(sideキョーコ)
「君のことが、好きなんだ。」
その言葉は、突然私に向けて告げられた。
食事事情が杜撰な先輩俳優を心配して、いつものように訪れたマンションのリビングルームで。一緒に夕飯を食べていたら、神妙な顔をして彼は……。
現実にはあり得ないと思っていた『愛の告白』を、私にしてくださったのだ。
*****
「敦賀さん、喜んでくれるかな?」
TBM内。私は敦賀さんのために作ったお弁当を抱えて、彼の楽屋に向かっていた。
―――君のことが、好きなんだ。―――
「っ!!」
1ヶ月前、突然告白をされた。いきなりすぎてすぐには理解できない私の手を握り、あの芸能界1イイ男である彼は、私にその『愛の告白』の返事を求めた。
……そんなの、答えなんか一つしかないのに……。
「ふふふっ。」
私の答えに、目を見開き、瞬時に頬を染め…ふにゃりとにやけた敦賀さんの表情が忘れられない。男の人に失礼かと思ったけれど、あまりにも可愛らしかったから。
それにしても、敦賀さんの想い人が私だとは思わなかった。だって、あの天下の敦賀蓮なんだもの、あんな人が私みたいな平凡地味女を好きになるだなんて思わないじゃない?
天地がひっくりかえってもあり得ないと思っていたのに……。
なのに、現実として。私と敦賀さんはお互いを想い合っている。
「……クスクスクス……」
堪えられない感情が、笑い声として口から零れ出る。
最上キョーコ歴17年。恋をしないと誓いながらも、その誓いを1年とちょっとの間で覆され、絶望した日もあったけれど…。まさか殿方と両想いになれる日がくるとは思わなかった。
私っ!!なんだかそれだけで本当に幸せっ!!!!
「もう、信じられない!!あの胸だけバカ女~~っ!!」
「本当ね!!あれぐらいの顔と身体で、よく敦賀さんに近付こうなんて思うわよ!!」
敦賀さんがリクエストしてくださった、お弁当作りはこれでもう2週間続いている。毎日嬉しそうにお弁当箱を受け取ってくれる敦賀さんの顔を、今日ももうすぐ見られるはずだった。
「敦賀さんにはねっ!!業界1のイイ女でももったいないくらいなんだから!!」
「本当よ、敦賀さんと釣り合いのとれる女の人なんて、今の業界にはいないくらいなんだから。」
「そうよ、敦賀さんは皆の敦賀さんなのよ!!なのに、単なるドラマのヒロインだからってあんなに慣れ慣れしく近づいてっ!!あのバカ女が~~~!!」
でも、その道すがら出会ったのは、ナイスなバディの美しい20代前半くらいのお姉さん方だった。未だに芸能界に疎い私には何というお名前の女優さん方なのか分からないけれど、今敦賀さんが主演しているドラマによくでている人たちだった。
そして、そのお美しい女優さんたちが怒り心頭で罵っているのは……。
「……でも、確かヒロインの真砂さんって……。」
22歳の可愛い雰囲気の女の人。敦賀さんと今期のドラマで職場の上司と部下以上恋人未満な役柄を好演している人だ。確か『お嫁さんにしたい芸能人』№1の座を掴んでいる超人気の女優さんのはず。
今、真砂さんのことを罵倒しているお三方のほうが…申し訳ないけれど、敦賀さんの隣に相応しくないと思ってしまう。