「いやぁ。大人になったなぁ、蓮君。」
「ありがとうございます。」
「そんな蓮君のために、俺はひたすら『京子』からお前を引き離すからな?任せておけ!!」
セバスが正式にキョーコのマネージャーにつくことが決まった時、蓮が社とセバスに願い出たことがあった。
それは、『敦賀蓮』から『京子』を引き離すということ。最上キョーコに、そして『京子』の隣に、今最も相応しくない男を排除することだった。
それが今の蓮にできる、キョーコと『京子』を守る最善の方法。そう、蓮は考えたのだ。
「……。…こういう時、信用に足る力量を持つマネージャーって、困りますよね。」
「何なんだよ!!やっぱりお前、辛いんじゃないか!!一緒に暮らしているくせに贅沢言いやがって……。」
「そうは言っても、家でもそうそう会えないんですよ?生活時間がずれてますからね。あの子に夜中まで起きておいて欲しいなんて我儘、言える立場じゃないですし。」
「そりゃそうだな。っていうか、キョーコちゃんには女の子としても芸能人としても、健康と肌の管理のために早寝早起きして欲しい。そこは蓮を無視して徹底して取り組んでほしいところだな。」
うんうん、と何度も頷きながら言う社の言葉は、芸能人として当然気遣うべきことなので、蓮も何も言えない。
「…はぁ~~~…。何で俺は『敦賀蓮』なんだ。」
「お前ね。どういうボヤキだ、それ?」
長い長い溜息をついて呟かれた蓮の愚痴。尋ねたものの、気持ちは分かるような気がした社は、ポンポン、と相棒の肩を叩いてやる。
「まぁ、お前がフェミニストすぎた、ということが原因だし、無駄にフェロモン垂れ流しで女の子をメロメロにさせるのも要因だ。」
「……俺は普通にしているつもりですが。」
「その普通は日本男児においては普通じゃない。…ま、お前に『日本男児』が何かなんて今更語る気もしないがな。」
「身にしみついたモノはどうしようもないさ。」と呑気に笑って言うマネージャーを不満げに睨みつけた後。…蓮は、空を見上げた。
「今日は、快晴ですね。」
「そうだな。」
『あの日』のような、いい天気だった。
……蓮の前から1年間かけて関係を築き上げた『最上キョーコ』がいなくなった『あの日』……。
「今日は暑くなるぞ~?気を引き締めていくぞ!!」
「はい。」
でも、あの日から着実に日々は移ろいでいた。過ぎゆく時の中で、肌に感じる太陽の日差しの強さが変わり。社や社長、マリアや奏江……記憶をなくしたキョーコとの関係も、変わっていく。
それは、蓮自身においても。
「…………。」
―――あなた、妖精!?―――
幼い日。目にいっぱいの涙を溜めた可愛らしい少女が言った、あの懐かしい日。…少年だった『彼』が得た、うだるように暑く、だが、かけがえのない日々。
もうすぐ、あの日々と同じ季節が、くる。
「よしっ。」
蓮は大きく息を吸い込み、小さな声で気合を入れると、社と共に車の中へ乗り込んだ。