かけがえのない日々~告白(1)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 過去は、なくなるものではない。



―――幸運よ、再び―――



 どれだけ悔み、嘆いてみても。



―――さらなる幸運を連れて、クオンの元へ訪れよ―――



 過去は、戻れるものではない。



―――いつの日もクオンが永遠に―――



 どれだけ望み、願っても。



―――幸福であるために―――



 でも、幸せを望むことはできる。…犯した罪は、身を切り裂くほどの罰を与えるものであったとしても…。一度は闇に沈み、全てを放棄しようとした身であったとしても…。

それでも、幸せを望むことは…できる。



―――時間は無限じゃないんだよ。立ち止って悩む暇があったらまず動け―――



 全てを破壊するための暴挙の中で失った『幸福』は、戻らない。…戻せるものならば、この身と引き換えでも構わないと、ずっと思ってきた。



―――俺に悪いと思うなら―――



 でも、そんなことが叶うはずもなく…。まるでその罪を償うかのように止めた『クオン』の時間。

その『時』は、『敦賀蓮』として別人になりすまし、生きてきた中でも少しずつ…だが、確実に動き始めていた。

蓮もクオンも、気付かないところで。



―――立て、クオン―――



 過去、彼がくれたその言葉達は、今、この瞬間のために用いられた言葉ではない。あの時に発破をかけてくれたのは、違う理由によるものだ。それでも……



……リック……



「つっ、敦賀さん……?」



 握りしめた右腕。…いつの頃からか、犯した『罪』によって心が蝕まれる時、まるでそのことから目を背けるように握りしめるようになった。

色が変わるほど強く右腕を圧迫する左手。いつもこうして、たった一人、訪れる『闇』にあらがってきた。

ただ胸に広がる激痛に耐え、迫りくる闇に飲まれぬように息を潜めるだけのこの瞬間に…今は、そっと触れる温もりがあった。



「…君のことが……」



 困惑した表情のまま、蓮の左手に両手を添えてくれるキョーコ。痛みに寄り添うように…苦しむ心を包み込むように…共にいてくれる、存在。

 渦巻く後悔も、犯した罪も知らないのに…いつでも少女はもがく心の傍にいてくれる。闇を照らす、光となってくれる。



「好きなんだ……。」



 心が、震えていた。込み上げる感情そのままに、震える声で伝えた。掠れた小さな声だった。だが、その言の葉は、確かに空気を震わせ、音となる。



「えっ……」



 添えられる手が、ビクリと跳ねるのが分かった。それでも、蓮の手に触れる小さな手は、温もりを蓮に与え続ける。蓮は、右手首を握りしめていた左手を外し、代わりに小さな温もりを包みこんだ。

 優しく、壊れやすいものをくるみ込むように。



「敦賀さん……?」



 不安そうに見つめてくるキョーコ。

優しい少女の手を握り、まっすぐに見つめて、蓮は出来うる限り優しい笑みを浮かべようと努めた。だが、溢れ出る様々な感情に支配された、涙に濡れた蓮の表情はこわばり、うまく笑うことができない。



 それでも…今、伝えたい言葉がある。どうしても、届いて欲しい声がある。



「君が、好きなんだ。」



 陳腐な言葉に、ありったけの心をこめて呟いた一言。ニ度目に伝えたその声は、蓮自身が驚くほど優しい響きを持った、しっかりとした声音だった。








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