かけがえのない日々~恋敵(3)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「ハッ!つまりそういうことかよ。」



 なのに、目の前の格好悪い『業界一ホニャララな男』は。



「お前の中のキョーコなんて、大した存在じゃねェんだな。」



 他人に。しかも、ライバルである尚にまで世話を頼むほどの想いしか、キョーコに抱いていないのだ。



「あ、さてはお前、キョーコが面倒くさくなってきたんじゃねェか?」

「…………。」

「確かに面白くもねェよなぁ。今やあいつはお前のことなんてきれいさっぱり忘れて、俺しか見えてねェ女になっているわけだしな!!」



 病院で目を覚ましたキョーコは、尚しか見ていなかった。呪い殺しそうなオーラを醸し出しながら、他の誰ひとりとして瞳に映さず、尚だけを見ていた。



「実際、あいつは面倒くせぇ女だよ。一つのことに集中しやがったら、他に見向きもしねぇからな。」



 過去、常に金魚のフンのように尚に付き従っていた少女。当時のキョーコは本当に鬱陶しかったものだ。



「まっ、結局あいつには俺だけしかいないってことだよな。いいぜ、あんたがそこまで頭下げるんなら、あいつを貰い受けてやっても。」



 キョーコは結局、尚のものなのだ。汚されようが何をしようが、尚のものであると決めていた少女は、結局綺麗なまま、尚の元へと戻る運命なのだ。



「……オレだって、お前とキョーコちゃんを会わせたくない。」

「あぁ?」



 キョーコが戻って来ることを確信し、笑みを浮かべた尚の耳に。

 

聞こえた、声がある。



 小さくて…そして、低く、掠れた声だった。



尚の耳だからこそ、聞きとれたと言えるのかもしれない。



「病院でお前を殴ろうとした時、オレはお前を殺すつもりだった。」



穏やかな春の日差しのような、人気絶頂の俳優、『敦賀蓮』。

その『敦賀蓮』が口にしているとは思えない声色の変化と、口調の変化だった。

 だが、それらは全て、確かに尚の目の前で平伏し続ける男の口から放たれる言葉だった。



「……なんだよ、メチャクチャ物騒なこと言うじゃねェか。」

「本当にな。だが、オレは本気だったよ。」

「…………。」



 ゴクリ、と自身の喉が鳴るのが分かった。「冗談だろう」、と笑ってみせる事も出来ず、尚は目の前で頭を下げる男をただ見つめる。



 『あの日』。キョーコが歩道橋から突き落とされ、入院をしていると聞いた、あの妙に晴れ渡っていた日。



 挑発した男は逆上し、殺意のある目で尚を睨みつけた。



 その瞳は、眼光一つで相手の息の根を止めてしまうほどの殺気と狂気に塗れていた。

 

……この男は鬼畜だ……。



甘いマスクと作り上げた穏やかな雰囲気に誰もが騙されているが、目の前の男の正体はそんな生ぬるい存在ではない。彼は一度化けの皮を剥がせば、獲物を喰らいつくし、骨も皮も切り売りしてしまう畜生だと直感したのだ。



 そのことを、忘れていたわけではない。









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