「……おい、蓮。お前、何やっているんだ?」
「何って、母の日のプレゼントを探しているんですよ。」
5月10日、木曜日。俺は後3日に迫った『母の日』を前に、女性誌を片っ端からかき集め、読みふけっていた。
「…へぇ~~、そうか。結構ギリギリになって探しているんだな、お前……。」
「俺は花を贈る手配、終わっているもんねっ!!」と得意げに言う社さんを無視して、俺はひたすら『母の日』特集の記事を読み漁っていた。
時間は刻一刻と過ぎて行く。ここまできたらいつもの紳士面で社さんの相手などしている場合ではない。
…違う、これだけではダメだ。…これなら…。いやいや、でも、これだって捨てがたいし…。
「……蓮……。」
「何ですか!?俺は今忙しいんですよ!!」
「…いや、分かっているがな?お前、どれだけ付箋つけるつもりなんだ……?」
欧米の女神と東洋の女神…美しく聡明な二人の女性を思い浮かべると…似合うものが多すぎて、一体何を贈ったらいいのかが分からない。
しかし、妥協は許されない。なぜならば、俺はあの強く気高く美しい女神たちの逆鱗に触れてしまったのだから……!!
何としてもご機嫌を取らなければっ!!
「お前、母親にどんだけの物を贈るつもりだよ。」
「ほっといて下さい!!これには今後の俺の人生を左右する重大な問題が潜んでいるんです!!」
ギロリ、と睨みつけて訴えると、社さんは心底怯えた表情をした後…「あ。…そう…。」
と言いながら、控室の扉の方へと後ずさる。
「とりあえず、休憩が終わりかけたら呼びに来るから。気合を入れるのはいいが、ほどほどにしておけよ?」
それだけ言うと、社さんはそそくさと控室を出て行った。
「……さぁ、どうする……。どうする、俺っ!!」
ここで選択を誤ると目も当てられない。俺の将来全てをかけた初めての『愛しい少女の母親』達へのプレゼント選びは、今、始まったばかりだ。
*****
世界に溢れる、童話達。
幼い子どもが読んで、夢に見るキラキラとした優しくも輝かしい物語の中では、大抵のパターンが決まっている。
窮地に立たされた『姫』はいつも『王子』に助けられるのだ。
俺が幼い頃に出会った初恋の少女も、童話好きな女の子だった。
彼女も、運命的に出会い、窮地を助けてくれる『王子様』に憧れていた。『王子様』がガラスの靴を持って来てくれるのを待っていた女の子だった。
…そして俺は。この『王子が姫と出会い、助け、守り、愛する』という図式をいつの間にやら物語の絶対条件だと決めつけていたのである。
でも。
現実は違う。例え姫を守りたい王子が数多いたとしても、姫を守る存在は王子の他にもいるのだ。
そしてその守護者としての究極の存在は…『母親』、なのかもしれない。
(姫を守るは…FIN)