(お買い物は戦争です②‐1)
『敦賀蓮』は超セレブだ。
例え本人がコンビニおにぎりを昼食にしたり、一流コックの料理より某女子高生の手料理のほうが世界で一番おいしいと思っているとしても、彼は『セレブ』の名に相応しい著名人であり、ついでに言うと財力もあるゴージャスターなのである。
「あ~!!やっぱり遅かったわ~~~!!」
そんな彼は。
庶民的なスーパーがどのような場所か…。全く、知らなかったのである。
「……え~~と。今から何が始まるの?」
「え?タイムセールですよ?」
蓮とキョーコが辿り着いた、マンションより少々離れた某スーパー。その駐輪場付近に二人並んで立ちながら、蓮はキョーコに尋ねた。
「すごい人だかりだね……。」
「えぇっ!!今日は特価セールですからねっ!!そりゃあ、主婦の皆さんの血が騒ぎますよ!!」
平日の夕方間近。蓮はこれほどまでに大規模な人だかりを作る場所が、休日の人気スイーツ店やテーマパークといった類の他にあるとは思っていなかった。ゆえに、その光景は衝撃を蓮に与えた。
「やっぱりあの作戦でいくしかないわね…。さぁ、敦賀さんっ!!これからよろしくお願いしますっ!!」
「う、うん……。」
「むんっ!」と気合を入れて、駐輪場に自転車を止めようと移動するキョーコ。そのキョーコと共に歩きながら…蓮は、もう一度スーパーの入り口付近を見つめる。
「…何か、殺気を感じるのは気のせい?」
「ええ。それだけ皆さん、本気だということです。」
「そうなの?」
「はい。でも、まだ嵐の前の静けさですよ、こんなもの。」
「そうなのっ!?」
「えぇ。時間になった瞬間に、あの軍団が一気にスーパー内に駆け込んでいくわけですから。」
平然と言ってのけるキョーコに向けていた視線を、スーパーの入り口に戻す。
そこには。もはや戦闘態勢に入っている女性の軍団がある。
「すっ…すごいね……。」
「何を言っているんですか、敦賀さん。人間にとって、衣食住は大事なんです。毎日の生活に関わってくる『食』はいかにいいものを安く仕入れ、美味しく食べるかが問われるわけですから、その食材確保の場であるスーパーが戦場になるのは当然ですっ!!」
「そう…。」
ここにきて初めて、蓮は自分自身の考えの甘さを認識した。
『買い物』=『戦争』。この方程式はセレブリティー敦賀蓮の中にはなかった。
…結局、買い物デートというわけにはいかないか…。
残念に思いながらも、蓮はキョーコが止めた自転車の隣に止めようと、自転車を移動させる。
「あ、敦賀さん。敦賀さんは自転車に跨ったままで結構です。そのままお待ちください。」
「え?」
「これは円滑かつ的確に買い物をすませるためのとっておき必殺技ですので!!」
キラリ、とキョーコの瞳が煌めいた。思わず見蕩れてしまうほど、美しい瞳だった。
だが…。
なぜだろう、悪い予感しかしない……。