かけがえのない日々~天使(2‐1)~ | ななちのブログ

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馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「やっと、認めましたわね?」

「……そうだね……」



 マリアの目の前には、一人の青年がいた。いつもは背筋を伸ばし、たくさんの人々の視線を集める誰よりも自信に溢れた輝かしい人だ。でも、今視界に映る男は、ラグに座り込み、俯き加減になっていた。

 穏やかに優しく微笑むその綺麗な漆黒の瞳は、瞼の奥に隠れてしまい、その存在が見えない。自信に満ちあふれていた大きな男は、やけに小さく弱々しく見えた。



「蓮様。」

「なんだい?」



 マリアの呼びかけに応じ、瞳を開く青年。



 ―――…必要なんだ。どうしても、欲しいんだ。―――



 彼は、マリアの王子様なのだと思っていた。いつか愛の言葉を交わし合い、生涯を共にする相手だと思っていたのだ。

 だが、マリアが想う相手が愛を乞うたのは、違う女性だった。

 

そんなこと、許せるはずがない。

1年前のマリアならば、そう思ったはずなのに…。



―――ごめんね?マリアちゃん。―――



 姉と慕う人が、申し訳なさそうに眉を寄せ、マリアに声をかけてくれたのはもういつの頃になるのだろう?あれは、そう。その女性が、マリア達との過去を失ってしまう日の、朝。

 気持ちがいいほどの晴天だった。全てが許される。何もかもがうまくいくと、そう神様が言っているような、そんな清々しい朝だった。



―――マリアちゃんのこと、もう応援してあげられないの―――



 まるで懺悔をするように語るキョーコの表情には、苦痛が見て取れた。だから、マリアは姉と慕うその人の手を取ったのだ。すると、キョーコは笑ってくれた。まるで絵画の中で慈愛に満ちた微笑みを浮かべる女神様のように。



―――私、敦賀さんのことが、好きなの……―――



 キョーコの告げた言葉に、マリアは驚きで目を見開いた。

でも、心のどこかでは、納得していたのだ。

 キョーコは、綺麗になった。出会った時の黒々としてオーラは徐々に薄れ、代わりに匂い立つような美しさと、輝かしい光のオーラを身に纏い始めていた。その彼女を取り巻く光は、蓮といる時に最も美しく輝く。



―――ごめんなさい……。でもね、マリアちゃん。私ね……―――



 何も言えないマリアに、キョーコは泣きそうに顔を崩し…マリアをぎゅっと抱きしめてくれた。



―――マリアちゃんのことも、大好きなの……―――



 「応援してあげられなくて、ごめんなさい。」と、涙声で言ったキョーコ。そんなキョーコに、マリアも抱きついた。



―――……いいのよ、お姉様……―――



 あの日。黙って抱き合うことしかできなかった、当時の『最上キョーコ』との触れあいの際に言えなかったことを、マリアは心の中で呟く。



―――いいのよ、分かっていたことなんだから……―――



「私、蓮様のこと、お慕いしていたのよ?」

「……。うん。ありがとう、マリアちゃん。でも…、ごめんね?」



 マリアの告白に、眉を寄せ、申し訳なさそうに断りの返事をする蓮。



「即答、なのね。」

「うん。…ごめん。」

「ううん。分かっているから。…いいの。」



 『ごめんなさい』と謝ったキョーコ。そして、今目の前で『ごめん』と謝る、蓮。



「私はね、まだ子どもなの。」

「…………。」

「でもね?お姉様も、蓮様も。…私のこと、ちゃんと一人の人間として接してくれるでしょう?」



 まだ二桁にも達していない年齢。背伸びをしても、到底届かない『大人』達。どれほど追いつきたいと願っても、それは適わない。

 『大人』達の多くは、子どもであるマリアを『子ども』として相手をした。けれど、キョーコと蓮は違ったのだ。



 蓮に向ける恋心を。胸を締め付けられる憧れと、出会うことで得られる喜びを、二人は認めてくれていた。父が恋しい幼い少女の、勘違いだとは一度として言わなかった。



「だから、蓮様は今、私にちゃんと断って下さったのよね?私が子どもだからじゃなくて、一人の女として、見る事はできないって。」

「うん。申し訳ないけれど、マリアちゃんを女性として好きになることはできない。」



 だから、蓮は残酷なほどきっぱりと、マリアの想いを断った。子ども騙しのあやふやな答えなど言わずに。



 ―――大好きな、お姉様。……大好きな、蓮様……―――



 蓮の隣に相応しいのは、大人になった自分自身だと信じてやまなかった。…まだ、不似合いかもしれない。でも、「きっと後10年もしたら」と、思っていたのだ。けれど、不確かな10年先の自分よりも、誰よりも蓮の隣が相応しい人と、出会ってしまった。



「まぁ、今の蓮様を見ていたら、100年の恋も醒めるってものよねぇ。全く、残念なお姿……。」



 はふぅ…と、大げさに溜息をついて、そんなマリアに苦笑する蓮に視線を向ける。

 蓮の断りの言葉に傷ついているか、と言われたら、きっと傷ついている。だって、胸がとても痛くて苦しい。

 でも…。でも、笑ってみせるのだ。この恋を終わらせて、大好きな人達の幸せを祈るために。



「そんなダメな蓮様に、お姉様と仲良くなれる、大事なアドバイスをしてあげるわ。」



 マリアは満面の笑みを浮かべ、蓮に言った。






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