ごめんっ!!最上さん!!本当にごめん!!」

「簡単に蒸し料理ができたり、包丁がなくても皮むきができるものさえあれば、ちょっとは料理に興味を持ってくれると思ってっ!!でも、私じゃお金がなくて、道具を揃えきれないからっ……!!」

「うん、そうだね。ごめんね、あの…ちょっと泣きやんでもらってもいいかな……。」

「だけど、この1ヶ月間の練習でも、敦賀さん、料理の才能が全然ないし、卵もろくに割れなかったしっ!!」

「うん。でも君のおかげでなんとか卵は割れるようになったよ?」

「でも、相変わらず炒め物したら焦がすしっ!!用意している調味料入れるだけなのにヘンテコな味になるしっ!!」

「……うん。それは何と言うか…。ごめん、何が悪いのか俺にもよく分からない……。」



 でも、焦げようがまずかろうが、キョーコは眉に皺を寄せながらも完食してくれた。それがどれほど嬉しかったかは、少女には分かっていないだろう。



「うぅ~~~っ!!敦賀さんっ!!ちゃんと自分の身体を労わってください!!」

「うん、分かった。ちゃんとご飯を食べるよ。」

「それだけじゃダメです!!ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと休みをとって……」

「うん、うん分かった。」



 泣きだしたキョーコは、もう訳が分からなくなっているようだ。追い詰めてしまったのは蓮だけれど…。その涙でぐちゃぐちゃの顔さえ可愛いものだから困ってしまう。



「それで、誰よりも幸せになってください!!」

「っ!!」



 怒鳴るような口調でキョーコが、「うわ~~ん!!」と大泣きしながら言った言葉。その言葉に、蓮は呼吸をするのを忘れてしまった。



「敦賀さんは、幸せになるべきで…☆○△■♪×……」



 その後は、何を言っているのか分からなかったけれど。恐らく、蓮の身体と心を心配する、彼女の優しい想いであったはず。



「分かった、分かったよ。最上さん……。」



 蓮はたまらず、隣で泣きじゃくりながら一生懸命に何かを訴えかけてくる少女を抱きしめた。

 

とたんに広がるのは甘い香りと、柔らかくて温かい感触。

 何にもかえがたい、幸せなぬくもり。



「キョーコちゃん……。」

「はい……。」



 しばらく、お互いのぬくもりを分け合って。やっと泣きやんだ愛しい女の子の名前を、蓮は久しぶりに口にした。

 それは音として聞く限りでは、彼女の芸名と変わらない響きだ。でも、蓮の中では懐かしくて胸が苦しくなるほどの大切な名前で…。



 呼びかけた瞬間に、今まで切れることなく、耐えに耐え抜いてきた想いが、溢れだして止まらなくなるのが、自身でわかった。



「せっかく俺のためにがんばってくれた一ヶ月間だけれど。諦めてもらってもいいかな?」

「へ?」



 穏やかで幸せそうな響きの声。今まで聞いたどんな時よりも甘く美々しい彼の声は…。

 キョーコにとってはとんでもない発言だった。



「代わりに、君からしかもらえない、とっておきのプレゼントを俺にちょうだい?」

「わ、ワタクシメから敦賀サマに、デスか……?」

「うん、そう。」



 キョーコは感じた。今、彼女がいるところは、とても心地よくて一番安心できる場所のように感じていたけれど…。そこはどうやら、少女にとって、この世で一番キケンな領域なのだと。



「俺に、プレゼント……くれる?」

「…………。」



 感じ取ったのに。なのに、キョーコは見てはいけないものを見てしまった。

 それは強烈な熱を持った、彼女を求める、オトコの瞳。

 見てしまったが最後。まるでメデューサに覗きこまれた人間のように、カチンと固まって動けなくなってしまった。



「キョーコちゃん?教えたよね。…黙っていたら、都合のいいように解釈しちゃうよ?」

「っっっっ!!」



 言いたい事はあるのだ。この危機的状況から逃れたいと、身体中の細胞が叫んでいる。

 なのに……



「もらっても、いい?」

「~~~~っ。」



 言葉が、出ない。抱きしめられる力が強まっても、抗うことが全くできないのだ。



「ありがとう。大切にするよ。もちろん、一生ね?」

「っ!!!!????」



 ふわりとキョーコの身体が宙に浮いた。先輩俳優の腕の中にすっぽりと収まってしまったキョーコは、盗賊や海賊に攫われてしまった姫君のような壮絶な表情だったけれど。

 …彼女を抱き上げ、寝室に連れ込もうとする男の表情は、「姫君を救いだした王子様」のような紳士的で、何より幸せいっぱいの笑顔であった。



「…と、いうわけで。社長。あなたのお望み通り、『お触り厳禁』、破りますね?」

「ひぇ!?」



 寝室の扉を開けて中に入る直前。蓮はリビングでまわり続けるカメラに向かって、エセ紳士炸裂のキラキラ笑顔を浮かべた。その笑顔にやっと呪縛を解かれたキョーコは、悲鳴を発することに成功した。



「つ、敦賀様!!お目をっ、お目をお覚ましくださいませっ!!きゃ~~っ!!こんなの夢よ、幻よ~~~!!」

「うんうん、これから二人で、素敵な夢をみようね?」

「いっっっや~~~~~…んぐっ!!??」



 …中途半端に切れたキョーコの大絶叫が聞こえた後。寝室の扉は無情にも『バタンッ』と閉じられる。



 その後、『お触り厳禁』を破った彼が彼女に何をしたのかは……。



 敦賀蓮最大のスキャンダルを放送することになった番組側も、当の本人たちも。…一切語ることはなかった。




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