「本当に、京子さんのことがお好きなんですね。」
「……えぇ。……まぁ……。」
コクコク、と何度か頷きながら肯定する言葉も、紳士らしくない思春期真っ盛りの少年のようだ。業界1の人気を誇る俳優のあまりに可愛らしい反応に、吹きだしたくなる。
「気にせず笑い飛ばしてくれて構わんぞ。この恋愛下手のヘタレ野郎にはいい薬だ。」
「!?社長っ!!」
「ま~~ったく、こんなデカイ図体した立派な男が、今更初恋ってどういうこった!!えぇ!?」
「!?はっ、初恋!?」
「社長っ!!」
宝田社長からあっさりと飛び出た言葉に喰いついた私。そして、そんな社長の言葉に慌てふためく敦賀蓮。
「聞いてくれ。この野郎、こんなナリのくせに、20歳にしてやっと初めて好きな女ができたんだ。」
「ちょっと、何を話しているんですかっ!!」
「恋も愛も知らねェ青臭いガキのくせしやがって、女をとっかえひっかえしていた時だってあるんだ。信じられねェバカ男だよな!!そんでもってやっとできた好きな女には小学生みたいなイジメはするし、ねちっこい嫉妬はするし……」
「やめてくださいっ!!」
宝田社長は、敦賀蓮が止めようとするのを完全に無視して、怒り7割・からかい3割という感じの、複雑な表情で私にトップ俳優の暴露話を始めた。
「え、え~~と。……つまり、敦賀さんの初恋の女性は…京子さんだと思っていい、ということですか?」
「うっ…そ、その……まぁ。……はい。」
「な~に煮えたぎらねェ返事してやがる!!返事はしゃきっと言いやがれ!!『俺は20歳にして初めて恋に落ちました』はい、複唱!!」
宝田社長が怒りとからかいの割合が複雑な表情を浮かべたまま、とんでもないスクープを口にし続ける。…なんと、『業界1イイ男』、『抱かれたい男№1』の彼が、初めて恋に堕ちた相手が京子さんだというのだ…!!
「違いますっ!!」
驚きのあまり、凝視した先。…頬を真っ赤に染め、綺麗に整えられた眉を吊り上げながら敦賀蓮は、事務所の社長に反論した。
「はぁん??じゃあ、何か?お前、他に本気で好きになった女がいるってぇのか~~??あ~~ん?」
「そんな人はいませんよ、失礼なっ!!でも、俺がキョーコちゃんを好きになったのはもっとずっと前の話ですっ!!」
話す口調や行動がどんどんと…紳士で切れ者の穏やか青年のものから、思春期丸出しの少年みたいになっている…。なんというか、普段の『敦賀蓮』とのギャップがありすぎる状況に、ちょっとついていけなくなりそうだわ……。
「はぁ?…ずっと前…だってぇ??」
社長さんが驚いたように目を見開く。その目を見て、敦賀蓮はきっと我に返ったのだろう。小さな声で「しまった…」と呟き、そのまま事務所の社長から視線を外し…口を噤んだ。